閉経前後で心や体が大きく変化する「更年期」。英語では更年期を「The change of life」と表現します。その言葉通り、また新たなステージへ進むこの時期をどう過ごしていったらいいのか――。
聞き手にキュレーターの石田紀佳さんを迎え、さまざまな女性が歩んだ「それぞれの更年期」のエピソードを伺います。
今回お話を伺ったのは・・・
朝田今日子さん
1975年東京生まれ。1999年よりイタリアのウンブリア州で暮らす。阿佐ヶ谷のオリーブオイル店「ブオーノイタリア」店主。著書に『イタリア、ウンブリア地方のオリーブオイル・レシピ』(河出書房新社)、『オリーブオイルでとろけるやわらか野菜』(文藝春秋)などがある。
イタリアで迎えた大転換期
21歳のとき、美術を学ぶために、単身(拾ったネコと)渡ったイタリアで夫と出会い、二人が気に入ったウンブリア地方でオリーブオイルと出合う。
20代前半は朝田今日子さんの人生の大転換期だった。
「そのオリーブオイルはおいしいだけでなく、胆のうを除去していた母が食べても大丈夫だったんです。それで母が東京でオリーブオイルの店をはじめたのですが、7年後に激務のために体を壊してしまいました」
2008年、33歳の朝田今日子さんは8歳の息子を連れて帰国。
母は回復したが、息子の教育を日本でするため、2010年にはイタリアから日本に拠点を移す。生計を立てるために、オリーブオイルの店を継いだ。
「オリーブオイル店というと、なぜか優雅なように思われているのですが、実際は重労働なんですよ」 年に数回、2トン近いオリーブオイルが入荷する。
「もともと力持ちで細かい作業も好きだったので、若いころは、疲れてからが勝負! とばかり、頑張っていました。手伝ってもらっている人以上に働かなきゃと、目の前にある段ボールをどんどん運んで、細かいラッピングがある大量注文を最速で仕上げる。そんな仕事を15年ほど続けました」
ついに数年前に椎間板ヘルニアに。腱鞘炎も悪化し、コロナ禍の中、歩けなくなるほどの激痛に苦しむ。右腕は動かなくなった。
「水泳をしたり、ユーチューブの動画を参考に自己流で運動したのも逆効果だったようです」
幸い信頼のおけるトレーナーと出会い、なんとか動けるように。
「ここ数年はリハビリやトレーニングに通っています。子育てが終わって自分の体にも変化が起きています。これからどうするか、第二の転換期に入ったと思います」
毎日食べても飽きのこない、まるで白ごはんのような無塩パンをよく焼く。
塩分を気にしているわけではないが「小麦の甘味や香りが鼻の奥に抜けるのがたまりません」。
お店で扱っているオリーブオイルは、イタリア人の夫も驚いたほどの風味。
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さみしくもうれしくもある息子の巣立ち
自分の人生の一部のように考えていた息子も大学生になって、 「あなたはそういう人だけど、僕は違うんだ、と意識的に言ってくるようになりました。
小さいころはおばさんみたいにおしゃべりで、なんでも話してくれていたのですが、今では会話は少なくなって、何を考えているのかわかりません。さみしいし、心配ですね。こちらから言いたいことはたくさんあるのですが、言ってはいけない、でも言わずにもいれなくて……」
会話が減ったとはいえ、マンガと食べ物など共通の話題もあり、荷物運搬など、今日子さんの仕事を手伝ってくれる。端から見ると、何も心配はなさそうだが、巣立っていこうとする子に対する母は、葛藤の真っ最中のようだ。
「さみしいけど、巣立ちは大きな喜びです。私も20代のときに将来のことなんて具体的に考えずにイタリアに行ったのに母は送り出してくれました。私もそうしたい」
しかし、やっぱり息子の内面は気になる。 「イタリアの小学校では、東洋人っぽいということでからかわれ、日本に来たらイタリア人気質でなんでもはっきり言うのでけむたがられたり、父親が一般的には祖父ぐらいの年齢なので友だちからそれを指摘されたりして、傷ついてきたのではないかなとも思います。本人はなにも言わないのですが」
それでも、一度だけ「お父さんのことをおじいちゃんって紹介してもいい?」と聞かれた。しかし、今日子さんは、自慢の父と思ってほしい、恥じることはないと「そんなこと言わないで」と止めた。