「手の込んだ料理」が気軽に楽しめる一方で…キッチンカーに感じる“衛生面”という不安要素

 外食産業専門コンサルタントの永田ラッパと申します。「日刊SPA!」では、これまで30年間のコンサルタント実績をもとに、独自の視点から「食にまつわる話題」を分析した記事をお届けしていきたいと思います。今回のテーマは、「キッチンカー」です。

◆嗜好食であっても出店場所次第で「バズり」も起きる

 イベント会場やオフィス街、商業施設などでよく見かけるキッチンカー。その業態の幅も広がっていて、ユーザーにとっては選択肢が増えて便利に、そして楽しくもあるでしょう。

 食のジャンルには「実用食」「嗜好食」の2種類があります。日常的に食べたくなるもの、多くの人が手を出しやすく食べ慣れているものが実用食です。一方で日本の文化に馴染みのない、高額なものなどは嗜好食に含まれます。

 もともとキッチンカーでは、このうち実用食がおもに販売されていました。たこ焼き、焼き鳥、クレープなどおなじみのものが中心でしたが、業界が飽和していくにつれ、嗜好食を取り扱うケースも増えているように思います。

 嗜好食となると、それを「食べたい」と思う人、つまりターゲットとなる客層はニッチなものになっていきます。しかし、それでもビジネスとして成立するのは、固定の店舗と違ってキッチンカーは出店場所を選べる強みがあるからです。出店場所さえ間違えなければ嗜好食であっても商品は売れます。ハマッてしまえば「バズり」も起きるのです。

◆キッチンカーは出店場所確保が最大のカギ

 キッチンカーを運営する事業者にとって出店場所開発は重要なポイントになります。1カ所だけ確保して安心するような事業者は長続きしないでしょう。やはり数カ所、できれば10カ所ほどは確保しておかなくてはなりません。最近は出店場所のマッチングサイトなどもあり、この点はやりやすくなっているようです。

 週末などは商業施設内に確保できればいいでしょう。そして土曜日と日曜日で別の場所、それも隔週で出店するほうがユーザーにとっての価値は上がっていきます。平日でも昼と夜で出店場所を変えて、バリエーションを豊かにしていくべきでしょう。同じ場所に同じ店が出て、同じものを売っているだけだと「だったら商店街のテイクアウト店でいいよね」「普通に飲食店で食べればいいじゃない」といった心理が働き、ユーザーにとっての価値は下がってしまいます。

 出店場所を複数確保しつつ、さらに新しい場所も開発し続けることが必要で、これはかなり根気のいる作業です。

◆オフィス街と住宅街で明確に分かれるニーズ

 オフィス街と住宅街でも事情が異なります。オフィス街の場合、そのエリアで働くビジネスパーソンがおもなターゲットになりますが、彼らのランチルーティンに入り込むことができればうまく展開していけるでしょう。ただし付近にどんな飲食店があるのか、ライバルになるお店はないのかなど、事前にもろもろの情報を把握しておく必要があります。オフィス街には古くから実用食を提供する飲食店はたくさんあるので、嗜好食のキッチンカーでも入っていきやすいのではないでしょうか。またそのエリアの昼人口も確認しておく必要があります。

 一方住宅街では嗜好食よりも、惣菜などの実用食のほうが受け入れられやすいでしょう。食卓を飾るひと皿になりえるものが求められます。「ついで買い」のお客さんも多いでしょうから、スーパーの惣菜やコンビニのスイーツなどがライバルになってくるでしょう。

◆温度管理が徹底していないキッチンカーも…

 キッチンカーを利用する立場から気になるのは、「衛生管理がどこまで行き届いているか」だと思います。残念ながら、限られたスペースでは配慮が難しいこともあります。また、きちんとした「仕込み場所」を持っているかが重要なポイント。

 加えて温度管理も大切です。私たち外食産業に関わる者には「熱いものは熱いまま、冷たいものは冷たいまま」という考えが根底にあります。しかし、お弁当などを販売する中食産業の場合は少し異なる事情が。「できたてアツアツ」のものならば、その温度をいかに早急に25度以下に下げることができるかという点が衛生管理上重要になります。しかしお弁当などはピークタイムにそなえて作り置きをしていることもあり、この点が不十分なお店も多いのではないでしょうか。

 

 買った時点で、作ってからすでに30分以上経過していることも珍しくないはず。加えて、出店場所によってはその場ですぐ食べてもらえることもありますが、買ったあとすぐに食べてもらえる保障はありません。オフィス街ならば持ち帰って食べる人も多いでしょう。ランチのピークタイムを外して来店して、購入後30分ほど経ってから食べるという人もいます。これでは衛生上、とても安全とは言えません。

◆利便性とワクワク感の向上にはリスクもともなう

 以前はキッチンカーで食べることができなかったような、手の込んだ料理などを提供するところも増えています。例えばケバブを販売するキッチンカーに出会うことがあります。回転式ロースターの肉塊を見ると、シズル感もあってとても美味しそうに見えますね。しかしそこには「売るための演出」という面もあり、衛生面がおざなりにされてはいないか、気になってはいるところです。

 これまではレストランなど、“きちんとした店舗”でしか味わえなかったものが、キッチンカーで手軽に楽しめるようになってきています。ユーザーにとっては利便性やワクワク感がアップして、メリットばかりのように思えますが、同時にリスクもアップしていることを忘れてはいけません。“レストランスペック”の美味しいものは、必ずしも安全とイコールではないのです。

 固定の店舗を持たないキッチンカーは参入のハードルが低いように思われがちで、新規参入を検討している人もいるでしょう。実用食から嗜好食に幅が広がって、キッチンカーグルメも新しい段階に移行していますが、中毒などの事故が起きてその流れに水を差してしまわないかが心配です。くれぐれも衛生管理には最大限の注意を払ってほしいなと心から祈っています。

<TEXT/永田ラッパ>

【永田ラッパ】

1993年創業の外食産業専門コンサルタント会社:株式会社ブグラーマネージメント代表取締役。これまで19か国延べ11,000店舗のコンサルタント実績。外食産業YouTube『永田ラッパ〜食事を楽しく幸せに〜』も好評配信中。