難関大の学生や大学院生の間では定番のアルバイトの家庭教師。時給の高さに加え、1回あたりの勤務時間の短さもあり、実際にやったことがある人も多いだろう。
だが、生徒の親にしてみれば高い授業料を払っている以上、「学生だから……」との言い訳は通用しない。成績が上がらなければ契約の打ち切りは日常茶飯事。そうでなくても学校や塾以上に保護者から何かと口を出されやすい。
現在、バイオ関連企業の研究部門で働く村田光将さん(仮名・30歳)も大学や大学院在学中は家庭教師のアルバイトをしていたひとり。基本的にはどの生徒や親とも良好な関係を築いてきたが、院生時代に担当していた中学2年(当時)の男子生徒の母親とだけは折り合いが悪かったようだ。
◆中途半端な知識を披露し、口を挟んでくる教育ママ
「すでに大学時代から何人も教えていましたし、実際にテストの平均点もアップさせるなど結果も出していました。だから、登録していた家庭教師センターのマニュアルから逸脱しない範囲で自分なりの教え方というはあったし、その生徒も本人はすごく素直な子でした。
けど、母親は教育熱心なのはいいのですが、ネットや本などで得た聞きかじり程度の知識で指導方法に口を挟んでくるんです。あれには本当に参りました」
生徒は2年生の夏休み期間中から週2日指導。勉強よりサッカー部の活動に力を入れている子で、もともとの偏差値は50台前半とクラスでもほぼ真ん中。村田さんも中学時代まではサッカー部に所属し、現在も趣味で海外サッカーをテレビで観戦。その話で生徒と盛り上がることも多かったそうだ。
◆授業をこっそり録音されていた
「もちろん、脱線しても困るのでそういった話は授業が終わった後にしていました。でも、授業中もリラックスさせようとわざと冗談などを飛ばしたりしていました。
しかし、母親はそれが気に食わなかったのでしょうね。『もっと真面目に教えてほしい。授業中も緊張感を持たせるべき』とお叱りの言葉を受けました」
ただし、授業中は生徒の部屋で2人きり。にもかかわらず目の前に授業の一部始終を聞いていたかのようにダメ出しをされたので不思議に思ったとか。
「後で知ったという生徒本人から聞いたのですが、母親はこっそりICレコーダーを置いて授業の様子を録音していたそうなんです。私が担当するようになって以降、彼が母親に自分のことをあれこれ話していたことが気になったらしく、ちゃんと授業をしているのか不信感を持たれてしまったようです」
◆成績アップという目標を果たすもダメ出しばかり
当然、きちんと教えているとの自負はあった。二学期に行われた中間・期末テストと模擬試験では、担当する英語・数学・理科の三教科の点数がいずれも上がっており、目に見える形で結果も出していた。
ちなみに母親からの感謝の言葉はなく、「なぜ、ここまで言われなきゃならないんだ、との不信感は大きくなりました」と振り返る。
「緊張しっぱなしでも良くないし、勉強嫌いになって逆効果となる可能性もある。冗談も場を和ますためにあえて言っているとひとつずつ丁寧に説明しました。ですが私の話に理解を示してくれる様子はなく、それどころか契約の打ち切りを示唆されました」
◆やる気をそがれ家庭教師を辞めた
実は、当時の村田さんは茶髪で、家庭教師の時は外していたが、普段は耳にはピアスも付けていた。
「もしかすると、そうした私の見た目に嫌悪感を持っていたのかもしれません。最初から壁のようなものを感じていたので。それでも相手は母親なので意見を尊重し、授業中の冗談も控えていましたが、今度は『授業後の余計な会話もやめてほしい』って」
家庭教師センターの担当者にも相談したが「保護者の方とよく話し合って……」と言うばかりで頼りにならない。次第に辞めたい、あの家に行きたくないと思うようになり、二学期が終了した時点で家庭教師を降りてしまう。
「一応、研究が忙しくなったことを理由に挙げましたが、これはただの口実。ついでにその家庭教師センターが何のフォローもしてくれなかったので登録を解除しました」
ところが、それから3か月が過ぎた翌年の3月下旬、自身のスマートフォンに母親から着信。何事かと思って電話に出ると、また家庭教師をやってくれないかとの打診だった。
◆あまりに上から目線の態度だったので最後にガツンと言ってやった!
「後任の家庭教師のことも気に入らなかったらしく、自分のほうがまだマシだって。相変わらずの上から目線だったから言ってやったんです。『私も人間ですからあんな風に文句を言われてまで教えたくない』って。
受話器の向こうで盛大にキレてましたが、『そういう態度です。自覚がないなら気を付けたほうがいいですよ』とだけ言って電話を切りました。
その後も何度か着信はありましたが無視し、もう相手をしたくなかったので着信拒否。今思えば若気の至りですが、あの時はすっきりしました。生徒には最後まで面倒を見ることができず、申し訳ない気持ちでしたけどね」
家庭教師だけでなく学校や塾の先生にも共通して言えることだが、重要なのは親にとってではなく子供にとっていい先生であるか。そこをもう一度考えてほしいものだ。
<TEXT/トシタカマサ>
―[カスハラ迷惑客を成敗]―
【トシタカマサ】
ビジネスや旅行、サブカルなど幅広いジャンルを扱うフリーライター。リサーチャーとしても活動しており、大好物は一般男女のスカッと話やトンデモエピソード。4年前から東京と地方の二拠点生活を満喫中。