真っ青な空に白い壁が映えるおおいしれいこさん、久米大作さんの平屋。石畳は大作さんが手作りした。


天井を抜き、白くペイントしたら開放感が増した。押し入れはブルーに塗り、オーディオコーナーに。

使い勝手も費用もデザインも、すべて自分の塩梅で。

 房総半島の南東部に位置する千葉県鴨川市。太平洋に面した海側と、美しい棚田が広がる内陸のエリア、どちらも豊かな自然が広がる。おおいしれいこさんが夫の久米大作さんと暮らす家は海から車で20分。里山の中に立つ愛らしい平屋には、海からの心地いい風が届く。

「海と山、両方の魅力を感じられるのがいいところ。夫も私も自然が好きで、静岡の御前崎の海の近くに暮らす友人宅によく遊びに行っていたんです。海で遊んで、近所の鮮魚店で刺身を買って帰って晩酌する。そんな暮らしにずっと憧れていて」

 20軒ほど内見した末に出合ったのが築70年ほどの平屋だった。

「傷みが激しかったので、大工さんに頼んで修繕するものだと思っていたのですが、夫は自分で直すと最初から考えていたそうです。素人ながらも本を読んでは試行錯誤。私はリクエストする専門です(笑)」


キッチンの壁だけは黄色でペイント。「毎日家事する場所だから明るいほうがいい」という大作さんのアイデア。


梁まで届く書棚はホームセンターで手に入る材料でDIY。2 段ベッド用の梯子を切って高さを合わせ、スライドできるようにした。


玄関脇には友人が作ったベンチと書棚を置いて、ゲストが身支度をしたり、くつろいだりできるスペースに。


もともとあった玄関は駐車場からの動線が悪かったので、大作さんが新設。ブルーのドアが白い外観に映える。

 60㎡に満たない4LDKは1LDKに変更することで開放的な空間になった。独立洗面所がないというのが悩みだったが、キッチン脇にDIYで壁を作って洗面台や棚を設置。リビングには壁付きの大型書棚を自作して、効率よくスペースを使って収納ができるよう工夫を施した。

「業者に頼めば話が早いですが、費用はかさみますし、100%思い通りにはなりません。手作りなら素材選びから施工まで、費用も含めて自分で決められる。一般的にはここまでやるけど、自分たちはこれくらいでいい。そんな塩梅を確かめながらやれるのがいいんです」と大作さん。

 ラフに塗られた漆喰やシンプルに組んだフローリング、流木で手製したダイニングテーブル。この家は二人が「自分たちには、これがいい」と確信を持って作ったものでできている。それは、ほかのどんな家とも似ていない、固有の空間だ。

「肩に力を入れないで、おおらかに。手を動かしているうちにアイデアが湧いたら、やってみる。もともと設計図があるわけじゃないから、失敗なんて存在しないでしょ」と笑う二人。この家に清々しい空気を運ぶのは、海だけじゃない。二人のおおらかさこそが、その源なのだ。


鴨川漁港で水揚げされる旬の刺身と、季節の野菜や果物。「これがあるから鴨川から離れられない」と二人。


大作さんが壁を立て、配管まで自ら調整した手製の洗面所。洗面台の高さなども自分たち好みにカスタマイズ。


格子状の壁はもともとあった土壁を壊した後に出てきた「竹小舞」という下地。白く塗装してパーティション代わりに。


リビングとキッチンを仕切る壁以外はすべて抜き、風通しのいい1LDKに。寝室の上にロフトを作り、物置にしている。

おおいしれいこ / 久米大作編集者 / 潜水士

おおいしさんはフリーエディターとして主に暮らしにまつわる書籍の編集や執筆を手がける。大作さんは水中で土木建築などを行う潜水士として働く。

photo : Hinano Kimoto illustration : Shinji Abe(karera) edit & text : Yuriko Kobayashi

&Premium No. 130 LIVE SMALL & WELL / 小さな家に暮らす。

デメリットとも受け取られがちな「小さい、狭い」という条件は、見方を変え、工夫を凝らすことで、快適な暮らしをもたらすメリットになります。例えば、コンパクトな居住空間ゆえに、必要なものをきちんと見極められるようになる。また、何がどこにあるかが明快で手に届く範囲にあるというのは、とても気持ちのよいことです。そして生活全体の見通しがよくなると、やがて暮らしや生き方までが、すっきりとしていくように思いませんか。今号は「小さな住まい」に暮らすことについて考える一冊。限られたスペースに開放感をもたらす家を建てたり、賃貸の小さな部屋を自分らしく整えたり。コンパクトな暮らしをあえて選びたくなるような、楽しくて小さな住まいの実例集です。

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