親から「塾に任せるので宿題はナシにしてほしい」小学校で広がる子どもの“夏休み格差”

“夏休み格差”という言葉をご存知だろうか。夏休み中、“子どもが体験する機会”に格差が生じることを意味する。普段は学校で過ごしている時間が夏休み中は各家庭に委ねられるため、収入による格差が生まれやすい。特に経済的に苦しい状況にある家庭では、子どもに体験の機会を作ることが後回しになりがちだ。大人の間で広がる格差が、子どもたちにも影響しつつあるのだ。

筆者(綾部まと)は、メガバンクでの法人営業時代に地方自治体を担当した。そこで多くの子ども達が直面する現実について、自治体の担当から教えてもらってきた。今回はそんな夏休み格差について紹介していく。

また、ここでご紹介するのは一部の地域の話である。全ての小学校がそうではないことを、あらかじめお断りしておく。

◆「塾に任せるので宿題を撤廃」広がる学力の格差


「昔は『夏休みの宿題が終わらない』とよく言われましたが、今はそんなもの都市伝説です」

昨今では中学受験熱がヒートアップしており、大手進学塾の席を確保するために、子どもが年長の頃から塾に通わせる家庭もあるそうだ。塾では夏休みにも宿題が出て、特に小学4年生以上からは増えてくるのだという。

「塾から出される宿題は『都道府県を全て覚えてきてください』など、小学校のものとは全く違います。夏休み明けにクラス分けのテストがあり、中学年以上にとって夏休みではなく夏勉強です」

塾のクラス分けに関係ない小学校の宿題は、親にとっても子どもにとっても邪魔。「宿題を出さないでほしい」という訴えが、親たちから出された小学校もあったらしい。

「その小学校は、塾に任せるからと宿題を撤廃しました。先生にとっても採点をしなくて済むから楽ですし。他にも宿題は自由研究だけ、プリント2枚だけ、タブレットで自主学習など、個人の裁量に委ねる小学校も増えてきています」

◆塾に行かせてない親からは、不平の声が上がるが……

塾通いをしている子どもと親、学校の先生にとってはありがたい話ではあるが、塾に行かせてない親からは不平の声も上がる。

「それでは格差が広がってしまうと言うんです。しかし、こう言っては何ですが、収入が多い親たちの方が、子どもの教育に熱心な人が多いから、学校に対しても色々と言ってくるんですよ。彼らは地元の名士だったり、PTAに積極的に参加してくれたりします。どうしても学校側と距離が近い方の意見を聞かざるを得ないんです」

◆「サマーキャンプにも旅行にも行く金がない」広がる体験の格差


子どもの夏休みに、親も休みを取れるとは限らない。共働き世帯の子どもは預けられることになるのだが、預け先にも格差が起きているようだ。

「公立の学童の他に、民間の学童、インターナショナル系のアフタースクールがあります。公立の学童ではただ子どもを預かっているだけなのですが、民間の学童では習い事をさせてくれて、アフタースクールでは英語を習わせてくれます」

日々の積み重ねが体験の格差となってきているわけだが、夏休みになると、その格差は如実に出てくるらしい。

「民間の学童やアフタースクールではサマーキャンプが行われて、大自然の中で子どもたちが様々な経験をすることができます。サイエンスキャンプという星空を観察したり、虫の生態を学んだりと、テーマのあるキャンプも人気ですね」

他にも海外旅行へ出かける家庭もあるという。旅先で一生の思い出を作る子どもがいる一方で、お金の問題でどこにも行けず、公立の学童で夏休み中を過ごす子どももいるという。

「この格差は昔からありましたし、必ずしも悪いというわけではありません。旅行に行きまくればいい、というわけではないですから。でも最近では格差が大きくなってきたな、というのは切に感じますね」

子どもたちも、同じような子たちと自然と仲良くするようになってきていて、交友関係が固定化されている場面もあるのだとか。本来、公立の小学校というのは、様々なバックグラウンドを持つ人間同士が、うまく生きていく術を学ぶ場所であるはずなのだが……。

◆おまけ:インターナショナルスクールでの夏休み格差


富裕層の子どもたちが通うことで知られるインターナショナルスクールでも、程度の違いはあれど、夏休み格差が発生しているのだという。

「夏休みの終わりに、どこへ行ったかみんなで発表するんです。その発表で引け目を取らないために、国内旅行なんかに行っていては恥ずかしいと、海外旅行をする家庭も多いようですね」

海外に行ったからといって安心はできない。泊まったホテルまで、親たちは子ども経由で詮索をするのだとか。

「一言でハワイといっても、泊まったホテルによって裕福度が見えてきます。ロイヤル、ハレクラニ、アウラニディズニーを頂点としたヒエラルキーがありますから。ランクの低いホテルに泊まると『その程度のお家なのね』という目で見られるみたいですね」

親の懐具合がどうであろうと、子どもたちの心だけは貧しくなってほしくないものである。

<文/綾部まと>

【綾部まと】

ライター、作家。主に金融や恋愛について執筆。メガバンク法人営業・経済メディアで働いた経験から、金融女子の観点で記事を寄稿。趣味はサウナ。X(旧Twitter):@yel_ranunculus、note:@happymother