「こんなに大きな人は初めて見た」“身長203cmの日本人男性”から見える世界とは?両親の身長も教えてもらった

令和元年に行われた厚生労働省「国民健康・栄養調査」によると、日本人男性(成人)の平均身長は171.5センチであることがわかる。ただ、これはあくまで平均の数値。例えば、世界中の猛者を相手に戦う大谷翔平は193センチ、八村塁は203センチと、プロアスリートの大型化は近年特に目覚ましい。

その一方で彼らと引けを取らない身長でありながら、“普通”の生活を送る人物も存在する。『2mから愛をこめて。』という名のブログで身長にまつわるエピソードやネタを発信する岸コウジロウさんは、八村と同じく203センチの超高身長である。一体どんな人生を歩んできたのだろうか。本人を直撃した。

◆中学生の時に「2メートルを超えた」

幼稚園の時に143センチ、中学の入学時にはすでに194センチあったというが、「壁を超えたな」と感じたのはどんなタイミングだったのか。

「日本の建物はだいたい『入り口が180センチ』なんです。それが煩わしくなった時だとすれば小学生時代ですね。次に壁を超えた感覚になったのは、2メートルを超えた中学生の時。身長計だけでは高さが足りなくて、定規を足して測ってもらいました」

ちなみに筆者の身長は184センチ。建物の入り口を煩わしく感じたり、頭をぶつけたりことはよくある話だ。しかし、岸さんの場合はレベルが違っていた。

「入り口は顎あたりになるんですよね。なので『頭をぶつけないように注意して』と言われますが、頭どころか下手したら顔自体を打ちますね」

◆自販機より背が高いから…

2メートルの人が見る世界、感じることはどんなものなのか。にわかには想像しがたい。超高身長の人しか知りえないエピソードを聞いてみた。

「自販機より背が高いので、上の部分に乗っているものが見えます。駅の自販機の上にハンガーが乗っていた時は『なぜここに?』と思いましたね(笑)。あと、誰かとエスカレーターに乗る時には、上りの場合は相手に先に乗ってもらって、下りの時は僕が先に乗ります。相手が下の段になると頭の位置の差がさらに広がって、うまく会話ができないんです」

結婚式など祝いの席で、スピーチや乾杯の発声を求められた際にも“すべらないネタ”があると岸さん。

「『高いところからすみません』と言うと、そこそこウケます(笑)」

◆袖の長さが足りないから「服は普通に買えない」

高い身長に漠然とした憧れを持つ人は少なくない。ただ、2メートルを超えた人物の場合、基本的には困ることのほうが多いらしい。

「服は普通に買えないですね。袖の長さが足りません。スウェットなどは、同じものを2着買い、袖を切って足します。ジーンズは毎回特注で2万円以上しますし、革ジャンも特注で作りました。既製品だと7万円くらいだったんですが、やはり袖の長さが足りなくて『片袖10万円か』と躊躇しましたが、思い切って買いました。会社に着ていくスーツやコートまで、全てフルオーダーで作らなくてはいけないので、とにかくお金がかかります。ちなみに僕は夏が好きなんですが、袖を継ぎ足さなくていい服(半袖)が着れるからです(笑)」

大きいサイズのメンズ服でおなじみの「サカゼン」を勧められることもあるそうだが、同店の商品は基本的に横に大きい服ばかり。岸さんが着ると「肩が落ちるシルエット」になり、見栄えが悪くなってしまうので、買うことはないらしい。

◆高身長は「ステータスだと思っていない」

食器棚に頭をぶつけ、激痛に悶えることもあるという岸さん。外出時にも苦労が絶えないそうだ。平均に合わせた公共交通機関では当然サイズ感が合わない。

「バスは頭がつかえてまっすぐ立てませんし、電車内の中刷り広告で手を切ったことがあります。また、網棚に肘を乗せてみようと思ったんですが、やってみたら普通にできましたね。そういうサイズ感です。そして、普通に歩いているだけでジロジロ見られます。思春期のころには、友人から『お前と歩くのは恥ずかしい』と言われてしまいました……」

こうした不便や苦労もあって、岸さんは「身長が高いことはステータスだとは思っていません」と話す。まさに、過ぎたるは及ばざるが如しといったところだろうか。

◆「両親の身長」をよく聞かれる

とはいえ、203センチの身長があったからこその出会いもあったという。

「とにかく人に声をかけられます。『何センチあるの?』『ご両親も大きいの?』『スポーツはやっていたの?』というのが頻出の質問です」

確かにどうしても尋ねたくなる内容だ。ちなみに、父は170センチで母は160センチといたって普通の身長だ。そして、バスケットボールもバレーボールもやったことがないという。

「身長をあまりに聞かれるので、『いくつ?』と聞かれると、年齢を答えたらいいのか、身長を答えたらいいのか戸惑います(笑)。でも、たまに奢ってもらえることもありますし、知らない人と身長きっかけで話ができるのは楽しいです」

声をかけられるタイミングは、岸さんの体調や機嫌に関わらずやってくる。愛想のいい対応ができなさそうな時にはヘッドフォンをして歩き、あえて声をかけられないようにしているという。しかし、なかには不意打ちを受けることも。

「勤務先の就活生向け説明会に登壇していた時期がありました。最後に『質問がある人はいますか?』と投げかけたら、女子学生が真剣な顔で『身長は何センチですか?』と聞いてきて。さすがにビックリしましたね(笑)。大阪での説明会で僕も関西出身なので『今それ聞くんかーい』とツッコミました」

◆海外で声を掛けられることも多い

岸さんがある地方に出かけた際、80歳を超えるようなおじいさんに「こんなに大きな人は初めて見た」と笑顔で興奮気味に話しかけられた経験もある。特異な高身長は人を笑顔にすることもできるのだ。そこから岸さんは世界平和を画策しているというが、その発想のきっかけにはあるエピソードがあった。

「ある日、街を歩いていたらカップルが喧嘩をしていたんです。でも、通りかかった僕を見て『でかくない?』『めちゃでかい!』と一転して仲睦まじい様子になって。大袈裟かもしれませんが、『これこそが高身長を持った者の使命なのでは?』なんて思いました」

例えば、子供を「たかいたかい」した時には、他の人では到底届かないほど高く持ち上げられるので、子供はもちろん周囲の大人の顔もほころぶそうだ。

「お金を稼げるわけでもありませんし、芸があるわけでもないのですが、人を少しだけ楽しませる“身近なエンターテイメント”として、世界平和に貢献したいと思っています。ちなみに、イタリアやアメリカ、台湾など海外に行った際に『一緒に写真を撮ってくれ』と何度も声をかけられました。2メートルの人間に驚くのは万国共通なようです」

最後のエピソードから「身長に国境はない」ことがうかがい知れた。本来であれば威圧感を纏いそうなものの、多くの人が親しみを持って接してくるのは、岸さんの穏やかな人柄が起因しているのだろう。いつの日か、彼が抱く夢が叶うことを願ってやまない。

<取材・文/Mr.tsubaking>

【Mr.tsubaking】

Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。