スペインでこの夏、増え続ける観光客への制限を求める、大規模な反ツーリズムデモが起きた。昨今、観光地の住民の多くが、耐えがたいレベルのオーバーツーリズムに悩まされおり、何らかの対策が求められている。
◆誰もが得するやり方? 分散の取り組み
観光客を抑制するため、スペインのバルセロナはクルーズ船や日帰り観光客を制限し、観光税を引き上げた。イタリアのベネチアは入場料を徴収するなど、大きな観光地はすでに観光危機への対策を講じている。
こういった対策について、ジョージワシントン大学のゼヴァット・トスン教授は、効果がある可能性は高いが、観光客に負担をかけ、旅行の機会を制限する恐れがあると述べている(旅行業界誌トラベル・ウィークリー)。
ブレダ応用科学大学のオンドレイ・ミタス氏が2021年、ある興味深い実験を行った。ミタス氏は、観光客を2つのグループに分け、1つのグループには人気観光地がマークされたアプリ、もう1つにはあまり知られてない観光スポットを推薦するAI(人工知能)コンセルジュをツールとして与えた。各グループは提示された場所を観光した後にアンケートに回答。結果は旅行に対する満足度は同等だったという。
この結果を参考に、オランドのアムステルダムとデンマークのコペンハーゲンは現在、AIを使って観光客を隠れた名所に誘導している。過密観光を減らすと同時に、従来の人気観光地以外の収入アップにつなげている。さらにこの2都市では、良い行動に報酬を与え、住民へのオーバーツーリズムの悪影響を抑えようとしている。公共交通機関を利用するなど、環境に配慮した行動を取った観光客は、報奨金を得ることができるという。(英ミラー紙)
◆ソーシャルメディアの罪? 秘境に押し寄せる観光客
もっとも、オーバーツーリズムは有名観光地以外にも及んでいる。これまで地元住民しか知らなかった隠れスポットがソーシャルメディアのインフルエンサーに紹介されて人気になり、ゴミの増加、渋滞、物価上昇などを招いたりしている。
英サリー大学のジェームス・ケネル氏は、この現象は「ソーシャルメディアに誘発された観光」と呼ばれており、有名観光地の観光客の増加とは別の問題だと指摘する。もともと受け入れ態勢ができていない場所に観光客が予想外のスピードで押し寄せていることから、住民は対応に苦慮しているという。さらに悪いことに、うまく編集された動画では、手つかずの楽園のような光景を映す一方、地元の困惑や不安はほとんど伝わらない。(英i紙)
◆観光客の意識は高いが… 行動伴わず
上述のトスン教授は、オーバーツーリズム対策として長期的に大切なのは、教育だと指摘する。教育は旅行や観光に対する考え方の形成や、後の行動に大きな役割を果たすからで、若い世代が過剰消費を避け、責任ある行動を取れるように準備する必要があるとしている。(トラベル・ウィークリー)
英調査会社カンターが昨年発表した市場調査結果では、旅行者の82%が持続可能性を重要視していると回答したが、実際に行動を変えたのはわずか22%だった。意識の改革は進んでいるため、行動を奨励する対策が、今後のオーバーツーリズム抑制のカギとなりそうだ。