◆現実味を帯びてきた前人未到の「50-50」
大谷翔平の「50本塁打&50盗塁」の偉業達成がいよいよ現実味を帯びてきた。
現地21日(日本時間22日)、ドジャースの大谷はマリナーズとの3連戦最終戦に1番指名打者(DH)で先発。安打は5回裏に放った単打1本に終わったが、出塁後にすかさず今季39個目の盗塁を記録。39本塁打と合わせて、史上6人目の「40-40」に“ダブルリーチ”をかけた。
レギュラーシーズンは残り34試合。目下「49本塁打&49盗塁」ペースの大谷が、ほんの少しだけそのペースを上げることができれば、「50-50」も射程に入ってくる。チームの地区優勝争いとともに最後まで全米でも大きな注目を集めるだろう。
昨秋に受けたトミー・ジョン手術の影響で、打者一本で臨んでいる今季の大谷。投手との二刀流に戻る見込みの来季以降は、今季ほど自由に走れる保証はなく、「50-50」を狙えるのはこれが最初で最後になるかもしれない。打者・大谷が最終的にどんな成績を残すのか、判明するのは5週間後だ。
◆「スタメン全員大谷」で取れる平均得点は?
打者一本で偉業に挑戦中の大谷だが、もし9人のスタメン全員が大谷ならどれだけ得点を挙げられるのか……。そんなファンの“妄想”を数値化した指標があるので紹介したい。
それが『RC27』と呼ばれる指標だ。RCとは「Runs Created」の略で、本塁打や四球、盗塁、犠打、犠飛など様々な項目を基に打者がどれだけの得点を創出したかをはじき出している。27というのはアウトの数で、27個のアウト(9イニング×3アウト)を取られるまでの得点数を数値化したもの。それがRC27である。
大谷の今季のRC27は「9.0」。もし大谷がチームの全打席に立つと仮定すれば、毎回1得点ずつ、1試合当たり9得点が生み出されるというわけだ。
打者に専念している今季の大谷。投手としての負担がない分、9.0は自己ベストかと思いきや、実は昨季の方が数値は高かったという。
8月に投手として戦線を離れ、打者としても9月3日が最後の出場となった昨季の大谷。エンゼルスでの最後のシーズンは投げては10勝を挙げ、打っては本塁打王に輝くなどの活躍で、ア・リーグMVPを満票で受賞した。
そんな昨季の大谷のRC27は「10.1」で、今季を1.1も上回っている。今季残り34試合で昨季の数字に近づけるかどうかも注目の一つとなりそうだ。
なお、今季の大谷のRC27はナ・リーグでは堂々の1位。規定打席に達している73人の打者の中で8.0に達している打者も大谷しかおらず、2位マルセル・オズナ(ブレーブス)ですら7.9と大きな差をつけている。
◆ジャッジのRC27は?
ただ、ナ・リーグでは断トツの大谷だが、ア・リーグにはそれを上回る“怪物”が何と3人もいるから驚きだ。両リーグでトップに立っているのは、アーロン・ジャッジ(ヤンキース)で13.0。大谷のそれを4.0も上回っている。
ジャッジと同僚のフアン・ソトが10.3、ボビー・ウィットJr.(ロイヤルズ)が9.7でこれに続く。ソトとウィットJr.はともかく、大谷の視界にジャッジの背中(RC27=13.0)が入ってくることはないだろう。
昨季まで同じア・リーグで切磋琢磨し、MVP争いを繰り広げたこともある大谷とジャッジだが、リーグが分かれた今季に関しては“9人のジャッジ”の圧勝といったところか。
◆2004年のバリーボンズが驚異的なRC27を記録
ちなみにシーズン60本塁打を超えるペースでアーチを描き続ける今季のジャッジ。そのRC27は、歴代でも上位に位置しているのは想像に難くないが、過去にはそれを凌駕した選手もいた。そんな一人が2004年のバリー・ボンズ(当時39歳、ジャイアンツ)である。
その年のボンズは、打率.362をマークしてナ・リーグの首位打者を獲得。45本塁打はリーグ4位、101打点は同17位と、パワー部門の数字は伸びなかったが、その年のボンズは相手投手からまともに勝負をしてもらえなかった。
145試合でボンズが選んだ四球の数は232個。うち120個が敬遠だったのだ。出塁率は.609に上り、RC27は驚愕の22.0!
04年のボンズが9人並べば、1試合で22得点を創出していた計算になる。
◆大谷翔平は“リハビリ中の投手”
今季の打者・大谷と20年前の打者ボンズのRC27を並べると、9.0と22.0。ボンズが圧倒しているが、今季の大谷は“リハビリ中の投手”であることも思い出しておきたい。
打者一本なら当時のボンズには到底かなわないが、投手・大谷がボンズと対峙するとすれば22点も奪われることはないはずだ。
打者一本の大谷ももちろんスーパースターであることに間違いはないが、やはり二刀流での活躍を待ち焦がれているファンも多いだろう。「50本塁打&50盗塁」を手土産に、来季以降は「20勝&50本塁打」、「最多勝&本塁打王」など、異次元の域に達する大谷の姿に期待したい。これまで何度も常識を覆してきた大谷なら決して無理難題でもないはずだ
(※今季の数字は全て現地22日終了時点のもの)
文/八木遊
【八木遊】
1976年、和歌山県出身。大学卒業後、某スポーツデータ会社に就職。プロ野球、MLB、NFLの業務などに携わる。野茂英雄と同じ1995年に渡米。ヤンキース全盛期をアメリカで過ごした。日本にファンタジーベースボールを流行らせたいという構想を持ち続けている。