まだまだある!今後の日本株式に期待できる根拠
②政策運営に対する審判官として株式市場が機能し始めた
NISAによる株式投資の浸透、政府が音頭をとる「貯蓄から投資へ」がブームとなるなかでの株価暴落は、ニュー・エントリーの投資家に多大な損失を与えた。世論の政権批判が一気に高まり、政権にとってにわかに株安是正が緊急課題となった。
日本銀行、財務省、金融庁は6日午後、国際金融資本市場に関わる情報交換会合を開催し、それを受けて内田日銀副総裁による政策修正表明がなされた。またGPIFなど政府関連の機関投資家に対する株価支持要請、米国当局との連携、メディア工作などが遂行されたと推察される。それが8月6日以降の株価のV字回復に繋がった。
巨視的に見ると、いよいよ日本にも株式資本主義が浸透し、株安をもたらす経済政策が容認されない時代に入りつつあるのかもしれない。今までメディア、アカデミズムを影響下に置き、思うような政策を遂行できた財務省・日銀は市場(特に株式)という新たに登場した審判官に逆らえなくなったということである。
市場の合理性により政策の可否が判定される時代に入っていく。いずれ市場の反乱により財務省の異常な財政健全化路線が拒否される時が来るかもしれない。財務省に忖度する癖がついているメディア・アカデミズム・エコノミスト諸氏は、用心をしておいたほうがよい。
③米国経済の最悪シナリオ(景気の顕著な減速)はいったん織り込んだ
米国失業率の上昇、株価下落、国債利回りが短期金利を下回る逆イールドの継続等、警戒信号が現れている。しかし7月の失業率4.3%は依然完全雇用に近く、かつ移民の増加による労働参加率の上昇とハリケーンが影響しており、基本的に堅調との見方が優勢である。
株価下落も高値からの下落率はS&P500で6.8%、NYダウで5.3%と循環的調整の域を出ていない。何かの理由により投資家や消費者、雇用主等の経済主体の心理が急悪化しない限りリセッションは考えにくい。
心理悪化要因としては、株安、および日本の利上げが引き起こす金融不安(ブラックマンデー型)の2つが市場で想定されたが、どちらも深刻なものではなかった(後述)。アトランタ連銀による3QGDPナウは2.9%と堅調である。
最も注視されるクレジット・リスクプレミアムは先週末上昇したもののその水準は過去の危機時と比べて低く、金融市場のストレスはまったく高まっていない([図表3])。
そのなかで株式市場のVIX(ボラテリティ・インデックス)や代表的な短期弱気指標であるプット・コールレシオが急伸した。これらファンダメンタルズに根拠を持たない市場の嵐は、過度のレバレッジ解消に伴う癇癪ととらええられる。とすれば米国経済は堅調で、今後の米国の利下げは限定的であろう。
すでに過剰レバレッジの調整は急進展しており、市場の混乱は沈静化に向かう可能性が高いと考えられる。
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株価に逆風?「円高」が進行する可能性は
④円高の天井も見えた
以下4つの要因により円高が進行する可能性は低いだろう。円は160~145円のレンジの中で安定していくのではないか。
第1に、今後日米金利差の縮小はあまり見込めない。日銀の利上げが遠のき、米国の利下げが限定的になるとすれば、日米金利差の縮小は緩慢になる。むしろ日本の株安と日銀の利上げ封印で米国以上に日本の長期金利が低下している。
金利差縮小は一服したと言える状況である。[図表4]に見るように金利差の縮小(長期・短期・名目・実質のすべてにおいて)は、すでに1年前から始まっており、為替決定要因としての日米金利差は重要性を失っていくのではないだろうか。
第2に、投機の円高も続きにくいと思われる。シカゴマーカンタイル取引所のIMM通貨先物ポジションを見ると、円のネットショートポジションは6月末に過去最高の184,000枚に積みあがったが、8月9日には11,000枚と、10分の1以下に縮小しており、1ヵ月で円ショートの投機ポジションがほぼすべて解消されたことを物語る。
それでは今後円ロングの積み上げがなされるかというと、それはなさそうである。[図表5]に見るように、過去円のネットロングポジションが積みあがったのは、リーマンショック・ギリシャ通貨危機時(2008~2012年)、2015~6年のチャイナショック時、2020年のコロナショック時など金融不安が高まった時だけであった。米国経済堅調となれば、むしろ円ショートポジションが再度積み上げられる場面があるかもしれない。
第3に、日米の好対照のポリシーミックスは明確にドル高円安を志向している。そもそも拡張的財政政策とタイトな金融政策は通貨高に、緊縮的財政政策とルーズな金融政策は通貨安になるという経済学仮説(マンデル・フレミングモデル)に基づけば、米国は典型的通貨高のポリシーミックス、日本は典型的通貨安のポリシーミックスを採っていることになる。
円安インフレにより政府の税収が大きく膨れ上がっている。政府はプライマリーバランスが2025年度に黒字になるとの試算をまとめたが、それは2023年の-5.2%(OECD2023年11月)からの鋭角的回復になる。それは逆から見れば財政が2024~2025年にかけて民間需要を年間2.6%押し下げるということを意味する。
円安インフレは家計から実質所得の減少という形で所得を奪っているが、政府には巨額の所得移転をもたらしているのである。日本政府が税収増をため込みプライマリーバランスの黒字化を達成するということは、財政緊縮度を強め強烈な円安圧力を保持し続けるということに外ならない。円安を止めるには財政緊縮路線の大転換が必要、それが始まるまでは、円安基調は大きく変われないと考えられる。
第4に、市場での円先安観は7月以降の円高場面においてもほとんど損なわれていない。市場の円先安観は金利差を上回る為替ヘッジコストによって推測できるが、[図表6]に見るように、日本円だけが突出して高い状態がほぼ2年にわたって続き、今もまったく変わっていないのである。
日本円の対ドルヘッジコストは2022年初めまで、ユ―ロなどの他通貨とほぼ同じで0%台であったが、2022年末にほぼ5%へと急上昇し、現在も5~6%と異常な高水準で推移している。日本円に対してだけ為替ヘッジコストが異常に高くなったため、日本の投資家が為替ヘッジをして米国国債投資をすれば、2~2.5%の損失となる状態が2年以上にわたって続いている。
この円の日米金利差を上回る対ドルヘッジコストは2022年春先からの円安の急進展とともに急上昇し、それ以降金利差を2~2.5%上回って推移している。それは市場が年間2~2.5%の円安を想定していると理解できる。