幼い子供は好奇心旺盛。外出先で目を離した一瞬の隙にどこかへ行ってしまい、あたりを探し回ったなんて経験は親なら一度はあるはず。事実、ショッピングモールなどの大型商業施設では毎日のように迷子の子供が保護されている。
今から数か月前のとある週末、団体職員の西野丈信さん(仮名・27歳)は、買い物のために地元のショッピングモールを訪れた。屋外駐車場に車を停め、建物に向かって歩いていると、入り口付近で4~5歳の小さな男の子が泣いていたとか。ただし、ちょうど大学生くらいの4人組の男女が「お母さんは?」などと声をかけ、保護したところだったという。
◆迷子を発見。店員を呼ぶ事態に
「昼過ぎの時間帯だったのですが、そこはメインの入口ではなかったので人通りは少なく、このまま通り過ぎるのもアレだなと思い、『迷子ですか?』と声をかけました。
グループの1人が『そうみたいです。ただ、近くに家族が見当たらないので、店内から出てきちゃったのかもしれません』と話していました。実際、状況からその可能性がいちばん高いだろうと思いました」
しばらくすると男の子が泣き止んだので名前を聞き、グループの女性メンバーが「どっちから来たの?」と尋ねると、指を差したのは入口の自動ドア。すると、最初に西野さんと話をしたグループの男性が「俺、店員さんを呼んできます!」と1人で店の中へと入ってしまった。
◆母親が大学生に予想外の一言
「本当は男の子を連れてモール内のインフォメーションセンターに連れて行けば二度手間にならずによかったのですが、それを提案する前に行っちゃったので(苦笑)。他人のためにすぐ動けるその行動力は立派だと思いますけどね」
ただし、この状況では男性が戻ってくるまでは動くべきではなく、その場で待つ事に。男の子の相手はグループの女性2人が務めていたが、急に子供の名前を大声で呼ぶ声が。
30代半ばほどの女性が駆け寄って男の子を抱きしめたが、彼女はお礼の言葉を述べるどころか「いったいウチの子に何の用ですか!」と敵意むき出しの態度。グループの女性の1人が事情を説明するも母親は納得した表情ではなかったそうだ。
◆若者たちを般若のような顔で睨む母親
「もしかして連れ去りとか勘違いされちゃったのかなって。だとするとこういう態度を取ってくる母親ですし、ちょっと面倒なことになりそうだなとは思いました」
グループの男性メンバーがショッピングモールの女性スタッフを連れて戻ってきたのはこの直後。何も知らない彼は「お母さんに会えたんだ! よかったなぁ」と男の子に話しかけていたが、母親は彼に対しても般若のような顔で睨んでいたそう。
スタッフが迷子との連絡を受けて保護しに来た旨を伝えると疑いは晴れたが、「だったら最初からそう話しなさいよ!」とキレ気味に言われてしまう。
◆「その態度はないだろ」若者も激怒!
「何度も説明してたんですけどね。結局、最後まで我々やスタッフの方に対する感謝の言葉は一切ありませんでした。それどころか無言でそのまま店内に戻ろうとしました。
はじめは冷静な判断ができず、母親も誤解していたのかもしれませんが、さすがにアレはないなと思いました。特にスタッフを呼びに行った彼は、許せなかったんでしょうね。
『おい、ちょっと待て! あんた、その態度はないだろ!』ってブチ切れてましたから。母親も怒鳴られたことに驚いたのか一瞬身体をビクッとさせましたが、そのまま振り向くことなく立ち去ってしまいました」
◆絶対にお礼の言葉を述べるべきだった
仲間たちになだめられ、西野さんと女性スタッフに申し訳なさそうに「すみません……」と頭を下げてきた男性。しかし、とても責める気になれず、「俺も君と同じ気持ちだったから。むしろ、代わりに言ってくれてありがとう」と感謝の言葉を伝えたそうだ。
「今は社会人なので多少気に入らないことがあっても態度や言葉に出すことはないですが、学生時代の私なら彼よりひどい口調で母親を罵っていたかもしれません。
あの状況ではお礼の言葉を述べるべきですし、ほかの方もそれが当たり前だと思っていたので……。だから、あの時のことを思い出すと今でも正直ムカッ腹が立ちます」
◆もう迷子を見かけても保護できない?
しかも、この一件がトラウマになってしまったのか、「今後、迷子の子供を見つけても声をかけるのは気が引けますよね」とも漏らす。
「あれだけの人数で保護してもこんな目に遭いますし、仮に自分1人で保護した場合、下手すれば不審者扱いで警察沙汰にされかねないだろうなって。最終的に身の潔白が証明されてもすごく労力と時間がかかると思うんです。
だったら迷子の子供には悪いけど、見て見ぬフリをしたほうが自分に害が及ぶことはありませんから」
確かに、こんな経験をすれば善意で手を差してあげたいと思ってもためらいたくなるのは仕方ないかも。
<TEXT/トシタカマサ>
【トシタカマサ】
ビジネスや旅行、サブカルなど幅広いジャンルを扱うフリーライター。リサーチャーとしても活動しており、大好物は一般男女のスカッと話やトンデモエピソード。4年前から東京と地方の二拠点生活を満喫中。