元セクシー女優は“普通の仕事”に転職できるのか。過去を隠して面接に挑んだ結果――大反響・傑作選

過去5万本の記事より反響の大きかった傑作選。今回はレアな職業から転職した人に注目する。(初公開2022年9月29日「元セクシー女優の昼職転職記」全12回中の第3回 記事は取材時の状況) *  *  *

 フリーライターのたかなし亜妖と申します。WEBコラムや映画・漫画レビュー、時にシナリオなどジャンル問わず文章を書く日々です。2016年に「ほかにやることがなかったから」という理由でセクシー女優デビュー。なんとなく入った業界で気づけば2年半が経過したところで、引退を決意しました。

 その後は何事もなかったかのようにシレッと昼の世界へ出戻り。ライターになり早4年が経とうとしています。

 前回は「元セクシー女優」という経歴を隠して臨んだ転職活動についての話を書きましたが、今回は経歴詐称して臨んだ面接について書いていこうと思います。

◆ネットで見つけた「シナリオライター募集」

 転職エージェントに不信感を募らせていた私は、自力で求人を探すことにした。

 担当者へ対する信頼ポイントはゼロどころか、マイナスにまで下がっている。このままでいれば確実にまた何か起きるに違いない。それなら自ら動いて失敗した方がまだマシだと思った。

 それに私はかつてのアルバイトも、セクシー女優をするうえでのプロダクションも、すべて自分で見つけていた。友人の紹介も、スカウトマンに依頼した経験もない。だからこそ最初から自分でやれば良かったのである。

 ネットで求人ページを眺めていると「シナリオライター募集! 未経験可」が目に飛び込んでくる。

 雇用形態はフルタイムのアルバイトだったが、正社員にこだわっていなかったため特に気にならない。概要を読むと、今すぐシナリオライター担当を欲しているとのことだった。

 IPもの(※)なので完全オリジナルではないが、検索した矢先にページを見つけたのでナイスタイミングと言えるだろう。

 当たって砕けろ精神で早速、応募用の書類を作成し始めた。

※IP……Interllectual Properyの略称でアニメや漫画の版権を指す。つまり「ソシャゲのIPもの」とは元ある作品をゲーム化しているということ。

◆セクシー女優の事実を隠し、話をでっちあげ!?

「ようやく巡り合えた求人を絶対に逃すまい」と気合を入れて履歴書を埋めていくが、案の定“セクシー女優をしている間”のことを考えると筆が止まる。前回は無職と書き、数々のオトナたちから「(暗黒微笑)」を浮かべられたのだ! あの悪魔的な微笑みを再度目の当たりにしたら、全身水玉模様の危機、再来である。

 それにセクシー女優といえど給料をもらっているし、納税はしているしで“無職”と言い切るのに違和感を覚えた。

 とはいえ、堂々と事実を書く気はない。そこで私は言い方を少し変えて、脱がない女優をしていた体で話を見事にでっちあげたのである。

 経歴詐欺と指摘されればそれまでだが、もう時効だと思っているので許してほしい。

 親の介護など“よくある言い訳”をすれば良かったのかもしれないけど、介護や家事手伝いは転職時、経歴について深く言えない人々が使いがちな常套句となりつつあるらしい。最近は企業側も敏感になっているそうなので、ツッコミを受けた時に答えられないようでは困ってしまう。

 腐っても一応女優をしていたのに変わりないので、黙々と書類を作り続けた。ダメもとで応募すると、予想外にも一次選考を通過!

「ぜひ面接にお越しください」というメールを何度も読み返しながら胸が高鳴っていた。

 まだ仕事が決まったわけでもないのに、この先に待ち受ける未来を想像してニヤけが止まらない。

 ポジティブバカな私は「よぉし、面接頑張っちゃうぞっ!」と完全に浮かれていた。基本的に幸福を感じるハードルが低い人間なので、一次選考に通っただけでスキップしそうな勢いに……。我ながら本当に浅はかで、簡単なヤツである。

◆拍子抜けした二度目の面接

 いざ面接当日。いくらポジティブバカの私でも緊張はするし、うまくいかなかった時のことくらいは想像するので、必死に深呼吸を繰り返し精神を落ち着かせていた。

 会社は自宅から15分程度の場所なのに、1時間以上も早く到着する始末。仕方がないのでカフェに入るが、余計な“待ち”の時間を作ってしまったことで、さらにソワソワしてくる。

 その間「就活生はこんな緊張を何度も繰り返すのか? すごくない?」と急に全国の大学生を尊敬し始めるなど、意味の分からない考えがグルグルと頭の中を巡る。私はもともと緊張するシーンに強くないのだ。結局、頼んだ紅茶にほぼ手を付けられないまま、戦場へ向かう。

 結果から書いてしまうと、面接は「超」がつくほど無難に終了した。

 採用担当者は「女優」という経歴にも深く突っ込まず、シナリオスクールの件も「へぇ」という、うっすいリアクションを繰り返す。でっちあげた部分について細かく聞かれる覚悟をしていたので拍子抜けしてしまった。

 いま思い返すと全体的に「へぇ」「はぁ」「ふん」のような感じで、この人たち私に興味ある? と心配になるくらい淡々としていたのである。

 しかし、かといって嫌味ったらしい雰囲気でもない。シナリオが書けること、アルバイト歴や社会人として働いた過去があることなどを軽く確認され、30分もしないくらいでおしまい。早々にオフィス街を後にした。

◆祝・ニートからの脱却

 面接から3日後、メールにて採用通知が届いた。私のどこが良かったのかも全然分からないし、シナリオ執筆ができれば誰でも良かったのかもしれない。というか、たぶんそうだと思う。

 けれども、昼職の第一歩を踏み出せたことに大きな喜びを感じた。

 オワコンスペックなナマケモノが、希望した職に就けるなどなんとも贅沢な話である。こうして約3か月のニート期間を終え、微妙な立ち位置のセクシー女優から昼職アルバイターへとレベルアップ(?)した。

 こうして翌週から勤務開始となるわけだが、いざ働くことを想像するとさまざまな不安が襲い掛かる。そもそも週5日の連勤をアパレル以外で行った経験がないこと、土日休みが人生初なこと、満員電車にもう何年も乗ってないこと……。

 これらはほんの些細な事柄かもしれない。しかし、私自身は世の中の「アタリマエ」から何年も離れてしまっている。

 私はこれから一般の日常がやってくることに、一抹の不安を覚えていた……。

文/たかなし亜妖

【たかなし亜妖】

元セクシー女優のフリーライター。2016年に女優デビュー後、2018年半ばに引退。ソーシャルゲームのシナリオライターを経て、フリーランスへと独立。WEBコラムから作品レビュー、同人作品やセクシービデオの脚本などあらゆる方面で活躍中。