スペインの銘醸地リベラ・デル・ドゥエロの至宝「ベガ シシリア」は、時間を意味する“テンポス”を冠した「テンポス ベガ シシリア」が正式名称だ。時を重ね、創業から160年目の2024年、ゼネラルマネジャーのアルベルト・アルバレス氏と、アジア輸出担当のセサル・ロマン氏が来日し、アニバーサリーディナーを開催した。海外での祝賀会は日本と英国の2カ国のみだ。

“唯一/ウニコ”という名のプレミアムワイン

1864年に設立された「ベガ シシリア」は、ボルドーでワイン造りを学んだエロイ・レカンダが興したワイナリーで、その世界屈指とうたわれるプレミアムワイン『ウニコ』は、スペインの固有品種ティント・フィノ(テンプラニーリョの別名)と、彼がフランスから持ち帰ったボルドー品種をブレンドさせたワインである。1904年に初代ワインメーカーのチョミン・ガラミオラが木樽で長期熟成させたワインを手掛け、29年のバルセロナ万博で金賞を受賞したことで、ベガ シシリアの名は世界に知れ渡った。

[ 関連記事を読む – ベガシシリア ]

独自のワインスタイルはアルバレス家が82年にベガ シシリアを買収した後も変わっていない。パブロ・アルバレス氏が当主に就任してからは、国際化への取り組みに力を入れ、質と量の両面で飛躍的な発展を遂げた。

ベガ シシリアはその他、国内・外に計4つのワイナリーを所有している。91年にベガ シシリアから15キロメートル東に「アリオン」、2001年にはトロに「ピンティア」、09年にはバロン・エドモン・ド・ロートシルト家とのジョイントベンチャーでリオハに「マカン」を設立。国外では共産政権崩壊後のハンガリー・トカイに「オレムス」を取得。すべてのワイナリーのクオリティーをベガ シシリアと同等にすべく、アルバレス当主は惜しみない投資を行っている。

リベラ・デル・ドゥエロにあるベガ シシリアのポートフォリオは、『バルブエナ』『ウニコ』『ウニコ レセルバ エスペシャル』の3種だが、記念ディナーでは蔵出しのバルブエナとウニコが2ヴィンテージずつ用意され、オレムスの辛口と甘口を加えた計6アイテムが和食に合わせて披露された。

一夜限りの特別メニューを考案したのは雅叙園東京の顧問 石田博ソムリエ。季節感を生かした伝統的な日本料理を得意とする料理長と意見交換を重ね、フルボディの赤ワインに料理を無理に合わせることなく、ブリッジ食材をうまく使ったペアリングを完成させた。石田ソムリエが挨拶の最後に宣言していた「ベガ シシリアは和食に合うんです!」というフレーズは、初来日のアルベルト氏を大いに満足させたようだ。

ベガ シシリアのゼネラルマネジャー アルベルト・アルバレス氏(写真中)、同アジア輸出担当のセサル・ロマン氏(同右)、輸入元ファインズの代表取締役社長川村崇氏

アルベルト・アルバレス氏
サラマンカ大学で産業薬学の学位、マドリッドのIEDEでMBAを取得。組織運営や事業開発の戦略的ビジョン等の経営手腕を買われ、2023年6月ゼネラルマネジャーに就任

セサル・ロマン氏
ソムリエとしてフランスやイタリアの名店で活躍し、『ゴー・ミヨ 2015』で「ソムリエ・オブ・ザ・イヤー」を受賞。ソムリエとしての経験を生かしながらアジア圏でベガ シシリアの魅力を発信中

英国ではロンドンのナショナルギャラリーの“スペインの間”が記念ディナーの舞台となったが、日本では、和の要素が詰まった雅叙園東京の“竹林の間”が選ばれた。日本通で知られるアルバレス当主にも日本側の意図が十分に伝わったと確信できる内容だった。

螺鈿細工を好んだ創始者細川力蔵は、旧目黒雅叙園から現在の地に移転する際、補修・改修に国内の年間消費量の2年分の漆を使用した

約96年前の作品を天井画として装飾。1枚の木から彫りおこした木彫絵は接着剤を使用することなく、70種以上の草花が描写されている

『オレムス マンドラス 2021年』 × 「もろこし豆乳蒸し」
ロマン氏は「マンドラスはアルバレス家が20年前にトカイの多様な土壌と気候条件を生かして生産を開始したワイン。2021年は過去15年間を振り返って最も冬が寒かった」と解説

『オレムス マンドラス 2021年』
フルミント100%。70%はハンガリアンオーク樽で3カ月オリとともに毎週バトナージュをしながら熟成、その後3カ月静置。2023年2月に瓶詰めされたフレッシュで果実味溢れるワイン。フルミントの高い酸味に、日本の“梅(の酸)”を繋ぎ役にして強さを相殺。もろこし豆乳のやさしい食感が余韻に残る相性

