「夏場の男性の匂いや不摂生してる方特有の体臭が苦手すぎる」とのX投稿(8日)が炎上したフリーアナウンサーの川口ゆり氏。その後、すぐに所属事務所が川口氏との契約解除を発表したことで、「さすがに厳しすぎる」の声も出たが、「自業自得」の声も多く、いまだ火種はくすぶっている。
同アナが所属契約していたアナウンサー事務所「VOICE」の対応は早かった。失言から2日後の10日、川口氏に対し、契約の解除を通知。11日には、事務所HP上に「川口ゆりとの契約解除のご報告」として、メッセージを掲載した。
<当社は、2024年8月10日(土)をもって、川口ゆりとのアナウンス事務所VOICE所属契約を解消いたしましたのでご報告申し上げます。川口氏はX(旧Twitter) のSNSに於いて、異性の名誉を毀損する不適切な投稿行為が認められたことから、当社はアナウンス事務所として、所属契約の維持は困難と判断し、やむなく契約解除通知をするに至りました>(『VOICE』HPより)
所属事務所は厳しめの言葉で契約解除を報告した(アナウンサー事務所「VOICE」HPより)
川口氏が提携講師として所属契約していたビジネス研修・講演を提供する青山プロダクションも、追随するように10日付で川口氏との業務契約解消をHP上で報告。同社は川口氏に、複数回ハラスメント防止の研修講師を依頼しており、VOICE社同様「契約の維持は困難と判断した」と、理由を説明した。
どちらの報告文からも、投稿内容に対するプロ失格のニュアンスがあふれ、川口氏と話し合いをした痕跡もなく、「一発レッドカード」で所属タレントを斬り捨てた印象が色濃い。その意味では、川口氏の発言内容はともかく、一所属タレントへの対応として「厳しすぎる」との声にもうなずける側面はある。
失言→即刻契約解除もありな理由
「フリーアナウンサーとのことですからおそらく事務所とは業務委託契約だったと思われます。だとすれば、契約的には今回のXでの発言だけをもって契約解除だとしても必ずしも厳しすぎるとはいえないように思います」。
こう話すのは、企業法務や労働問題にも詳しい辻󠄀本奈保弁護士だ。
「これが雇用契約を結んでいる会社員なら、簡単に解雇できません。しかし、業務委託だとすると、たとえ契約を結んでいても、相応の理由があればタイミングに関係なく解除は可能です。VOICE社HP上での契約解除のメッセージには『言葉は誰かを傷つけるためにあるものではなく、勇気づけたり愛を語るためにあるものと考えており、言葉を扱う仕事に携わる者としては あってはならず、大変心苦しく考えております』とありましたが、あえてそこに触れている点からも少なくともアナウンサーとしての川口氏との信頼関係維持がもはや難しいと判断したのでしょう」(辻󠄀本弁護士)
HPに掲載されているVOICE社・国井美佐代表のあいさつによれば、「現場で取材をして、自分の言葉で伝えることにこだわり、事務所を立ち上げた」とある。それだけに、言葉がおよぼす影響を十分に考えず、さらにハラスメント防止の研修講師をする立場ながら、男性を敵に回すような内容の投稿をしたことにどうにも我慢ならなかったのだろう。
契約解除を不服に裁判したら勝てるのか
とはいえ、いきなり契約を解除された川口氏が契約解除を不服とし、訴訟を提起した場合、勝ち目はあるのか。
「契約の解除自体を争うということなら、解除に至ったいきさつから考えても難しい可能性が高く現実的ではないでしょう。ただ、すでに対応した仕事の報酬が残っていたり、契約期間が残っていて、それに伴い支払われるべき報酬が払われていなかった場合など、その支払いを求めるということであれば、目はあるでしょう」(辻󠄀本弁護士)
個人の感想も言えないのは厳し過ぎなのか
今回の川口氏の投稿を巡っては、あくまで個人の意見であり、「こんなことも言えないなら、なにもいえない社会になる」と危惧する声もある。社員研修などでSNSとの向き合い方なども指導する辻󠄀本弁護士は、この点について次のように見解を述べる。
「不特定多数が目にする場所に意見を投稿するときは、まず読んだ人がどう感じるかを想像することが大切です。どんなにいい意見だと思っても、読む人によって不快に感じる人がいるかもしれない。
そうした配慮ができないなら投稿をしないことが一番ではあります。あとは、投稿前に第三者に内容をチェックしてもらう。思ったことをそのままSNS上に投げるリスクについて十分にイメージできないと、その代償は大きいです」
<夏場の男性の匂いや不摂生している方特有の体臭が苦手すぎる>。ここまでなら許容できても、<1日数回シャワー、汗拭きシート、制汗剤においては一年中使うのだけど、多くの男性がそれくらいであってほしい>はアウトかもしれない。当人にすれば、あくまでひとつの例えのつもりだったとしても、働く男性にはほぼ実行不可能であり、難癖と感じる人も多いだろう。
炎上回避ならより求められる言葉選びの慎重さ
8月11日に閉幕したパリ五輪では、SNS上で選手に対する誹謗(ひぼう)中傷や心ない投稿が問題視された。仲間内や、独り言レベルなら、思ったことをそのまま口にしたり、多少の暴言・失言も許されるかもしれない。だが、SNS上は不特定多数が群がる場。それも対面でないだけに、言葉選びにはより慎重さと想像力が求められる。
VOICE社はその後「多数の問い合わせがあった」として16日に改めてHP上でメッセージを発信。契約解除については、「当社宛に川口氏の発言で深く傷ついたという内容のメールや問い合わせが多数届いた」と説明。川口氏との関係性については、「本件以外に於いて良好でありました」と補足した。
また、今後の対策として、「所属アナウンサー並びに従業員に対して、SNS投稿についてのルールの設定」を行うことも報告した。