「東大で一番頭が悪い自信があります」偏差値35から2浪して入学した学生社長が、年商1億円を達成できた理由

―[貧困東大生・布施川天馬]―

 「学生で起業」。10年前ならいざ知らず、いまでは珍しい話ではない。

 だが、その中で結果を出しているものに限ると、その数はグッと減る。「ベンチャー企業の80%以上は創業5年以内に倒産する」というデータもあり、起業するだけなら簡単だが、並大抵の努力では生存すら不可能だ。

 株式会社カルペ・ディエムの西岡壱誠氏は、その中で年商1億円を達成し、創業5年を生き残ろうとしている敏腕学生社長だ。多くの東大生に慕われながらも、彼は自分を「メンバーの中で一番バカ」と語る。

◆東大生40人を率いて教育・出版事業を展開

――カルペ・ディエムは、どんな会社ですか?

西岡:大学生インターンが20名程度、バイトが20名程度で回っている会社です。そのほとんどが東大生で、その東大生たちと一緒に、全国の学校にお邪魔する教育事業と、本のライティングをする出版事業がメインですね。

――それだけ多くの東大生が会社に来てくれているのに、自称「一番バカ」の西岡さんは、どのようにして人望を集めたのでしょうか?

西岡:「人望」というのとはちょっと違うと思いますよ。別に僕、人望ないと思うし。元偏差値35から2浪して東大に合格したような人間なので、うちのインターン生の誰よりも俺が頭悪いですしね。

 それでも、彼ら彼女らが僕に利用価値を見出してくれたから、一緒にいてくれているんじゃないかと。だから、東大生と一緒にいる秘訣は、「自分のほうが頭が悪い」と受け入れることかもしれません。

◆会社と従業員の利害を一致させる

――「利用価値」と聞くと、ずいぶんドライな印象を受けますが……。

西岡:ある意味ではかなりドライだと思いますよ。僕は、うちの会社に入りたい東大生にまず「うちを使って何がしたいの?」と質問をするんです。

「うちでは、本を出版したり、学校さんと組んで生徒に教育プログラムをしたり、メディア関連の仕事をいくつかしているから、ある程度であればあなたがやりたいをしてもらったり、あなたが得たいスキルを得たりすることができるけど、何がしたい?」と。

 そこで、彼らの願いを聞いて、それを叶えるから、そのための仕事を手伝ってほしいと交渉する。

 そうやって入ってくれると、利害が一致しているので、揉めようがないんです。それに、最初はドライな関係から始まっても、長く一緒にいると情が湧いてくるのか、こちらがお願いしなくても会社のために何かをしようとしてくれます。

◆「投資したい」従業員に300万円渡した


――なるほど。これまでにどんな「願い」があったのでしょうか?

西岡:様々です。これは会社と関係ない話ではありますが、面接で「投資にチャレンジしたいからお金をください」って言われたから、個人の資産から300万渡したこともあります。

 でも、東大生って利他的な「願い」を言う人が多いですね。「今の教育を受けている子どもたちが、こんなことを教えてもらっていないままなのは不憫でならないから、社会を変えたい」とか。ずっと不登校だったのに東大に来て、「自分の経験はつらかったから、不登校ゼロ社会を目指したい」という人もいました。

 ぶっちゃけ、「お金が欲しい」とかの方が楽で良いんですけど、こういう複雑な要求をされると、どうやって叶えようか考えないといけないので大変です。でも、それが楽しいんですよね。

◆「面白い子と出会えるか」が最優先

――「投資したいから」で300万円ですか。お財布事情が心配になりますが……。

西岡:会社の収支はともかく、僕個人の収支は全くあってないでしょうね(笑)。それ以外にも毎年4月頃には色々な新入生とあって、毎日のようにご飯を奢っています。

 4月単月だと、食事代だけで50万くらいは飛びますね。それは会社の経費にはしてないですけどね。でも、そこから面白い子と出会えることもあるので、いいんです。

――投資をして「還ってきたな」と思うときはありますか?

西岡:もちろん、新入生みんなが面白い子ってわけではありません。ただ、奢った子の友達がめちゃくちゃ面白いことを考えてるってパターンも多いんです。

 それに、東大生たちのやりたいことは、大抵うちの会社の方針とあっていて、会社的にもプラスに働くことも多い。だから、とにかく出会いを増やすことが重要ですし、そのために支出を惜しんではいけないと考えています。

◆「誰かと遊ぶ」ことに慣れていない東大生


――西岡さんからみた東大生は、どのような印象を受けますか?

西岡:とにかく頭良くて、置いてかれてしまう場合がめちゃくちゃ多いですね。でも僕も僕で、「東大生の弱点」みたいなものは見えるんです。

 例えば、やっぱり遊びを知らない人が多いように感じます。お金を持っているのかもしれないけれど、使い方が下手。

 順位やスコアなんて気にしないで、親睦会のようにワイワイやろう!ってスタンスのゲーム大会で、死ぬ気で1位を獲りに来るような子もいます。別に悪いことではないんですが、「誰かと遊ぶ」ことに慣れていないように見える。僕は遊んで生きてきたと思っているので、「どうやって生きてきたんだろう?」と不思議に見えることもしばしばです。

 ですから、いまは東大生たちを遊びに誘うことが楽しい。グランピングとかゲーム大会を定期的に企画して、息抜きとか親睦会ついでに、「遊び」について知ってもらう機会を設けています。

◆「利用価値のある存在」であり続ける

――確かに、私も東大に来て初めて「生まれてから一度もゲームをしたことがない」人と出会ったことがあります。あまり遊び慣れていない子は多いでしょう。逆に、西岡さんはどのように見られていると思いますか?

西岡:僕は、東大で一番頭が悪い自信があります。「会話のテンポが遅いですね」と言われたこともある。正直、今も昔も、疎外感を抱えながら生きていますよ。「こんな俺が社長でいいのか?」って毎日思っています。

 ただ、それでも彼らが僕についてきてくれるのは、僕の利用価値をわかっているからでしょう。そう思ってくれているうちは、一緒に仕事をしたり、遊んだりできるってことです。それならば、僕は全力で彼らの期待に応えようと思います。

―[貧困東大生・布施川天馬]―

【布施川天馬】

1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を自ら編み出し、東大合格を果たす。著書に最小限のコストで最大の成果を出すためのノウハウを体系化した著書『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』がある。株式会社カルペ・ディエムにて、講師として、お金と時間をかけない「省エネ」スタイルの勉強法を学生たちに伝えている。(Xアカウント:@Temma_Fusegawa)