がんの影響で介護が必要になった場合は、65歳未満であっても「介護保険」を利用できます。高齢者でなくても、特定疾病に当てはまれば利用可能であることを知っている人は意外にも知られていません。そこで、介護保険で利用できるサービスや受け取ることのできる給付費について、勝俣範之氏の著書『あなたと家族を守る がんと診断されたら最初に読む本』(KADOKAWA)よりみていきましょう。
介護保険は“65歳未満”でも利用できる
【登場人物】
■教える人……勝俣範之先生
あらゆる部位のがんを診られる腫瘍内科医として日々診療にあたっている。
■教わる人……編集者O
身近にがんに罹患する人が増えて、わからないことだらけで心配になっている。
勝俣範之先生(以下、勝俣):がんの症状が進行して、その治療で介護が必要になった場合、介護保険料を支払っている方は「介護保険」を利用できます。
編集者O(以下、O):介護保険は通常、65歳以上の高齢者が利用できるものだと思っていました。
勝俣:65歳以上の人を第1号被保険者、40~64歳までを第2号被保険者と呼びますが、第2号被保険者であっても、厚生労働省が選定した16種類の特定疾病に当てはまれば利用できます。がんも、その疾病の1つですよ。
O:たしか介護保険を利用するには、要介護認定が必要でしたよね。その認定を受けるには、どうすればいいのですか?
勝俣:患者さんがお住まいの市区町村の窓口に、申請書、介護保険被保険者証、健康保険証などの必要書類を提出して申請します。もし、患者さん本人やご家族の方が申請手続きをできない場合は、地域包括支援センターなどが無料で申請の代行をしてくれます。
O:それなら役所まで行くのがしんどい方でも安心ですね。
勝俣:申請が受理されると、健康状態を報告するための「主治医意見書」の作成と、本人の状況を調査するための「訪問調査」があります。なお、主治医の意見書は、役所から主治医へ直接、依頼がいくので、患者さんが手続きする必要はありません。
主治医には、事前に要介護認定の申請をすることになったと伝えておくのがいいでしょう。その結果をもとに、介護認定審査会が行われ、要支援度や要介護度が決定されます。その要介護度の区分によって、介護保険で利用できるサービスの内容や月ごとの給付費の上限が決められ、その範囲内での介護サービスを受けることができます。
O:その決定までは、どのくらいの時間がかかるのですか?
勝俣:だいたい1か月程度です。
O:介護サービスを受けるときの料金は、すべて保険でまかなわれるのでしょうか?
勝俣:サービスを受けるには、原則、1割の自己負担が必要です(ただし、65歳以上で一定以上の所得がある方は2割または3割の自己負担)。
O:ちなみに給付費の上限を超えてサービスを利用した場合は、どうなるのでしょうか?
勝俣:超えた分だけ、その全額を自己負担することになります。
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保険で利用できる介護サービス
O:なるほど。保険でどんな介護サービスを利用できますか?
勝俣:介護保険の専門家であるケアマネージャーが給付費の範囲内で利用できるサービスを組み立てたケアプランを作成してくれますから、それにしたがってサービスが受けられます。たとえば、自宅に来てもらう訪問サービスとしては、訪問介護、訪問入浴、訪問看護、訪問リハビリテーションなどがありますよ。
O:がんの療養や治療はつらいときや大変なときがありますから、介護保険で受けられるサービスなどを上手に利用して、家族も本人も少しでも気持ちよく過ごしたいですね。
勝俣:実はそうした人的なサービスだけでなく、介護保険では、安心・安全に過ごすために自宅の改修や、車いす、電動ベッドなどの福祉道具のレンタルや購入に対する補助もあるんです。
O:えっ、そうなんですか。それは助かりますね。そのための手続きはどうなっていますか?
勝俣:改修場所や方法に制限があり、利用するには地域包括支援センターやケアマネージャーを通して事前に申請する必要があります。介護サービスと同じように1割の自己負担で工事を行うことができます。住宅改修のための工事費の支給限度額は20万円となっています。この場合も、改修費が20万円を超えた場合は、その分の金額は全額自己負担になります。
O:福祉用具のレンタルや購入に関しては、どうなっていますか?
勝俣:それぞれの内容や支給限度額は、[図表1]を参考にしてください。なお、介護保険で福祉用具をレンタルする場合は、福祉用具専門相談員が訪問して点検してくれるので、体の状態などの変化に合わせて選び直すこともできて安心ですよ。
勝俣 範之
日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科
教授/部長/外来化学療法室室長