遺言で遺産分割割合を指定されている場合は遺留分に注意
先ほど解説したように、被相続人が有効な遺言書を遺していた場合は、原則としてその遺言書に従って遺産をわけることになります。ただし、兄弟姉妹と甥姪以外の相続人には「遺留分」があることに注意しなければなりません。
遺留分とは、どのような遺言書があったとしても保証される、相続での取り分です。遺留分を侵害した遺言書であっても有効です。
ただし、遺留分を侵害した場合は、相続が起きた後で、遺留分を侵害された相続人から遺産を多く受け取った者に対して「遺留分侵害額請求」がなされる可能性があります。遺留分侵害額請求とは、侵害された遺留分相当額の金銭を支払うよう請求することです。
たとえば、相続人が長男と二男の2名であるにもかかわらず、被相続人が長男に全財産を相続させる旨の遺言書を遺していた場合は、長男が実際に全財産を相続します。しかし、二男から長男に対して、遺留分相当の金銭を支払うよう請求することができます。
遺留分の割合は、原則として法定相続分の2分の1です。ただし、被相続人の親だけが相続人である場合は、例外的に遺留分割合が3分の1となります。
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遺産分割の割合に関するよくある疑問
遺産分割の割合については、誤解も少なくありません。ここでは、遺産分割の割合や法定相続分に関するよくある疑問とその回答を紹介します。
認知した子がいる場合の相続分は?
認知とは、法律上の婚姻関係にある者ではない女性が出産した子どもについて、男性が自分の子どもであると認める手続きを取ることです。なお、女性は出産によって親子関係が明確であるため、日本では母親が子どもを認知することはありません。
婚姻関係にある男女のあいだに生まれた子どもであっても、婚姻関係にない男女の間に生まれた子どもであっても、子どもであるという点では同じです。そのため、婚外子と婚外子以外で、遺産分割の割合に差はありません。
たとえば、被相続人が男性であり、配偶者との間に生まれた長男と二男、そして婚姻関係にない別の女性が出産した三男が相続人である場合、長男、二男、三男の相続分は同じであるということです。なお、かつては婚外子の法定相続分は、婚姻関係にある男女のあいだに生まれた子どもの2分の1とされていました。
しかし、このような差異を設けることは法の下の平等を定める憲法14条に違反するとして、2013年(平成25年)12月に改正されています。
養子の相続分は?
養子とは、所定の手続きをすることによって、法律上の親子関係を生じさせる制度です。養子には、実の親が養育できない事情があり、幼いころに行う「特別養子縁組」と、その他の「普通養子縁組」があります。普通養子縁組を行う理由や状況はさまざまであり、相続税対策の一環として祖父母の養子となることや、婚姻相手の両親の養子に入ることなどが考えられます。いずれの場合であっても、養子の相続分と実子の相続分とに違いはありません。
たとえば、被相続人に実子が2人と養子が2人いるのであれば、それぞれの法定相続分は4分の1だということです。
なお、相続税の基礎控除額(非課税枠)などを計算する際は、過度な節税を避けるため、カウントできる普通養子の数に制限が設けられています。しかし、これはあくまでも相続税計算上の話であり、遺産を受け取る権利に制限があるわけではないため、混同しないよう注意してください。
家を継ぐ子とそれ以外の子で相続分に違いはある?
現代の法律では、家を継ぐ子とそれ以外の子とで相続分に差はありません。被相続人と同居していた子や被相続人が営んでいた家業を継ぐ子とそれ以外の子の相続分は、原則として同等です。
そのため、家や家業を継ぐ子に多めに遺産を相続させたい場合は、遺言書の作成が必須となります。
前妻の子と後妻の子との相続分に違いはある?
前妻の子と後妻の子とで、相続分に差はありません。そのため、子どもによって相続分に差をつけたい事情がある場合は、遺言書の作成が必須です。
内縁の配偶者に相続分はある?
法律婚の配偶者は相続人である一方で、内縁の配偶者は相続人ではなく、相続分はありません。被相続人に1人も相続人がいない場合は「特別縁故者」として最終的に遺産の一部を受け取れる可能性はあるものの、被相続人に1人でも相続人がいる場合は、原則として遺産を一切受け取ることはできません。
そのため、内縁の配偶者に遺産を渡したい場合には、遺言書の作成が必須です。