帝国データバンクの調査によると、2023年度の「飲食店」の倒産件数は過去最多となった。倒産は768件発生しており、前年の452件から見ると1.7倍となっている。背景には円安による材料費や、人件費の高騰があると見られている。
一方で、大手飲食チェーンは好調が目立つ。牛丼チェーン「すき家」などを展開するゼンショーホールディングスは、2024年3月期の決算で過去最高の業績を達成。売り上げは9657億円、営業利益は537億円、最終利益は306億円となった。今回はゼンショーと、同じく外食大手のコロワイドの業績を比較したいと思う。
◆上位5社の直近の業績
現在の外食業界の売上は①ゼンショー、②マクドナルド、③すかいらーく、④FOOD&LIFE COMPANIES(スシロー)、⑤コロワイドの順だ。上位5社の直近の業績・経営効率性・財務の安定性は、以下の通りになっている。
【大手チェーン5社の売上/営業利益/営業利益率/ROE/自己資本比率】
①ゼンショー:9657億円/537億円/5.6%/14.3%/28.7%
②マクドナルド:3819億円/408億円/10.7%/11.0%/78.7%
③すかいらーく:3548 億円/116億円/3.3%/2.9%/38.8%
④スシロー:3017億円/110億円/3.6%/10.2%/21.4%
⑤コロワイド:2412億円/71億円/2.9%/6.5%/17.0%
※ゼンショー・コロワイドは24年3月期、マクドナルド・すかいらーくは23年12月期、スシローは23年9月期
経営効率性の指標であるROE(自己資本当期利益率)はゼンショーが14.3%とアメリカ企業並みに高く、マクドナルド(11.0%)とスシロー(10.2%)と続いている。マクドナルドとスシローが10%以上のROEであるのは単一業態で経営の効率性を追求しているから当然か。
ゼンショー、すかいらーく、コロワイドは複数ブランドを傘下に持ち、多業種多業態によるリスク分散とリターンの多様化を実現させている。多くのブランドで各事業を構成させたコングロマリットなので、利益率は低いが経営は安定している。
◆2位以下の企業も業績好調
単一業態で外食売上ランキング2位のマクドナルドは、売上は首位ゼンショーの半分以下の3819億円だが、営業利益は408億円(10.7%)とかなりの高収益率である。財務状態を見ても自己資本比率がゼンショー(28.2%)に対して72.8%と高く、資本の安定性に大きな開きがある。
すかいらーくは売上3位に留まっているが、今年(2024年1-3月期)に入って売上高956億円(前年比+110億円)、営業利益61億円(前年比+65億円)と好調だ。外部環境の好転に加え、メニュー戦略、店舗オペレーション、DX推進を中心に成長基盤が整いつつあるようだ。非上場化して抜本的改革を実行した結果が実績に表れつつある。
スシローは回転寿司業界のリーダーで、売上推移を見ると2019年は1990億円だった売上が2023年には3017億円と順調に増加しており、5年間で売上を1027億円(151.6%)増やしている。2024年上半期(10月~翌年3月)で売上118.7%、客数115.6%、客単価102.6%と全てにおいて前年を上回っており、第3四半期(4~6月)も売上110.1%、客数111.0%と前年2桁超えを達成している。
ゼンショーと同じく、「牛角」「かっぱ寿司」「大戸屋ごはん処」など多業態戦略を展開するコロワイド。売上2412億円(前年比109.3%)、営業利益87億円(前年比110.7%)と成長している。
◆ゼンショーとコロワイドの共通点
ゼンショーとコロワイドは共にM&Aを積極的に行い、規模を急速に拡大している。ゼンショーは2000年以降、各ジャンルの外食企業の買収を始めている。コロワイドも2012年以降から、「牛角」などを展開するレインズなど外食大手を次々と買収している。
両社とも借入金など他人資本を巧みに活用し、少ない自己資本で最大の利益を目的にROEを向上させている。自己資本の低さから、財務の安定性としては若干の脆弱感は否めないが、早期リターンを求める投資家や株主の期待に応えている。
特にゼンショーはすでにその目的を達成しつつあり、ROEは14.3%と高く、M&Aで買収した外食企業が業績にも貢献してきている。一般的にROEは10%以上であれば良好とされる。ROEは業界によって適正値が異なるが、飲食・サービス業は10%が理想とされ、ゼンショーはその目標値の達成に向け頑張っているようだ。
