―[貧困東大生・布施川天馬]―
夏休みシーズンに入りました。夏と言えば、祭りに部活に、学生が忙しい時期ですが、宿題の存在も忘れてはいけません。特に夏休みの読書感想文には苦労される方も多いのではないでしょうか。私も、今でこそ、こうして文章を書くことに抵抗はなくなっていますが、高校生当時は作文が嫌いで仕方ありませんでした。
読書感想文には二つのハードルがあります。ひとつは、書くハードル。もうひとつは、そもそもの課題図書を選んで読むハードルです。課題を達成できるような深みのある本でなくては、1000文字の感想など書けません。
今回は、高校生の読書感想文にお勧めであり、大人もしっかり楽しめる課題図書用の本を3冊お伝えします!
◆『老人と海』
高校生の読書感想文と言えば、『老人と海』は外せません。アメリカの作家アーネスト・ヘミングウェイによる短編で、人間の気高さを描いています。
寂れた漁村に住む老人漁師が、84日もの不漁の後に、海に出ます。そして、大きな大きなカジキと出会う。3日もの死闘の末、彼はこの魚を仕留めますが、村へ帰る道すがら、サメにこの獲物の大半を食われてしまう。
普通の人間であれば、いかに大きな獲物とはいえ、3日にもわたってたった一人、孤独に戦い続けることは難しいでしょう。それに、その戦いによって得たものを、後からやってきたサメに食い荒らされてしまっては、絶望の淵に立たされても無理はない。
しかし、老人は立ち直り、また釣りに行くことを村の少年と約束します。
私は、この小説に、何度打ちのめされても立ち直ることのできる人間の強靭性を見ることができるように感じます。近年では「レジリエンス」という言葉で知られる、弾性を持ったしなやかな回復力を、ここに見出すことができるのではないでしょうか。
高校生の頃は、何かと挫折することが多い年頃です。だからこそ、どんな荒波にも負けない老人の雄姿を見て、人生について何ごとか考える時間があってもいいのではないでしょうか。お勧めの一冊です。
◆『坊ちゃん』
夏目漱石の名作は数あれど、特に私が好きなのは『坊ちゃん』です。初めて手に取ったのは、小学校5年生の時でした。あの頃は、本を読むことは好きでしたが、もっぱら小学生向けファンタジーばかりを読んでいて、現実世界が舞台になった話を好きになることができずに終わってしまいました。
それから数年、高校生になってから改めて手に取った『坊ちゃん』の面白いこと! この作品のすばらしさは、若いうちにはわからないのかもしれません。高校生になって、色々な人とふれあい、様々な経験をしたからこそ、楽しめるようになったのでしょう。
竹を割ったようなさっぱりした性格の「坊ちゃん」が、様々な事件を痛快に乗り切っていく様子が、見ていてとても気持ちがいい。うっとおしい人間関係に悩んでくさくさしている自分が、なんだか馬鹿らしくなってくるようです。
今回は、高校生向けの小説として紹介していますが、もちろん大人が読んでも面白いこと間違いなし。青空文庫で無料で読むこともできますから、ぜひ手に取ってみてください。
◆『成瀬は天下を取りに行く』
古い作品ばかりが続いたので、新しい作品を。『成瀬は天下を取りに行く』は宮島未奈氏による小説作品で、中身はいくつかの短編のオムニバスとなっています。
「成瀬」という女子学生が主人公の作品群で、どれもこれも、成瀬の自由奔放、破天荒な一面を楽しめるものになっています。
先日、本屋に行った際に激押しされていたことから、なんとなく手に取った本作ですが、高校生にとっても読みやすく、面白い小説になっていると感じます。
主人公の成瀬は、自分のやりたいと感じたことを、周りの目を気にせずに初志貫徹、やり通してしまう人物として描かれています。これだけを見ると、「イマドキの子」と感じる方も多いのではないでしょうか。
ですが、そうではありません。私は、成瀬こそ、「イマドキの子がなりたいと感じる姿」を描いていると感じています。
高校生というのも、案外難しいもので、クラス内やグループ内の人間関係を気にしてやりたいことができないなど、微妙な政治的側面を持っています。私が出入りしている学校でも、「○○大学を志望校にしたいけれど、周りの目を気にして言い出せない」なんて子もたくさんいます。
そんな中で、やはり「自分のやりたいことをやりたいといえる」人物は、憧れとなっているように感じます。自分の意志に正直に生きることの困難さを痛いほど知っている、現代人であるからこそ、この小説は刺さるのではないでしょうか。
最近は、人気ウナギチェーンの「鰻の成瀬」ともコラボをするなど、積極的に展開している本作。きっと街中で目にする機会も多いでしょう。気になったら、ぜひ一度読んでみてください。
◆大人も十分に楽しめる作品ばかり
高校の読書感想文で取り上げられるような本は、どれも大人の視線による鑑賞にも十分耐えうる名作ばかりです。当時を懐かしみながら、あるいはまだ見ぬ名作に心を躍らせながら、時には読書を楽しんでみてはいかがでしょうか。
―[貧困東大生・布施川天馬]―
【布施川天馬】
1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を自ら編み出し、東大合格を果たす。著書に最小限のコストで最大の成果を出すためのノウハウを体系化した著書『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』がある。株式会社カルペ・ディエムにて、講師として、お金と時間をかけない「省エネ」スタイルの勉強法を学生たちに伝えている。(Xアカウント:@Temma_Fusegawa)