楽しかった思い出は心の中だけでなく、写真や作品などカタチにして残しておきたいという人も多いのではないだろうか。けれど残しておく思い出の品によっては、未来の自分を苦しめることになるかもしれない。
北山涼香さん(仮名・40代後半)は、交際期間も含め30年近くいっしょにいる夫Fさん(40代後半)と仲良く暮らしていた。収集癖があって飽き性でもあるFさんの金遣いについては気になることもあったが、ほかの部分で十分にカバーしてくれたとか。
◆収集癖のある夫
「私が把握していないだけかもしれませんが、Fは浮気や不倫もしたことがありません。家事や子育てにも積極的ということもあり、収集癖には目をつぶっていました。そのため、結婚してすぐにローンを組んで建てた一軒家の一室が倉庫状態。そこは気になっていました」
鉄道模型やゲーム内に登場するフィギュアなど、これまでにもいろいろなものを集めては、すぐに飽きて倉庫状態の部屋へ押し込むという感じ。涼香さんが注意をすると、「近いうちに時間をみつけて部屋を片付ける」とは言うが、実行が伴わない。
「私も仕事と育児に追われていたので、倉庫部屋の片づけは後回しになっていました。そんなある日、連日の残業で疲れていた私たち夫妻は昼前まで爆睡。小学3年生の長女と保育園の年長である長男の賑やかな声で目が覚めました」
◆長女が“大人のおもちゃ”を手に
倉庫と化した部屋へ入ると、子どもたちがはしゃいでいる。最初のうちは「散らかさないで」という軽い感じだったが、長女のほうが大人のおもちゃ“ローター”を片手に持ち、スイッチを入れたことに気づいて大慌て。
「ローターの音が、ウィイイイイン……と鳴り響きます。そのローターは昔、夫が『涼香とはじめてラブホに行ったときの記念』などと、収集していたもの。驚きとともに恥ずかしさと、『どうにか子どもから取り上げなければ!』という思いが一気に込み上げてきました」
けれど、すぐにはいい言葉が思いつかない。そして、「あ、それ、危ないヤツだから、こっちに渡して」などと口から出た言葉に任せてローターを取り上げ、わきあがってくる怒りのままに夫を呼びつけた。
◆どこか他人事の夫にブチ切れ
「私が『コレで子どもたちが遊んでたのよ!』と怒鳴ると驚いた様子を見せた夫ですが、『うわぁ~、これはさすがにヤバイね…』と言って私が持っていたローターを手に取ると、子どもたちの様子をうかがいながら近くにあった棚の引き出しに片づけようとしたのです」
涼香さんは「何してるの? いますぐ処分して!」と怒りますが、「え? どうして? だってコレは、涼香とはじめてラブホに行った記念の品だから」などと反論。処分しようという気配がまったく感じられない。
「結婚してはじめてくらいブチ切れました。子どもは好奇心旺盛だし、また見つけたら大変だと思ったのです。もしかしたら口に入れたり、『コレ、何?』としつこく聞いたりしてくるかもしれません。とにかく、すぐ処分してほしいと思いました」
けれど夫のFさんは、どこか他人事。ひとまず棚に片づけようとするし、別の日に捨てるという感じでもない。とにかくいま、この場を切り抜けてうやむやにしようというのが手に取るようにわかる。その態度に怒りのボルテージが上がり、文句が止まらない涼香さん。
◆初めてのラブホで撮影したビデオが
「そのうち夫も言い返してきて、言い合いになりました。そして言い合いがピークにさしかかったとき、隣で子どもたちが、『あ!ママだ!』と大はしゃぎしたのです。ふと見ると、長女が禁断のビデオテープを再生していました」
涼香さんは、顔面蒼白! なぜならそのビデオテープに録画されているものは、夫が20年前、はじめていっしょに行ったラブホで涼香さんを撮影したものだったから。大慌てでビデオを停止し、不満爆発の子どもたちからビデオテープを取り上げた。
「最初の画面では服を着ていたからギリギリセーフでしたが、服をはだけながらセクシーポーズを取ったり、かなり怪しい誘い文句も口にしたりと、母親の尊厳が崩れ去りそうな恥ずかしいシーンが映っていて、泣きそうになりました。当然そのあとは夫と大ゲンカです」
ドキドキと緊張が入り交じりながらも楽しかった初ラブホの思い出は、この瞬間、涼香さんの中で“もう二度と思い出したくないこと”に変わってしまったとか。内容にもよるが、ステキな思い出は心の中に仕舞い、無意識のうちに美化するぐらいがいいのかもしれない。
<TEXT/山内良子>
―[ラブホの珍エピソード]―
【山内良子】
フリーライター。ライフ系や節約、歴史や日本文化を中心に、取材や経営者向けの記事も執筆。おいしいものや楽しいこと、旅行が大好き! 金融会社での勤務経験や接客改善業務での経験を活かした記事も得意