アパート経営を始めると、入居者からのさまざまな苦情やクレームに直面する場面があります。そのなかでも特に多いのが、「隣人や上の階の住人がうるさい」といった騒音トラブル。騒音トラブルは、該当入居者に注意をしたら終わりといったものではありません。本記事では、騒音トラブルにおけるアパートオーナーの責任範囲や正しい対処方法について、法律事務所Zの溝口矢弁護士が解説します。
騒音トラブル解決が難しい、3つの理由
賃貸物件で、しばしば起こるのが騒音問題です。近隣住民が客を招いて騒いだり、大音量で音楽を流したり、夜中の生活音がやたらと大きかったり……さまざまな形で問題が発生します。
しかし、騒音を発生させているといわれている入居者に注意をしたり、退去を迫ったりすることは簡単ではありません。その理由として、次の3つがあげられます。
1.音の感じ方は人それぞれ
騒音にあたるかどうかは、騒音規制法や各地の条例が定める規制基準を超えるかどうかによって判断されます(たとえば、東京都渋谷区の騒音の規制基準)。
しかし、規制基準を把握されている方は少ないです。そのため、賃貸物件の入居者としては、自身が「うるさい!」と感じたら騒音だと主張します。
オーナーとしては、「騒音が発生している」というクレームが入ったとしても、事実関係を根拠に基づいて正確に判断しなければいけません。もし騒音にあたるような音が発生していないのに注意をしてしまった場合は、かえってトラブルにもなりかねません。
単純に音の大きさだけではなく、気象状況や物件の構造、音が聞こえるといわれている場所等によって音の出方や聞こえ方が変わってくるので、その判断も至難です。
2.証拠をおさえなければならない
事実関係を正確に把握するためには、きちんとした証拠をそろえなければなりません。
しかし、音が発生するタイミングは一定ではありませんし、証拠化するための録音方法にも工夫が必要です。また録音方法が不適切である場合、証拠としての価値が薄れ、騒音が発生していることを立証できないこともあり得ます。証拠を集めるのも一苦労なのです。
3.対応コストがかかる
仮に騒音があることを把握した場合でも、問題を解決するためには時間的にも金銭的にもコストがかかります。
騒音を発生させている入居者に注意をしても、なかなか改善されない場合があります。やむを得ず退去を迫る場合でも、交渉には応じてもらえないことが多く、裁判をしなければならない場合も。この際には、裁判費用や弁護士費用だけでなく、騒音が発生していることを確認するための鑑定費用までかかってしまうことがあります。
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オーナーはどうするべきか?騒音トラブルの対応策
騒音トラブルを解消し、安心して過ごせる物件にすることは、入居者の定着・安定した賃料収入の確保のために大切なことです。以下では、騒音トラブル解消のための対応策をご提案いたします。
賃貸借契約時に騒音を発生させる要素を排除する
まずは、予防的な対応として、賃貸借契約時に防御をしておくことが考えられます。
たとえば、店舗としての利用を予定している入居者と賃貸借契約を締結するにあたっては、賃貸借契約書に明確に音響機器の使用を禁止する条項を設けることが考えられます。
特に入居者がカラオケやピアノの使用を希望している場合には、単に迷惑をかけない旨の条項を設けるだけでは足りない場合もあります。明確に使用を禁止する条項を設けなければ、入居者の希望に応じて契約締結に至ったと解釈される可能性も否定できません。
また、オーナーにその意思がなくても入居を募る仲介業者がセールストークで、カラオケやピアノの使用を認めるといってしまっていたために、あとからトラブルになるケースもあります。このような行き違いが生じないよう仲介業者とのコミュニケーションもしっかりととるようにしましょう。
正確な知識に基づき適切な証拠集めをすること
騒音を主張するにあたっては、規制基準に関する法律や過去の裁判例を踏まえ、適切な証拠集めをすることが重要です。
たとえば、マンション内の店舗のカラオケ騒音が住民の迷惑となり、店舗とオーナーの信頼関係を破壊するに足りる事情があるとして、賃貸借契約の解除が認められた裁判例(横浜地方裁判所平成元年10月27日判決(判タ721号189頁))があります。
この裁判例では、住民・マンション管理組合の苦情や警察官・横浜市公害対策局騒音課の注意、指導を無視して営業を継続したこと、その後に誓約書を書いたにもかかわらず些細な改善措置しかとらなかったこと、午前3時過ぎまでの営業を繰り返していたこと等が理由となって、賃貸借契約の解除が認められています。
この裁判例からもわかるように単に騒音が発生していれば賃貸借契約の解除や退去が認められるという簡単な話ではないのです。
~ワンポイントアドバイス~
市や区では、騒音トラブルの相談が多く寄せられるため、騒音計の貸し出しを無料で行っていることがあります。騒音トラブルが発生した際は、まずは騒音計を借りて、音の大きさを計測して様子見してみるのも一案です。
弁護士に相談すること
どのような事実が認められればよいのか、証拠をどのようにして集めるのがよいのか等は、個別の事例によってもさまざまです。
また、上記の裁判例からもわかるように、交渉の経過も非常に重要な要素です。トラブルが発生した初期の段階で、騒音や不動産問題に詳しい弁護士に相談し、適格な助言を得ることをおすすめします。これにより、紛争の早期解決や効率よく質の高い証拠収集を実現し、オーナーのご負担を軽減することができるでしょう。
また、交渉を弁護士に任せると、相手の出方を見て適切な落としどころを見つけてもらえる場合もあります。
たとえば、入居を続けたい入居者と交渉して入居者の費用負担で防音工事をしてもらい騒音自体が発生しないようにしてもらえる場合もありますし、引越しを考えていた入居者が若干の解決金の支払いと引き換えに任意に退去してくれる場合もあります。
騒音トラブルは上述のとおり解決が難しいことも多いため、早めに弁護士へ相談をしてしまうのが吉です。