“町中華”の閉店が相次ぐ一方で、「餃子の王将」「バーミヤン」中華チェーンが好調のワケ

「町中華」と呼ばれる地域に根ざした大衆的な中華料理店のブームは今もなお続いている。とはいえ、それは一部の店舗の話で、全体としての個人店の経営状況は非常に厳しいものがある。

 一方で、チェーン店は標準的な料理を中心に幅広い客層に支持される店づくりになっている。ターゲット層をボリュームゾーンに設定し、調理も個人の技術や経験に依存せず、誰でも可能なように組織的対応をしており、その安心感を売りにしている。セントラルキッチンも設けて現場の負担を軽減させているのが特徴だ。

 今回は、ラーメンチェーン業界で売上・店舗数ともに1位の「餃子の王将(株式会社王将フ-ドサ-ビス)」と、外食業界売上3位のすかいらーく傘下で勢いを増す「バーミヤン」を取り上げたい。

◆人材不足で廃業する個人店が増加

 地域で存在感を増す町中華は、個性豊かで独自の強みを持っており、店を支える家族と常連さんで一体感が醸成されている。中華料理店は店舗数5万5000店舗、市場規模は1兆1629億円で内訳は中華料理5686億円、ラーメン店5560億円、その他が382億円となっており人気の業種である(全国中華料理生活衛生同業組合、2018年)。

 個人経営の味は店主に依存しており、独自のメニュー構成など、オンリーワンの料理に客はファンとなるもの。最近は、町中華のオムライスが話題だ。だが、バラツキもあり、当たり外れがあるのも町中華の面白みだ。

 一方で、中華料理店の約7割が個人経営であり、店主の高齢化の進展、後継者不足、物価高騰、人手不足などの課題を抱えて、廃業する店が増えている。やはりチェーン店のように組織的対応できない店は、事業の継続が難しそうで、今後も廃業が増えることが懸念されている。

◆チェーン店でありながら異なる特徴

 ラーメンチェーンで売上1位でもある餃子の王将は、1967年創業でブランド認知度が高く、売上は昨年1000億円を突破した。一方、バーミヤンは1986年に開業したすかいらーく傘下の中華チェーンで中核ブランドのガストに次ぐ店舗数を誇っている。

 餃子の王将が732店舗(FC190店舗、2023年3月時点)、バーミヤンが359店舗(2024年7月時点)と、ほぼダブルスコアとなっている。しかし、餃子の王将は一人客が多く、小型店においてはカウンターだ。バーミヤンは大型店の標準設計となっており、卓数と席数は多めに確保するなどゆったりとしていて単純には比べられないようだ。

 両社とも、メインターゲットはファミリー客である。餃子の王将は、少量サイズ(ジャストメニュー)を酒のツマミにビールを飲み、仕上げに麺飯類で堪能する一人客も多いようだ。バーミヤンはほとんどがテーブル席で、落ち着いた雰囲気の中で家族客やグループ客(女子会など)がリーズナブルな価格の中華料理を食べられるように設計されている。

◆バーミヤンの鮮度を重視したメニュー作り

 商品は、両社ともに標準化した味付けと通常サイズが中心だが、少量サイズも拡充しており、追加注文を上げて客単価向上を狙っているようだ。商品の質においては、餃子の王将は現場スタッフのスキル向上のため、実地やオンラインによる調理研修を実施し、各人の技術習得に注力している。

 バーミヤンは各店が均一の味で低価格の料理を提供するために、マニュアル化した手順の元で人件費の低いクルーが主に調理を行っている。セントラルキッチンで下準備された食材を店舗の厨房で仕上げているが、他店に比べて冷凍食材を使用しないなど、鮮度を重視したメニュー作りもされている。各店舗の端末へ調理手順を動画配信するシステムが配備されたり、技能検定制度を整備するなど調理指導も徹底されているようだ。

 価格は、ほぼ同じようである。以前は、バーミヤンの方が若干高かったが、もともと安かった餃子の王将が人材投資を主目的に値上げを実施し、価格差はほぼないようだ。

 接客サービスを比べると、餃子の王将は人間中心の接客である。ただ、来店客が多く、一人ひとりに親切丁寧な接客というより、いかに効率的にさばくかが課題のようになっている印象だ。バーミヤンはすかいらーく系なのでどうしてもマニュアルを義務付けられた接客になっている。DXをフル活用し、タッチパネルによる注文、配膳ロボット、セルフレジなど一連のプロセスがデジタル化・省力化されている。配膳ロボットのフル活用ではクレームが23%減少、片付け時間が40%削減、歩行数49%削減、さらにセルフレジ利用も70%を超えるなど利便性も向上させている。