『バルブエナ5 2014年』および『バルブエナ5 2001年』
バルブエナはベガ シシリアの土壌とヴィンテージの特徴を表現したワインで、樽熟と瓶熟で熟成期間が5年かかることから“バルブエナ5”と命名。「この20年間でワインのスタイルや醸造のテクニックは少しずつ進化しているが、5年熟成というアイデンティティーに変わりはない」とロマン氏

『バルブエナ5 2014年』
ティント・フィノ95%、メルロ5%。225リットルのアメリカンオークおよびフレンチオーク、8500リットルの大樽を使用。穏やかな8月と平年より暖かい9月の気候がブドウに最適な熟度を与えた。黒系果実やベリー系果実、ハーブやスパイス、口中スムース、モダンで複雑

『バルブエナ5 2001年』
ティント・フィノ80%、カベルネ・ソーヴィニヨンとメルロ各10%。2000リットルの大樽で4カ月、その後、新樽(アメリカンオーク60%、フレンチオーク40%)、最後に古樽で熟成。春の霜害と猛暑の影響で2001年のウニコは生産なし。ウニコ用のブドウ、瓶熟をしていない貴重なバルブエナ。ベリー系果実、エキゾチックスパイス、ヴァニラ、甘草、ワインに溶け込んだタンニン、豊満で長い余韻

『ウニコ 1996年』および『ウニコ 1981年マグナム』 × 焼豚角煮
約10年の熟成を経てリリースされるフラッグシップのウニコ。ベガ シシリアの元ワインメーカー、ハビエル・アサウス氏(1998年-2015年まで醸造長)が2010年に来日した折、「ウニコには①フェミニンでありながら男性的な面を持つタイプ ②古典的でフェミニン、複雑かつエレガントなタイプの2つがある」と語っていた。ちなみに当時のメモを見直すと、1996年は前者、1981年は後者。今回テイスティングした96年には十分な力強さがあり、81年マグナムは若々しさとエレガントさが見事に同居。ベガ シシリアで25年間ワイン造りに関わってきたアサウス氏の分析に納得できた。
2015年にアサウス氏からバトンを引き継いだゴンサロ・イトゥリアガ氏は、ウニコおよびバルブエナの醸造に関して、新樽を中心とした小樽での熟成期間を約1年に短縮、さらに大型熟成容器と瓶熟を重視している。結果的に、ワインは以前より精緻なテクスチャーに進化しているようだ

『ウニコ 1996年』
ティント・フィノ90%、カベルネ・ソーヴィニヨン10%。大樽で20カ月、その後、新樽で24カ月、若干使用した樽で24カ月、大樽で19カ月熟成、その後リリースまで瓶内熟成。パープルカラー、黒系果実の豊かなアロマ、ミネラルやエスニックスパイス、バルサミコ酢、凝縮感、力強さ

『ウニコ 1981年 マグナム』
ティント・フィノ65%、カベルネ・ソーヴィニヨン20%、メルロ&マルベック15%。フレンチオークで18カ月、古樽で7年、その後リリースまで瓶内熟成。黒系果実、スパイス、タバコ、オイリー、アーシー、40年超の歳月を感じさせないフレッシュさ、全体の印象はエレガントで持続性あり。カステーリャ地方の名物、豚肉を日本風にアレンジ。ジューシーでとろとろの肉質、脂分がウニコの包容力と混然一体。ウニコとバルブエナの各ヴィンテージを焼豚角煮と合わせた時の“酸味”の存在。ともに石灰岩の割合の高い区画のブドウを使っているが、ウニコは畑の上部(標高~790m)、バルブエナは畑の下部(標高640m~)。ワインの要ともいえる酸味がペアリングすることでより鮮明になった

『トカイ アスー5 プットニョシュ 2000年』
フルミント主体、ハーシュレヴェルー、ミュスカ ド リュネル。新樽で2年半熟成。2000年は長く暖かな秋のおかげで、貴腐菌は健全に発達。最高品質&高糖度のブドウが収穫できた。ゴールデンカラー、アプリコットやマンゴー、果実の甘露煮。甘味に隠れた酸味が、合わせる食材によって見え隠れする贅沢さを堪能。究極の癒やし系ワイン

2022年、テンポス ベガ シシリアはリアス・バイシャスに国内5つ目のワイナリー「Deiva デイヴァ」を建設した。27年には2種のアルバリーニョを3万本リリース予定で、最終的には35万本までの生産拡大をもくろんでいる。アルベルト氏は「2030年には総生産量200万本を目指しているので、ウニコやバルブエナ同様、リアス・バイシャスの最高品質の白ワインの登場に期待してほしい」と今後の展望を語り、160周年記念ディナーを締めくくった。

text & photographs by Fumiko AOKI