若者の「見えない貧困」が広がっている。旧来型のネカフェを根城にするケースだけでなく、「限界シェアハウス」が増えたことで路上生活をせずともその日暮らしを続けていけるからだ。人手不足で就職市場は空前の売り手市場と言われているが、若い人材が引手数多な一方で、貧困から抜け出せない若者も多い。そして、彼らの多くは“親ガチャ”を理由に世代を超えた負の連鎖を断ち切れずにいる……。そんな過酷な環境で暮らす若者を徹底取材。「忘れ去られた若者たち」にスポットを当てる。
◆わずか1.5畳の個室が根城
佐竹隆平さん(仮名・36歳)
【現在の状況】ネットカフェ暮らし
【主な収入源】パチンコの打ち子など
【現在の月収】約1.5万円
歌舞伎町の夜のネオンが一人の若者を浮かび上がらせる。所持品は肩から掛けたショルダーバッグが一つで、その日暮らし。佐竹隆平さん(仮名・36歳)は、この界隈のネットカフェでわずか1.5畳の個室を根城に生活している。
「なるべくお金をかけないように12時間2700円のコースしか利用していません。日中は、東京都が運営しているフリースペースで時間をつぶし、夜はネカフェで寝て、朝起きたら荷物をまとめて外に出る……そんな日々です。食事はネカフェの無料食べ放題のカレーで我慢してますが、とっくに飽きました」
◆ある日会社に借金の取り立てが来て…
現在の生活に至るまで何があったのか。
「1~3年ごとに転職していて、3週間前までは都内で警備員をしていました。でも、ある日会社に借金の取り立てが来てしまって……。仕事の性質上、『消費者金融に世話になっている人間は雇えない』と社員寮も即退去せざるを得なくなりました」
◆教育虐待を受けた親から逃避生活
カネに窮した背景には、親とのいざこざがあった。
「医者か教師になることを望まれて、小学生から勉強三昧。子供らしく遊んだ記憶はほとんどありません。大学受験に失敗し、すべり止めで入った大学を中退したので、親子関係はさらに悪化。月7万円の仕送りや学費400万円を返済しろ! と要求されました」
母親は過干渉で、実家から出ることも叶わなかった。
「家にいたくないので外食や外泊をして、二重に生活費を払う生活を送っていたら、いつのまにか消費者金融の借金が200万円に膨らんでいました。受験の失敗さえなければ、親との関係もお金のことも、揉めなくて済んだのに」
◆「息苦しかった実家の頃より、生きている実感がある」
居場所を転々とする生活は初めてではない。30歳になった年、やっとの思いで実家を飛び出して以降は、大阪・西成でドヤ生活をしていた時期もあったという。取材で会ったときの所持金は残り2万円。たまにパチンコの打ち子のバイトを見つけては、数千円の収入を得ているというが、すぐに底を突く。
「カネがなくても、楽しむしかないと悲観はしていません。息苦しかった実家の頃より、生きている実感があるので。ただ、これからどうやって軌道修正するかが悩みです。社会福祉士に相談したら、自己破産を申し立てるのがいいと言われたので、それが目下の目標です」
生活が安定すれば、親との確執を乗り越えられるのか。今がその正念場かもしれない。
◆新しい「貧困の悪循環」が起こる要因は?
株価は史上最高値を更新し、就職戦線は学生優位の「売り手市場」が続く昨今。「新卒初任給引き上げ」報道をどこか羨んで見ている世代も少なくない。
「こうした恩恵を受けるのは一部の優秀な学生だけ。多くの若者の暮らし向きはむしろ悪化しています」
貧困問題に詳しい作家の吉川ばんび氏は語る。
「今や社会保険料、学費、物価、すべてが上がっていて、贅沢をせずとも若者の生活は苦しい。時に『若いんだから働けば』という声が聞かれるが、現状を理解していない発言に思えます」
吉川氏によれば貧困に陥った若者の家庭は、虐待やネグレクト、家族間の対立によるストレスを恒常的に抱える「機能不全家庭」であるケースが多いという。
「貧困を脱出するためには、教育などの『知的資本』、学歴や文化的素養の『文化資本』、社会的交流など『社会資本』が不可欠ですが、機能不全家庭ではこれらの資本を持つ親族がおらず、実質的に貧困から脱するのは不可能と言われている。一度陥ると個人の努力ではどうにもならない『貧困の悪循環』が生まれるのです」
【作家 吉川ばんび氏】
1991年生まれ。貧困や家庭問題などをテーマに取材・論考。著書に『機能不全家庭で死にかけた私が生還するまで』(晶文社)など
取材・文/週刊SPA!編集部
―[[親ガチャ貧困]の実態]―