人間なら116歳! SNSで注目されているご長寿猫「みけちゃん」。飼い主である「かあちゃん」と引っ越しをすることになりました。ところが、新居に到着したみけちゃんにある異変が……。みけちゃんと家族の「普通で愛おしい」日常を、みけちゃんの飼い主であり、児童文学作家である村上しいこ氏の著書『25歳のみけちゃん』(主婦の友社)より一部抜粋・再編集してお届けします。
一大事! 庭つき一戸建てに引っ越すにゃわわ!
あれは14年前のこと。
「みけちゃん、引っ越しするで!」
え……。
ぽかぽかと春の日差しが気持ちいい季節だったわ。
突然、かあちゃんが言ったの。
「ヒッコシって何?」
美味しいごはんやおやつじゃないことはなんとなく分かったけど、どうやらあたしの身に何か大きな出来事が起ころうとしているらしい。
この家の子になろう。
かあちゃんの子になろうって決めたのはたしかにあたしよ。
だけどまさか2回も引っ越しすることになるなんて思わなかったわ。
6階からの眺めも悪くなかったし、ベランダの柵に来るカラスさんやハトさん、すずめさん、そして下を歩く人たちを見ているのも結構楽しかったのよ。
「みけちゃん、ここより日当たりええし、きっと喜ぶと思うよ!」
だって!
でも、日向ぼっこがたくさんできてあたしの美毛が保たれるなら悪い話ではなさそうね。
こうして1回目の引っ越しが決まり、あたしは当日を迎えたの。
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かあちゃんが語る「引っ越し」の全貌。新居でみけちゃんに起きた異変
いつか地べたの家に住みたい。
そう思いながらアパート暮らしをしていたときに見つけたのが、平屋で3DK、南向きの縁側と庭つきの中古物件。
アパートでは野菜や花もプランターでしか育てられないし、2DKだったから少しでも広くなれば、みけちゃんも走り回れるし喜ぶはず。
広告を見てすぐに内覧の予約を入れ見に行くと、日当たりもよく、ここならみけちゃんも、そして私たちも住みやすそうだなと思い仮押さえをした。
なにより、リフォームしたばかりでお値段もええ頃加減!(これ大事!)
そしてトントンと話が進み、料金が安い梅雨時の1番早い時間に引っ越しが決まった。
荷物を運び出すとき、キャリーバッグに入れられたみけちゃんは、そりゃあもうただならぬ出来事に大騒ぎ。
ある程度荷物が片づき、初めて迎えた新居での午後。
みけちゃんは家のなかを一通り見たあと、寛ぐかと思ったら壁とクローゼットの間に隠れた。
みけちゃーん、ごはんやで
みけちゃーん、出ておいで
みけちゃーん、鳥さんおるよ
みけちゃーん……
声かけむなしく。
どんなに声をかけても出てこなくて、ごはんも食べず、水も飲まず、トイレにも行かず、クローゼットの後ろにいた。
どうしたものかと思っていたら、夜中に出てきてごはんを食べ、水を飲み、トイレに行き、家のなかを見て歩き、安堵したのもつかの間。
線路が近かったから電車の音が怖くて日中はずっとクローゼットの後ろで過ごしていたみけちゃん。
そんな日が10日〜2週間続いたかなあ。
ほんっとにどうしようかと思っていたけど、その後は窓から電車を眺めたり日向ぼっこしたりするようになり、やっと新居での生活が始まった感じだった。
たしかに電車が通ると電話の声もテレビの音も聞こえやんかったもんね。
耳がいいみけちゃんには恐ろしく大音量だったと思う。
―あたしも
日向ぼっこができなくて
どうしようかと思ったわ ―みけ
村上 しいこ
児童文学作家