新湊港を出航して約15分、沖合3kmほどの場所が白エビ漁の漁場。水深は約300m。捕れたばかりの白エビは透き通るような透明感。希望者のみ参加の白えび漁の見学にて | ⾷楽web
自由な発想で寿司を再定義。そのキックオフイベントを体験
2024年、富山県では「ウェルビーイング」の向上を政策の柱に掲げ、一人ひとりが誇りと愛着を持つことができる富山県、さらには、魅力ある県に引き寄せられて、多様な人材が集う「幸せ人口1000万~ウェルビーイング先進地域、富山~」を目指していくという。
その取り組みの一つが「寿司といえば、富山」プロジェクト。10年後、寿司でイメージする都道府県としての確固たる地位を確立し、寿司を入口に富山に流動人口を増やしていこうというもので、食を媒介にした興味深い地域創生ブランディングとなっている。
観光列車「ベル・モンターニュ・エ・メール3号」
そんな富山が持つ地理的優位性×固有の食材の多様性に注目したプロジェクトのキックオフイベントが、6月に開催された「SUSHI collection TOYAMA」。参加したゲストは、県内外の美食家やジャーナリスト、インフルエンサーなど、20数名。1泊2日を通して「富山の寿司はなぜ美味い?」を実際に体験、『食楽web』でもその様子と可能性をレポートしていきましょう。
富山の地形と文化に根ざした、寿司を感じる体験ツアーへ
「寿司といえば、富山」プロジェクトは、富山の豊かな自然と文化を背景に、寿司の新しい形を提案し、国内外の観光客を魅了するもの。自由な発想で寿司を再定義し、イベントや教育プログラムを通じてその魅力を広く伝えていくという。
そのキックオフイベント「SUSHI collection TOYAMA」のプログラムも実にユニークな2日間であった。
1日目は北陸新幹線の停車駅・新高岡駅に集合後、観光列車「ベル・モンターニュ・エ・メール3号」に乗車し、「美食を生み出す富山の地質学教室」を体験するところからはじまった。車中で講師に迎えたのは、「ジオリブ研究所所長」であり、美食地質学者の巽好幸先生。車窓に広がる海と山の絶景を愛でつつ、標高3000m級の立山連峰と水深1000mの富山湾、高低差4000mの特徴的な地形を持つ富山県の地理的優位性を学ばせていただいた。
その後、氷見に移動した一行は、17代続く網元の家・濵元家にて、天然の生け簀・富山湾で400年の歴史を持つ定置網漁の歴史についても理解を深める。
富山の地形的な優位性と、富山湾を慈しみながら生きる文化を肌で感じ、いよいよ寿司の実食へ。夕食に案内されたのは、氷見の寿司の名店「成希」。店主の滝本成希氏の握りで、富山の寿司を感じると思いきや、実は今回、東岩瀬に「Japanese Restaurant GEJO」を構える下條貴大氏も加わり、ふたりの富山の寿司職人が前後半で、それぞれの握りを楽しませてくれるコラボ寿司を供してくれた。
上:「Japanese Restaurant GEJO」の下條貴大氏、下:名店『成希』の滝本成希氏
若手寿司職人ふたりによる、「地形の恵み」をテーマとした寿司のフルコース。富山の食材や地酒を使い、若きふたりが繰り出す、趣向を凝らした握りやつまみ。アイデアと持てる技術をフル回転させ富山食材でゲストをもてなすというスタイルに、寿司といえば富山も決して夢物語ではないと、プロジェクトの真意を体感することとなった。
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白エビ漁の現場から異色の寿司コラボまで、充実の寿司文化を体験
2日目早朝は、富山湾の宝石と呼ばれる白エビ漁の見学に始まり、射水市に移動の後、「日本のベニス」と称される射水の川沿いの風景を眺めつつ朝食を。朝食にはオリジナルの創作白エビの寿司クレープが用意された。さらに食後の散策がてら川沿いを歩き、続くプログラムの地へ。
歩いて数分の「内川の家 奈呉」では、富山伝統のます寿しワークショップを体験。「丸龍庵」の木村圭さんと「射水市産業経済部農林水産課」課長補佐の山本和永さんより、ます寿しの歴史を学び、参加者が各々、ごはんをこね、鱒を乗せ、笹を巻き、伝統のます寿しを作り体験させてもらった。
海の上での白エビ漁見学から、寿司をテーマにした朝食クレープ、ます寿しワークショップと、2日目も寿司の可能性、富山の魅力を感じるプログラムが目白押し。ただ単に旨い寿司を食べるではなく、地形や食材、文化に、新たな可能性まで、寿司を再解釈する意味がようやく理解できてくる。
最後のプログラムに用意されたのは「富山県美術館」にて行われた「富山の食の未来を表現するランチ会」。大阪は中国料理の名店「AUBE」の東 浩司氏と魚介を活かしたフレンチの名店、東京で活躍する「abysse」の目黒 浩太郎氏が料理を担当。料理ジャンルも働く地域も異なる料理人が富山の魚を使い、富山の寿司をどう表現するかというテーマで果敢に料理を創作します。
東氏は、富山の伝統食の「かぶら寿し」を自身の解釈で中華の技法を用いて調理し、かたや目黒氏は、バイ貝をフィンガーフードで提供するなど、まさにふたりのシェフが寿司の新たな可能性を楽しめせてくれるものでした。
濃密な2日を通して感じたのは、寿司といえば富山は、たぶん、いやきっと成せる。されど取材班が体験したのは2日のみ、まだまだ知られざる富山の寿司の魅力は、今後、読者自身の舌と足で紐解いていただきたい!
●DATA
寿司といえば、富山
https://www.pref.toyama.jp/sushitoyama/