◆M&A戦略による多業態戦略で勢いづく2社
M&A戦略による多業態戦略で勢いづく2社を分析したい。まずゼンショーは1982年6月設立の外食企業で、すき家、なか卯、ココス、ロッテリア、ビッグボーイ、ジョリーパスタ、はま寿司などが代表ブランドでお客さんの認知度も高い。
グループ店舗数は1万5100店舗(2024年3月末時点)。売上9657億円(2024年3月決算)と1兆円を超すのは時間の問題だ。 売上だけ見ても、2位のマクドナルドに圧倒的な差をつけ、売上2.5倍と突出している巨大外食チェーン企業になっている。
直近も前年に対比して、売上で1858億円増加し、23.8%の売上増と著しく業績を伸ばしており、勢いが如実に実績に表れている。財務状態も、前年(2023年3月期)24.7%だった自己資本比率は、今年(2024年3月期)28.7%に資本が増強されており、ほぼ1000億円純資産を増加させ財務を安定させている。
もちろん買収資金に活用するため、負債も2784億円増加しているが、総資産が前年4695億円に対し、今年は7480億円と2784億円も資産が増えている。決算資料(2024年3月期)から各事業の業績を見ると、各事業の売上構成比はすき家27.5%、はま寿司20.4%、ファストフード25.2%、レストラン14.6%となっている(すべてグローバル含む)。
◆すき家、はま寿司を擁するゼンショーHD
ゼンショーHDが運営する各社の業績を振り返ってみたい。まず牛丼市場の競争状態は吉野家・すき家・松屋の“牛丼御三家”が88%と寡占化状態の中、すき家の店舗数1954店舗は吉野家(1232店舗)、松屋(1037店舗)に圧倒的な差をつけている。売上は2653億円、営業利益185億円、営業利益率7.0%となっている。
2002年10月に設立したはま寿司。最も業績を伸ばしており、前年と比較しても著しい伸長度を見せている。売上は前年1695億円に対して1971億円(2024年3月期)と前年同期比に対して276億円(116.3%)、営業利益も前年84億円に対して114億円と30億円(135.5%)伸ばしている。売上よりも利益の伸びが大きいのはDXの積極的な推進が、効率性をさらに高めているのが推察される。営業利益率は5.8%だ。
ロッテリアの買収や新ブランドのゼッテリア(ZETTERIA)などを展開している。売上は886億円、営業利益は139億円、営業利益率は5.7%となっている。
◆復活の兆しを見せているビッグボーイ
ステーキ・ハンバーグのビッグボーイ、ファミレスのココス、焼肉食べ放題が人気の熟成焼肉いちばん、スパゲティのジョリーパスタなどがファミリー客に支持されている。これらを含むレストラン事業は売上は1407億円、営業利益は78億円、営業利益率は5.5%となっている。
特に2002年ダイエーから買収したビッグボーイは店舗を改装し、ロゴを刷新し巻き返しを図っている。店舗数は207店舗(2022年8月時点)である。2020年以降は統廃合でかなり店舗数を減らしたが、前年(2023年)以降は残存店舗の一部を「炭火焼レストラン」として順次改装し、復活の兆しを見せている。
ビッグボーイは人手不足の中でDXをより積極的に推進している。店内に入って案内もロボット、オーダーもタッチパネル、料理提供は配膳ロボット、会計はセルフレジと一連のプロセスをほぼ無人化している。
◆外食業界5位のコロワイド
コロワイドは今後の中長期的計画として、2027年3月期の売上315億円、EBITDA (利息、税金、償却前利益)30億円、ROE(自己資本利益率)15%を目標値にしている。社名の「COLOWIDE」は、人が生きていく上で大切な要素である勇気(Courage)、愛(Love)、知恵(Wisdom)、決断(Decision)をひとつにまとめたものである。
1963年設立で今年61年目と歴史ある外食企業だが、事業をM&Aで飛躍的に拡大し注目されてきたのは2012年に買収したレインズ(牛角やしゃぶしゃぶ温野菜などを運営)の頃ではなかろうか。その後も、2014年カッパ・クリエイト(かっぱ寿司)、2020年大戸屋などの買収で事業規模の拡大だけではなく知名度を高めてきた。
主に7つの事業分野ごとに分社化し権限委譲と利益責任を明確にしており、グループ62社を束ねている。店舗数は2583店舗で、直営1403店舗、FC1180店舗を有している。売上は外食業界5位で2413億円である。
焼肉の牛角、しゃぶしゃぶの温野菜、回転寿司のかっぱ寿司、定食の大戸屋、ステーキの宮、居酒屋の甘太郎などがコロワイドの代表的なブランドで認知度も高い。特に最近ではお家騒動で混乱していた大戸屋のホワイトナイト役として認知度を向上させたようだ。
◆コロワイド傘下で復活した大戸屋
大戸屋はコロワイドの傘下に入る前は店内調理にこだわり、手作り感で差別化を図り優位性を訴求していた。だが、非効率的な点が目立ち、価格が割高になって顧客離反を招いて業績不振に陥った。また、お家騒動で社内外が混乱しその状況を打開するため、2020年コロワイドより大戸屋へのTOBが成立。
業績不振から債務超過にも陥っていたが、2021年2月にコロワイドを引受先とする第三者割当増資を行い債務超過は解消した。今は業務プロセスの刷新を図っており、非効率だった業務の一部である素材から加工処理工程をセントラルキッチンに集約。店舗の負担を軽減させ、課題だった提供時間の迅速化も実現した。
2023年3月期の売上238億円、営業利益2.7億円、営業利益率は1.1%だったが、コロワイド傘下で推し進めた業務改善とコロナ収束後の客足が戻ってきたことで業績は確実に上がってきており、過去最高売上、過去最高営業利益となったようだ。2024年12月期売上は279億円(前年比17%増)、営業利益は16億円で、約6倍の伸びだ。
チェーン理論に基づいたコロワイド主導による業務改善と経営改革および資本注入が功を奏しているようだ。店舗数は、総店舗数419店舗数(2024年3月時点)である。内訳は、国内直営149店舗、国内FC159店舗、海外直営9店舗、海外FC102店舗となっている。
◆傘下の牛角、かっぱ寿司も業績好調
国内店舗数1位の牛角を運営するのは、2015年からコロワイドの100%子会社になり、傘下に入ったレインズ・インターナショナルである。国内最大数の店舗数だけでなく、北米・アジアを中心に全世界825店舗を展開する世界最大規模の焼肉チェーンとなった。
店舗の運営は、フランチャイズで展開されており、レインズは食材供給など卸機能や店舗の運営指導を担っている。しゃぶしゃぶ温野菜も展開しており、現在レインズは売上997億円、コロワイドグループの中でも売上構成比47.6%、店舗数(1195店舗)構成比45.0%とグループのコアとなる事業会社だ(2024年3月時点)。
1994年は回転寿司業界のリーディングカンパニーだったかっぱ寿司。頻繁に流れていたCMソングを懐かしむオールドファンも多い。今はコロワイドの傘下で、グループ企業との連携を強化しながらリブランディングに力を注いでいる。2024年3月期売上722億円、営業利益17億円、営業利益率2.4%となっており、巻き返しを図っている。
今年に入り第一四半期は、売上105.5%、客数103.5%、客単価102.0%とわずかながらでも伸ばしており、特に直近の6月は売上17.6%、客数14.5%と著しい伸びで、今後に期待できそうだ。
◆単一か、他業態か?今後の向かう先は
単一業態に経営資源を集中させで経営効率を高めるか、あらゆるニーズに対応した多業態で収益機会を増大させるかの選択は難しいところだ。
特に最近のゼンショーとコロワイドは積極果敢にM&Aによる買収を強化しており、お客さんの囲い込みをしながら、事業規模の拡大によるスケールメリットも発揮し、消費者の個性化・多様化・高度化したニーズに合致した業態を自社で展開し、収益機会を増大させている。
自社で不足する業態は、自社でイチから開発するのではなく、時間を買う目的でM&Aをフルに活用している。そして、外部企業を傘下に収め、ブランド・ポートフォリオで経営資源の配分を適切に管理しているようだ。
コロナ収束したにもかかわらず客足が戻らず、コロナ禍の追加の借入が負担となり、倒産や廃業が相次ぐなど、優勝劣敗が明白になっている外食業界。よりM&Aが活発になりそうな気配である。
<TEXT/中村清志>
【中村清志】
飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan