病気と共生して、健康に生きる
このように、西洋流二元論は、いま、あちこちでほころびを見せています。二元論ではとらえられない〝真実〟があることに、多くの人が気付きはじめたわけですが、病気と健康の関係についても、まったく同様のことがいえるのです。
西洋医学ではこれまで、病気の原因、たとえば細菌やウイルスといったものを排斥しようとしてきました。しかし、人間は一部の細菌やウイルスとも共生してきたのです。たとえば、悪玉菌の代表のようにいわれる大腸菌ですが、これが腸内にいなければ、じつは人間は食べたものを消化することができません。
また、私たちの周囲の環境を見ても、バクテリアが有機物を分解してくれているがために生態系のバランスがとれています。諸悪の根元のように言われているウイルスですら、人類の進化に貢献してきたものがあるのです。私たちが生きるということは、こうした微生物と共生し、さらには病気とも共生することだと言えるのではないでしょうか。それなのに、無理やり病気を追放してしまおうとするから、ゆがみが出てきます。
ありもしない「健康」という名の幻想を求めるがあまり、かえって健康から遠ざかっている人もいるのではないでしょうか。健康食やサプリメントをとっているために、逆に日常の食事がおろそかになっている人。高いお金を払ってスポーツクラブの会員になり、体を動かすことよりも「会員である」というプライドを満たしているだけの人。こういった人たちは極端な例としても、きっちり健康管理をして運動もしっかりしていた人があっさり心筋梗塞で死んでしまった、という例もあります。いくら「健康幻想」を追い求めても、病気そのものと無縁で生きることはできないのです。
これからの高齢者社会では、血圧が高いとか、糖尿の気があるとか、病気をかかえた人が増えてくることでしょう。そうした人たちを、すべて「病気だから健康ではない」と切り捨ててしまったら、不幸な人を大量につくり出すだけです。「自分は病人だ、もうダメなのだ」と絶望してしまったら、その人はほんとうに病人になってしまい、生きる気力もなくなってしまいます。
しかし、病気を持っている人でも、病気とうまくつきあって共生していけば、いくらでも健康に楽しく生き、円熟した豊かさを味わうことができるのです。病気の排除から、病気との共生へ。このように二元論を越えて、健康と病気をボーダーレスととらえることこそ、健康について考えるうえで、これからは重要なポイントになってくるのです。
大島清
医学博士