◆店舗ごとに個性を発揮する餃子の王将

 チェーンでありながら地域の店舗ごとに個性を発揮する餃子の王将と、すかいらーくの傘下でチェーンとしての統一性を厳格に順守するバーミヤン。

 店の基本姿勢としては、餃子の王将はチェーンとしての基本は守りながら、各地域のニーズに合致したオリジナルメニューの販売など、店舗にも独自のメニュー開発する権限を委譲し、従業員のやる気を引き出している。また、可能な限りお客さんの要望も受け入れ、一定の範囲でカスタマイズ化にも対応している。一方でバーミヤンは店舗現場にそれほどの権限はなく個々の顧客に柔軟に対応するというのは困難なようである。

 店舗開発においては、餃子の王将は中長期的視野に基づく経営戦略の一環として新コンセプト店「GYOZA OHSHO」の出店を計画している。「王将女子チーム」による、女性の視点と感性を発揮させた店舗開発である。一方でバーミヤンはすかいらーくの経営戦略に基づき、複数業態を出店し、商圏内を徹底分析して自社でカニバリゼーションしないような業態配置を徹底している。

◆「ぎょうざ倶楽部会員」で顧客の組織化

 両社ともに、今後を左右する営業基盤の盤石化に向けて、顧客の囲い込みを強化する計画だ。

 餃子の王将の「ぎょうざ倶楽部会員」も確実に増加中だ。これは、支払額に応じてもらえるスタンプ25個で5%会員、さらにスタンプ25個で7%会員になれるサービスで、飲食時の料金から一部割引の特典がある。特に7%会員の数は、2018年の27.5%から2023年には52.7%にまで増やし、過去最高109.4万人(2023年度)を突破。ロイヤルマーケティングの実施で「中華といえば餃子の王将」といった組織化できた経営基盤の強さを物語っている。

 一方、バーミヤンはすかいらーくのほぼ全店と共同で顧客ロイヤリティーを高めるために、自社ポイントプログラムをスタートさせている。また、共通ポイント各社と合同キャンペーンも実施して、顧客の来店頻度を高めるモチベーションにもなっているようだ。

◆餃子の王将VSバーミヤンの財務状態

 2024年7月次売上高で30か月連続前年同月比の過去最高を更新中の餃子の王将。業績好調だが、値上げの影響はないのか直近の実績を見てみたい。

【餃子の王将の第1四半期決算】

売上/営業利益/営業利益率

2025年度3月期(4~6月):264億2100万円/24億4100万円/9.2%

2024年度3月期(4~6月):246億2300万円/24億1500万円/9.8%

今年に入り、4月~7月の直営全店の実績は次のとおりである。

【2024年4月~7月の直営全店の実績(伸び率)】

売上高/客数/客単価

2024年4月:78億5300万円(104.2%)/6820人 (102.2%)/1151円(102%)

2024年5月:82億6000万円(106.7%)/7197人(104.4%)/1148円 (102.1%)

2024年6月:80億100万円 (111.2%)/6942人(106.5%)/1152円 (104.5%)

2024年7月:82億円(105.9%)/6834人(99.0%)/1200円(106.9%)

 売上、客単価は値上げの効果もあり、上昇している。その結果、過去最高の更新は続いており、30か月連続となった。しかし、4回目の値上げ後の7月度の客数だけが前年割れしているようで、今後の動向が気になるところだ。

 その点は自己資本比率が約75%と財務基盤が盤石で、運営力が強固な餃子の王将である。また集客に向けたキャンペーンを実施し巻き返しを図ってくるだろう。

◆すかいらーく、2ケタの成長ベース

 すかいらーくでは、セグメント別の業績を公表していないので、全体売上から推察してみたい。

【すかいらーくの損益状態(2023年12月期)】

売上3548億円、原価1149億円、原価率32.4%、営業利益1169億円、営業利益率3.3%

【すかいらーく業績の推移(2024年度1~7月)】

売上:110.5%→114.5%→114.5%→108.7%→111.1%→116.1%→104.5%

客数:109.4%→112.4%→112.4%→106.4%→106.7%→108%→96%

客単価:101%→101.9%→101.8%→102.2%→104.2%→107.5%→108.8%

 回復しつつあるすかいらーくは今年に入っても好調な業績で、前年に対してほぼ2ケタの成長ベースで推移していた。しかし、直近の7月売上は前年をクリアしているものの、伸び率は低下しており、客数は前年を下回っている。客数の減少が顕著なのは、値上げやクーポン券の割引率の低下の影響が、ここにきて業績に表れているのではと推察する。

◆中華チェーン店の役割は大きい

 町中華の主役である個人中華料理店。約7割を占める個人経営店の店主は60歳以上が7割程度。後継者不在などの理由で、店の減少に歯止めがかからない。

 日本には中華料理が好きな人が多いだけに中華チェーン店の役割は大きい。中華だけの単一事業で、市場を積極的に攻めシェアを高める餃子の王将と、外食売上3位の経営基盤を活用し、複数ブランドのシナジー効果を得ながら成長するバーミヤン。

 異なる経営路線の両社の事業展開だが、町中華との共存共栄で、いい意味で競いながら、そして補完しつつ、さらなる成長を目指してほしい。

<TEXT/中村清志>

【中村清志】

飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan