若者期と高齢期に挟まれた35歳から64歳のミドル期シングルが増加しています。家庭を持つきょうだいに比べ、押し付けやすいせいか、ミドル期シングルは高齢親の介護を担うケースも多くみられ……。本記事では、宮本みち子・大江守之編著、丸山洋平・松本奈何・酒井計史著「東京ミドル期シングルの衝撃」(東洋経済新報社)から一部抜粋・編集して、介護担当が「嫁」から「おひとり様」へと移行した現状を紐解いていきます。
介護担当は「嫁」から「おひとり様」へ
シングル女性の半数近くが親の介護を引き受けようとしているのはなぜなのでしょうか。残念ながら、私たちの調査では介護意向に関する掘り下げた設問を設けなかったため、「なぜ介護を引き受けるのか」をつかむことはできません。
しかし、親、特に母親と娘の交流頻度の高さ、いざというときに親をあてにしている信頼感や安心感をみる限り、介護が必ずしも押しつけられたものとはいえない面があります。配偶者や子どもを持たないシングル女性にとって親は愛情の対象であり、それゆえケアの対象として重要な存在となっているのです。
その一方で、「身軽である」という理由できょうだいから介護を押しつけられている例があることも否定できない現実です。シングルが増加することは、高齢者の介護担当が「嫁」からシングルの娘へ、さらにはシングルの息子へと比重が移り、介護の様相が変わっていくことが予想されるのです。
未婚者の多くがミドル期まで親との頻繁な交流を続け、やがては親の老後を引き受けようとしているのは、結婚しないがゆえに親子の縦の関係が長期にわたって続く傾向にあることを示しています。結婚による横の関係(配偶関係)と子どもの出生による縦の関係(親子関係)のどちらも持たないシングルは、初老から高齢の親との関係によって家族機能を補完していることの結果ではないでしょうか。
しかし、親の介護を引き受けることは、今の仕事を失うことにつながりかねない不安となり、経済的負担となり、郷里に帰らなければならないかもしれないこととセットです。悩みを抱えるシングル女性は少なくありません。
・広島の母親が心配なので、年に最低2回、多ければ3回くらい帰っています。今のマンションは病院に近いので、母がひとりで住むのが心配になってきたら、母にこのマンションに住んでもらって、私はパートナーと一緒に住んでもいいかなと思っています。(45歳女性)
・両親に何かあったとき、面倒を誰がみるかは、不透明というか難しいところです。本当は、私が実家に戻って結婚してほしかったみたいです。(37歳女性)
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53歳・非正規女性、横浜と北海道を往復介護
きょうだい数が減少する中で、親の介護を誰が引き受けるかは、ますます大きな課題になっているのですが、介護がシングルの暮らしを蝕む例も出てきます。その例としてNHKスペシャル取材班が紹介している女性の例をみてみましょう(NHKスペシャル取材班[2020])。
横浜市のシェアハウスに住む53歳の原真由美さん(仮名)は、非正規雇用の仕事をつなぎながら、北海道の過疎地にひとりで住む父親の世話のために3か月に1回、1週間から10日ほど通っています。そのために2、3か月の短期契約の仕事を探し転々とすることになりました。月の手取り収入は10万円ほどです。
「待遇のいい仕事が見つかるっていう気がしないですね。50代という年齢も年齢だし、『自分の能力を発揮できることって、この世の中にある?』って考えても、見つかる気がしないです。50を過ぎちゃうと、なにか普通に(人生が)下り坂だと思ってしまいます」。
20代の頃、原さんは外資系の証券会社の派遣社員として、多いときには月収が40万円になることもありました。その生活が劇的に変わることになったのは、派遣の仕事が45歳で契約更新されなかったとき。リーマンショックによる派遣切りでした。その後、バブル崩壊後の長引く景気低迷の中、職を転々としてきました。
ところが3年前故郷に住む母親が突然亡くなり、92歳の父親がひとり残されたのです。親戚は独身の原さんに世話を押しつけました。原さんは義務感で父親のもとに通いつめています。
「でも、ずっと自分ができるのかというと、できない」。
しかし父親は施設に入ることをかたくなに拒否しています。実家に滞在していると恐怖が襲ってくるといいます。
「ここにいると、自分が牢屋に閉じ込められているような気持ちになるんです。私、車の免許もないし、自由にどこかに出かけることもできないし、なにか父のもとで、とらわれの身という自分の姿を思ってしまいます」。