「週4日労働で年収1300万円以上」…出稼ぎ寿司職人のリアル懐事情「未経験のアラフォーでも間に合う」

先日、全国の最低賃金が過去最大の値上げに踏み切る見込みであることが発表された。しかし、日本の給与は他の先進国と比べると依然低い水準に留まっていることには変わりはない。こうした国内の冷え込んだ現状に見切りをつけ、海外に働きに行く出稼ぎを選択する人が年々増えている。

「例えばドバイの場合には、美容師、整体師、パーソナルトレーナー、料理人までいろいろな職業の人たちが出稼ぎに来ています」

そう語るのは海外移住事情に詳しいドバイ在住投資家であり、登録者数5万人を超えるYouTuberの宮脇咲氏だ。海外で寿司職人が稼げるというのは、もはや周知の事実。ドバイに限らず多くの日本人が寿司職人として海を渡っているようだが、どのような待遇が用意されているのか。当事者に語ってもらおう。

◆すしアカデミー経由で独立し、年収は「約8000万円」に

「この2年ほどで、海外で寿司職人として成功する“寿司職人ドリーム”を目指す人たちが増えてきました。2022年に田中康博さんのニュースが話題になったのが大きかったと思います。田中さんは、27歳で東京すしアカデミーで学び、35歳にはマイアミで自身の店をオープンしました」(宮脇咲氏)

寿司職人は「シャリ炊き3年、あわせ5年、握り一生」という言葉があるほどに厳しい世界である。それがキャリアをスタートさせて10年に満たない年数で独立するというのは驚異的な速さだ。

もちろん、その最大の要因は独立までの速さだけではない。最大の魅力とも言えるのが、日本国内をはるかに上回る年収面でのメリットである。

「田中さんは、銀座での修業時代は年収約300万円だったそうです。それがマイアミで独立後は約8000万円と約25倍に増えています」(宮脇咲氏)

◆週4日労働で「年収1300万円以上」…しかも所得税なし

海外で寿司職人として生計を立てている人は田中さん以外にも多数存在する。その一人がドバイの高級和食レストラン「粋」でオーナー兼料理長を務めている佐川浩二氏だ。

佐川氏は約6年半前にドバイに渡った。まずは4年半の間、ホテルの和食レストランの経験を積み、約2年前に「粋」を開業して独立するに至った。そんな佐川氏もパイオニアの田中氏同様に金銭的にも大きな成功を納めている。

「現在は年収で見ると1300万円以上を稼ぐことができています。円安の影響もありますが、日本の寿司職人の平均の4倍以上となります」(佐川浩二氏)

ドバイは所得税がなく、収入が丸々手元に残ることになる。これも日本との大きな違いだ。年収が増えるのならばその分だけ激務になるのではと考えてしまう人もいるだろう。しかし、この点も実に羨ましい回答が返ってきた。

「勤務日は週に4日です。仕込みがある日は忙しいですが、それでも日本での勤務時間よりも圧倒的に短いです。ドバイは時間がゆっくりと流れていて、生活もしやすく環境はとてもよいですね」(佐川浩二氏)

◆基本的に社宅つき、賃貸アパートも「プール・ジム付き」が多い

さらには年に一度は長期休暇が設けられているのも特徴だ。

「ドバイには1年に1度バケーションを取らなければならないという法律があります。ムスリムが断食をするラマダンの期間で1か月休むことが多いです。ラマダンと重なることもあり、1か月休んでもお店を開ければお客さんは戻ってきます」(佐川浩二氏)

収入と休暇ともに日本よりもドバイの方が恵まれている。さらには福利厚生もドバイでは充実している傾向があると佐川氏はいう。

「ドバイでの寿司職人の求人は基本的に社宅つきで募集されています。仮に年収500万〜600万円くらいだとしても家賃分が浮くのは非常に大きいでしょう。またアパートを借りた場合はほとんどの物件がプール・ジム付きです」(佐川浩二氏)

海外というと日本のような安心や便利さがないというイメージを持つ人もいるだろう。この点も決して日本に引けを取らない

「ドバイでは街中にカメラがたくさんあって治安が保たれています。また買い物などは全部デリバリーで運んでもらうこともできます。もちろん慣れれば自分で車を運転してどこにでも行くこともできます」(佐川浩二氏)

◆「OMAKASE」コースは一人5万円以上だが…

ここまで環境面での魅力を中心に海外での寿司職人を見てきたが、仕事そのものの魅力ややりがいもあるのだと佐川氏は話す。

「接客を通して色々な国の人、特にレベルの高い話が聞ける点は非常におもしろい点だと思っています。日本と比べてゼロが二桁、三桁違う富裕層がお店を訪れて、私の握った寿司を食べてくれます」(佐川浩二氏)

ドバイは人口約300万人のうち8割から9割が外国人といわれており、世界中からセレブやビジネスのエリートが集結している。世界レベルのVIPに出会うというのも日本にいてはなかなかできない経験だろう。

いいこと尽くしのように思われる出稼ぎでの寿司職人。だが、移住に夜デメリットも存在する。

前出の宮脇氏はこう語る。

「まず、気候や食事がなじまないという理由で帰国してしまう人も少なからず存在します。ドバイの市街地は中東料理のレストランが多いため、口に合わない方は無理でしょう。また砂漠の多い地形なので夏の暑さに耐えられないという日本人もいます。加えて、家族で移住するならば問題ないですが、独り身で移住すると休日は友人がおらず、高待遇でも孤独感を感じて帰国してしまう人もいるので、移住するならば家族がいる方がおすすめですね」

だが、今後宮脇氏によるとも出稼ぎの増加は続くと予測している。

特に人気なのが「OMAKASE」というコース料理として寿司を提供するスタイルだという。当然この形式は高価で、最低でも一人5万円以上はする。それでも、こういった高級な寿司屋に多くの富裕層が通い詰めている。

◆40歳を超えてからでも遅くない

では、どのようにすれば海外で寿司職人として働くことができるのだろうか。

「最近では寿司職人の転職エージェントがいて、その方を経由して応募するケースも出ています。ドバイの料理人の年収相場はヘッドシェフとサブシェフで違いますが、いずれも日本で働く場合の最低2倍はもらえます」(宮脇咲氏)

現在国内で寿司職人として働いている人にとっては非常に魅力的なオファーであることは間違いないが、実はセカンドキャリアでも十分にチャンスがある。

「40歳を過ぎてからでも寿司職人になることは可能です。日本国内では経験年数が物をいう世界ですが、海外に出ればすしアカデミーで数か月学んだだけであっても、十分寿司職人として働くことができます」(宮脇咲氏)

寿司の本場である日本では、オートメーション化されつつある回転寿司が飽和状態に。一方で血の通った職人たちが国外に居場所を求めていくのは寂しくも感じるが、実際日本よりも稼げてしまうのだからどうしようもない。この流れは変えようがないだろう。

 

<取材・文/日刊SPA!取材班>