国内旅行には欠かせない新幹線。利用客も多いだけに、「ありえない」人物を目撃することも少なくない。加藤光さん(仮名・20代)も、新幹線のなかで目を疑うような光景を目にした経験を持つ。
「『常識がない』と感じる客を目撃する機会は多いですね。大きないびきをかいて寝る迷惑男、席を向かい合わせにして酒盛りをする若者など、いろいろな迷惑客に遭遇しました。そのなかでも『とんでもない』と感じたのが、自由席券しか持っていないのに、指定席に座る50代の男でした」
◆新幹線内で見かけた「指定席を渡り歩く男」
「私は広島駅から新幹線に乗りました。左隣に50代の男が座っていたのですが、岡山駅に着いたところで、新幹線に乗り込んできた男性客と話していました。聞き耳を立てると、『ここは私の席だ』と。どうやら、50代の男が違う席に座っていたようなんです。『すみませんでした』と丁寧に謝罪すると、別の席に移っていきました。その時点では、単純に席を間違えたんだろうなと見ていました」
当初、座る席を間違えたと思っていた加藤さん。しかし、様子を見ているうちに「おかしいな」と感じたという。
「新大阪駅でも新たに乗ってきた女性客に『ここ、私の席では?』と声をかけられていました。ここでは謝りもせず、なぜか『うんうん』と頷いて、別の空いている席に移っていきました。『どうも怪しいな』と見ていると、京都駅でも同じことがおきました。『これは自由席の切符で指定席に座り、空いている席を渡っているんではないか?』という疑念を持ちました。こちらは経費とはいえ、指定席の金額を払っているわけですから、イライラしましたよ」
◆「車内改札廃止」でチェックが甘くなった?
指定席を渡り歩く男に憤りを覚えた加藤さん。車掌は気がつかなかったのだろうか?
「私が新入社員のときは、車掌が乗客1人1人に切符を確認する『車内改札』というものがありました。現在は携帯端末のようなもので座席を確認していると聞きましたが、なぜか男が咎められることはありませんでした。レアケースなのかもしれませんが、『意外とバレないものなんだな』とも思いましたね。また、私の目には男が慣れた感じで席を渡り歩いているようにも見えました。声をかけられても、驚くことをしないんです。『やっぱり来たか』みたいな様子に見えて、常習犯のような気がしていました」
◆車掌にチクられた男の末路は…
名古屋駅で加藤さんの怒りは頂点に達した。
「名古屋でも乗ってきた男性に『ここ、私』と咎められていました。その後、しばらくして男が名古屋で降りた人の席に座ったことで、『自由席券しか持っていない』と確信しました。乗務員室まで行き、『自由席券で指定席に座っている男がいる』と申告しました」
車掌から声をかけられ、乗車券を見せるよう求められた男。どうなったのだろうか。
「乗車券の提示を求められた男は『違うんです』と浮気がバレた男のような意味不明な言い訳をしていました。すると先に座られ『違う』と指摘した乗客の1人が『この人、ずっと他人の席に座っていましたよ』と申告。『俺も見た』『私も被害にあった』と声が上がったんです。結局乗務員室に連れて行かれることに。どうなったかはわかりませんが、おそらく、差額を請求されたのではないでしょうか。常習性があった場合、刑事罰を受けた可能性もあると思いますよ」
自由席券で指定席に座る行為は契約違反であり、鉄道営業法第29条「有効な乗車券を持たずに乗車すること、乗車券の表示よりも優等の車両に乗車することを禁止する」に違反する可能性がある。なによりも気分良く移動したい乗客に対する迷惑行為。くれぐれも繰り返さないでほしいものだ。
<TEXT/佐藤俊治>
―[乗り物で腹が立った話]―
【佐藤俊治】
複数媒体で執筆中のサラリーマンライター。ファミレスでも美味しい鰻を出すライターを目指している。得意分野は社会、スポーツ、将棋など