富士山の絶景と組み合わせ、「映える画像」が撮れるとして、インバウンド客が殺到し、対面の道路側に目隠しのための黒幕が張られる事態に発展した「ローソン河口湖駅前店」。人気観光地で発生したアノ騒動から3か月が経過した。当時、多くのメディアも駆け付けた富士山黒幕騒動はその後どうなったのか。
8月上旬、騒動の震源地、河口湖へ向かった。河口湖へは、車以外では高速バス、電車が足となり、インバウンド客は河口湖駅を経由するのが一般的だ。今回、編集部は都内から高速バスで、現地へ乗り込んだ。
インバウンド客でごった返すが、あの場所はすっかり平穏
早朝発の高速バスが、停留する河口湖駅へ到着するとすでに観光客でごった返していた。そのほとんどはインバウンド客だ。少なく見積もっても、8割以上は外国人観光客だった。
ここから徒歩2分の場所に、あのローソンがある。さっそく足を運ぶと、意外な光景が待っていた。それなりに人はいたものの、観光客が殺到するようなことはなく、ごく普通のコンビニ前の風景と変わらない穏やかさだ。
黒幕は茶色のより丈夫なシートに張り替えられていた(弁護士JP編集部※現在は一時取り外し中)
当時の黒幕も、穴をあけられるなどしたため、7月末に丈夫な素材のシートに張り替えられ、色も周囲の景観に合わせ、茶色に衣替えされていた。
一応、警備員がひとりいたものの、警備するほど人が通行することもなく、アノ騒動はすっかり、過去の話になったような印象だ。
町は収束宣言
「シートを張って以降、あの店舗に人が殺到することはなくなりました。もうすっかり落ち着きましたね」と富士河口湖町観光課のスタッフも、騒動収束を宣言した。
「海外のインフルエンサーの方が、2022年秋ごろ富士山とローソンの画像を拡散したことで、あのローソンが一躍有名になりましたが、それ以前は人が集まることもないごく普通のコンビニと変わりませんでした。あの時はSNSの影響力ってすごいなと思ったものです」と前出のスタッフは明かす。
町も騒動の“終結”を宣言(弁護士JP編集部)
震源地となったそのインフルエンサーが台湾アーティストだったことから、いまでも拡散されたローソン河口湖駅前店は聖地になっているという。取材当日も、アジア系と思しき外国人のほとんどが「富士山なし」でもローソン外観だけを熱心に撮影していたことがその影響力を物語っていた。
消えた外国人観光客はどこへ行ったのか
では、富士山ローソンで一躍有名になった聖地から消えた外国人観光客はどこへ行ったのか。そのヒントは、意外にも足を遠ざけさせた目隠しシートにあった。
「町としての課題は、河口湖に観光に来た人をいかに分散させるかでした。せっかく来ていただいてるのに、河口湖の一部しか知られていないのはもったいない。そこで、インバウンド客用に多言語対応の紹介サイトを新たに作成し、幅広く町の魅力を知ってもらい、いろいろなスポットに足を運んでもらおうといま力を入れています」(前出の観光課スタッフ)。
この二次元コードから町の詳細な案内ページへ飛べる(弁護士JP編集部)
実は、そのサイトへ誘導するための入口が、シートの中央付近に二次元コードとして貼られている。インバウンド観光客のお目当てだった絶好の撮影スポットを遮るシートに、注意喚起の警告文を張り付けるのではなく、他の見どころを知らせる情報を掲載するとは、町も考えたものだ。
大小のバスが町を巡回し、客を分散化(弁護士JP編集部)
実際、インバウンド客の現地の主な足となるバスは、河口湖周辺をくまなく巡回し、他エリアのローソンや飲食店などでも停車。たいていの場所から富士山が望める富士河口湖町の魅力をより深く知ってもらうべく、客の分散化に貢献している。
オーバーツーリズム問題の理想的な解決策とは
2023年のデータ※では、同町を訪れた外国人宿泊客は57万6299人。コロナ前には及ばないものの、今年はそれよりも伸びる勢いで、着実にインバウンド客が戻ってきているという。
このうち、最も多いのが台湾からで11万8332人、次いで香港8万3834人、タイ6万1881人とアジア勢がトップ3を占める。欧米ではアメリカ3万6277人、オーストラリア2万8268人、フランス1万1330人と同町には多様な国々の人が訪れている。
※富士河口湖町観光連盟
町にはアジア系を軸に多くのインバウンド客が訪れる(弁護士JP編集部)
これら外国人観光客を魅了する吸引力は、世界遺産富士山の麓に位置し、富士五湖のうち、4つ湖を有する恵まれた同町の環境だ。そうした中で突如ぼっ発した富士山黒幕騒動。その根源は、ごく限られた場所で、生活道路や地元店舗の安全を脅かすほどに殺到した観光客が、ルールやマナーを無視して地元住民の反感を増幅させたことにある。
オーバーツーリズムと重ねて問題視する捉え方もあったが、富士山黒幕騒動は単純にそれとは同列に語れないだろう。前者は、本来の観光地が増えすぎた観光客で住民の生活も含めた機能不全に陥ることであり、後者はもともと観光地でないスポットがSNSの影響で一躍注目されたにすぎないからだ。
それでも、観光客を分散させるのは観光公害に共通の有効な解決策のひとつに違いない。今回の富士山黒幕騒動は、結果的に観光地がオーバーツーリズムとどう向き合うのが最善かを考えるきっかけになった点で意義があるだろう。15日には台風7号の影響を考慮し、一時的に取り外された目隠しシート。もともと暫定的な対策であり、現状では騒動も収束しており、このまま平穏が維持されるなら、目隠し対応も幕引きとしていいのかもしれない。