『アニエス V.によるジェーン B.』©️Ciné-tamaris / ReallyLikeFilms

 2023年7月16日に急逝したジェーン・バーキンの一周忌を追悼して、「ジェーン B.とアニエス V. ~ 二人の時間、二人の映画。」と題して、ジェーンとアニエス・ヴァルダがコラボレーションした2作品がデジタルレストア版・新訳日本語字幕版で特別上映されます。
 アニエス・ヴァルダは“ヌーヴェルバーグ左岸派の母”ともいわれる映画監督で、『歌う女、歌わない女』『冬の旅』、以前に本コラムでも紹介した『顔たち、ところどころ』などの作品を撮り、生涯現役を貫いて、2019 年に 90 歳で亡くなりました。そんな彼女が親交のあったジェーン・バーキンという女性を自由なアプローチで映像化した作品が、今回上映される『アニエス V. によるジェーン B.』と『カンフーマスター!』です。
 前者はジェーンの素顔と役者としての顔が入り混じったポートレイトのような作品。後者は、ゲームに由来する作品名からは想像できませんが、40歳の女性とまだ10代半ばの娘の同級生との恋を描いたなかなかの衝撃作です。
 どちらも1988年の作品で、ジェーンのパリの私邸とロンドンの実家で撮影し、ジェーンの両親や娘たち、アニエスの息子など、身内が総出演しているのも見どころ。傑出した才能と個性を放った2人の女性が生み出した2つの世界に、ぜひ触れてみてください。
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「ジェーン B.とアニエス V. ~ 二人の時間、二人の映画。」は、2024年8月23日より全国順次公開

愛されたい、でも……。シャイで大胆なジェーンの魅力が輝く
『アニエス V.によるジェーン B.』


©️Ciné-tamaris / ReallyLikeFilms

 ジェーンが40歳の誕生日に自身の30歳の誕生日を回想するシーンから始まる本作は、アニエスがイメージするさまざまな女性をジェーンが演じる空想劇とジェーンの日常のシーンを行き来するような独創的な作品。
 セルジュ・ゲンズブールの“ミューズ”として有名になったジェーンに、アニエスはさまざまな問いかけをします。


©️Ciné-tamaris / ReallyLikeFilms

 人々から好かれたい、愛されたい、でも無名でありたい、という矛盾した願望を語るジェーンと、それがあなたの魅力だと言うアニエス。そんなふたりの関係に見入ってしまいます。
 アニエスの「バッグの中身を見せて」というお願いに、持ち手がボロボロになったバーキンをひっくり返して中身をぶちまけるジェーン。そのときの、いたずらっ子のような笑顔がとても可愛らしい!
 シャイなのに大胆で美しいジェーン・バーキンの魅力を存分に堪能できます。

『アニエス V.によるジェーン B.』

1988年製作
配給:リアリーライクフィルムズ

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40歳女性が15歳少年を見つめる恋の眼差しが切ない
『カンフーマスター!』


©️Ciné-tamaris / ReallyLikeFilms

『アニエスV.によるジェーンB.』の撮影中にジェーン・バーキンが発案したプロットを、独立した作品としてアニエス・ヴァルダの監督・脚本で映画化。
 ふたりの娘の母である40歳のマリー・ジェーン(ジェーン・バーキン)は、娘ルシー(シャルロット・ゲンズブール)の同級生の少年ジュリアン(マチュー・ドゥミ)を介抱したことをきかっけに、好意を抱きます。


©️Ciné-tamaris / ReallyLikeFilms

「カンフーマスター」というゲームに夢中のまだ幼い少年を、片想いの相手のような、母のような、複雑な表情で見つめるマリー。人目を忍び、微妙な関係を続けるふたりですが、ある日、キスを交わしているところをルシーに目撃されてしまいます。


©️Ciné-tamaris / ReallyLikeFilms

 かなりセンセーショナルな題材でありながら、大げさではない自然な演技で表現しているせいか、いやらしさはなく、切なさとほろ苦さが胸に迫ります。
 マリーと恋に落ちる少年役をアニエスの実の息子が演じ、マリーの娘たちをジェーンの実の娘たち(シャルロットとルー・ドワイヨン)が演じているのも驚きです。

『カンフーマスター!』

1988年製作
配給:リアリーライクフィルムズ

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※この記事の内容は2024年8月時点の情報です