コロナ禍も明けて、本格的に恋愛をしようとマッチングアプリを始めた電気メーカー勤務の会社員・相良雅彦さん(仮名・36歳)。月額3700円を支払い、運命の人を探すために「いいね!」を地道に押し始めたそうだ。
◆森七菜そっくりの20代童顔OLとマッチングするも……
すると4日後に、IT企業に勤務する27歳の童顔OLとのマッチングに成功。女優の森七菜によく似ており清純で明るそうな印象を受け、天にも昇る気持ちに。しかし、今思えばこのときから悪夢の予兆はあったと振り返る。
「普通であれば、マッチングした後にお互いの職業や出身地、趣味について簡単な会話のラリーをアプリ上のメッセージでするはずですが、彼女の場合は違いました。
2ターン目で『メッセージだけだと雰囲気が分からないので今週末にご飯でも行きませんか?』と送ってきたんです。確かにマッチングアプリのやり取りって結構面倒なので、会ったほうが早いかなと彼女の意見に賛同しました。ルックスがタイプだったので浮ついていたのもありましたが……」
◆初デートで恵比寿の高級韓国料理店を自ら指定
こうして、週末の食事デートを了承した相良さんだが、そこから彼女の一方的な連絡攻勢が始まった。『場所は恵比寿だと都合が良いです』『韓国料理で行きたい店があるんです』というメッセージとともに、韓国料理店のURLが送られてきたそうだ。
「恵比寿は家からも遠くないし、自分で店を決めるのも得意ではないのでありがたいなぐらいの気持ちだったんですが、送られてきた韓国料理店の単価を見て驚きました。タン塩やカルビが一人前3000円ぐらいで、キムチも1000円を超えていたんです。とはいえ、最初のデートでそこまで食べないだろうと思い、『OKだよ』と送ってしまいました」
そのメッセージを受けて彼女は「うれしい! たくさんお話しましょう。楽しみにしてますね」と送ってきたという。愛想のよい返信をくれる彼女に好感を抱いた相良さんは、ウキウキで当日を待っていた。
◆20分遅刻したのに謝罪はナシ
当日の夕方、恵比寿駅の西口改札前で集合することになっていた相良さんとマッチング女性。駅徒歩5分の場所にある店を18時から予約したので、待ち合わせは17時50分。ところが、18時ちょうどになっても彼女は現れず、相良さんは焦った。
「結局、彼女はゆっくりと歩きながら18時10分に待ち合わせ場所にやってきました。ドタキャンがよぎっていたので、そのときは『遅れているんだから走れよ』という気持ちよりも『来てよかった』と思ってしまったんです」
すると、彼女は遅刻したことを謝るそぶりを一切見せずに「初めまして」と真顔で挨拶してきたという。実際に対面した彼女は、森七菜そっくりとまではいかなかったが、写真とほとんど変わらない童顔で優しそうな雰囲気。
相良さんは「まぁ遅刻したとはいえ20分ぐらいだし。メイクをしていて遅刻したのだろう」と自分に言い聞かせた。
◆移動中の会話は無視…… いきなり「特上」を注文
店に向かう道中、相良さんは彼女に「今日はどこか出かけていたんですか?」と尋ねると、ガン無視。恵比寿の雑踏に声がかき消されたのかなと思いながら「今日はありがとうございます」と別の言葉を投げかけるも、これもスルー。
韓国料理店に到着し、相良さんが店員に遅刻を謝罪していると、別の店員に予約席を聞いて、勝手に席に向かう彼女。戸惑う相良さんを尻目に、彼女は「注文していいですか?」とようやく口を開く。
すると、6000円の「特上タン塩」、4200円の「特上カルビ」、さらには「キムチ盛り合わせ」と「ユッケジャンクッパ」を一気にオーダーし始めた。
いきなりの出来事に驚いていると、彼女は「お腹ペコペコで。ダメですか?」と冷静な口調で返してきたという。そのあまりの圧に、相良さんは「どうぞ」としか言えなかったそうだ。
◆ロボットのような返答のみで料理を食べまくる
肉や料理が席に運ばれると、黙々と焼き始める彼女。相良さんは「改めまして。電気メーカーで営業している相良です」と自己紹介をスタート。当然、向こうからのリアクションもあるかと思ったが、ジュージューと焼かれている肉に夢中。
仕方なく「どんなお仕事をされているんですか?」と聞くと、「OLです」とだけ回答。「何系の会社ですか?」と聞いても「メーカーです」と答えるだけ。
「その後も『趣味はありますか?』と聞いても『特にないです』と言われ、『アプリで何人か会っているんですか?』と聞くと『初めてです』と、いかにもテキトーな感じで返事をしてきました。まるでロボットと会話しているような一問一答が続いて、向こうから僕のことを聞かれることはなかったです」
◆「トイレに行ってきます」と言い残して逃走
焼き上がった「特上タン塩」や「特上カルビ」を相良さんにも取り分けてくれたものの、会話はほとんどないまま、ひたすら食べていく彼女。
「ユッケジャンクッパ」にいたっては取り分けることもせずに完食。お互いに生ビールを頼んだが、一口飲んだだけで“お酒の場を楽しむ”という気配はなし。
「これは食事目的のために来たな、と怒りがこみ上げてきて『絶対に割り勘しよう』と思ったとき、突然彼女が『トイレに行ってきますね』と荷物をもって席を立ちました。今思うと、トイレの場所を聞いていなかったので、来たことあるお店だったんだと思います」
肉と料理は無くなったまま、待つこと10分。一向に戻らない彼女が不安になってきた相良さん。ぬるくなったビールを飲み干して、トイレに行ってみると女性用トイレは扉が開いており、誰もいなかったそうだ。
◆すでにアカウントは削除されやり取り不能に
「まさか……と思って、店員さんに『一緒に来た女性がどこに行ったか分かりますか?』と聞いてみたんです」
すると、店員は「お連れ様は『予定があるので先に出ます』と言って出て行きましたよ」と、衝撃の言葉が返ってきたそうだ。
膝から崩れ落ちそうになった相良さんはすぐにマッチングアプリを開き、彼女とのメッセージのページを開こうとするも、すでに彼女のアカウントは消されていてやり取り不能になっていた。
◆アプリ運営会社は「対応しかねる」
遅刻してきた女性に高級韓国料理を食い逃げされるという散々な目に遭った相良さん。逃走した女性のプロフィールの『初回のデート費用』という項目が「男性が全て払う」になっていたことを思い出したそうだ。
「もちろん、会話が盛り上がればごちそうするつもりでいましたけど、まさか『トイレに行く』と言って逃げ出すとは思いもよらなくて、腹が立ちました。
すぐにアプリの運営に問い合わせしましたが『アカウントを消したユーザーについては対応しかねる』と言われました。まぁメッセージもろくにしないで彼女の誘いに乗った僕が悪いので、それ以上運営を責めることはできませんでした……」
◆『初回のデート費用』で「男性が全て払う」は要注意
このトンデモない一件に懲りた相良さんはしばらくマッチングアプリを辞めていたそうだが、現在は結婚相手を探すために再開。
しかし、『いいね!』を押す女性の年齢は同世代にし、『初回のデート費用』の項目も「相手と相談」か「割り勘」を選んでいる人に絞って探すようにしているとか。
もちろん、いきなり「食事に行きましょう」というメッセージには返答しないようにしているとのことだ。彼の婚活が報われることを信じたい。
<取材・文/木田トウセイ>
【木田トウセイ】
テレビドラマとお笑い、野球をこよなく愛するアラサーライター。