養育費に関する取り決めの注意点
養育費は、子として受けるべき当然の権利です。では、養育費をきちんと支払ってもらうために、どのような対策を取ることができるでしょうか?
離婚時に養育費の取り決めを行う
離婚後、養育費を払ってもらうには、離婚する際に「きちんと養育費の取り決めをする」ことが必須です。養育費の約束をしていなければ、相手の方から養育費を払ってくることはほとんど期待できないからです。離婚時、子どもの親権者を決めるときに一緒に養育費の金額や支払方法も決めましょう。養育費の金額は、支払う側と支払いを受ける側の収入のバランスや子どもの人数、年齢によって異なります。こちらの家庭裁判所の算定表が参考となります※。
養育費についての合意書は「公正証書」にする
養育費について話し合いをして取り決めたら、必ずその内容を「合意書(書面)」にしましょう。口約束では、払ってもらえなくなる危険性が極めて高くなるからです。また、単なる当事者間で作成した合意書ではなく「公正証書」にすることを強くお勧めします。公正証書とは、公証役場で公証人に作成してもらう公文書です。
公正証書にすると(不履行があった場合に直ちに強制執行に服する旨の強制執行認諾文言が明記されている場合)、相手が不払いを起こしたとき、すぐに相手の給料や預貯金などを差し押さえることができます。特に相手が会社員や公務員の場合、給料を差し押さえるとその後は会社や自治体などから差押え分を直接払ってもらえるので、相手による不払いを心配する必要がなくなります。
離婚公正証書を作成するには、合意した養育費やその他の離婚条件を公証人へ伝え、「これを離婚公正証書にしてください」と言って申込みをします。すると、公証人が案文を作成し、それを当事者双方で確認したうえ、日時を決めて当事者2名が公証役場に行き、署名押印をすれば離婚公正証書が完成します。
公正証書の作成には合意内容の財産的価値に応じた手数料が必要です。養育費や財産分与まで含めた離婚協議書の場合、数万円の費用が必要となる場合があります。公証役場に行ったり書類を集めたりする手間もかかりますが、後に養育費を確実に回収できることを考えれば費用や手間に見合う価値があります。必ず作成しましょう。
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養育費の未払いが起きてしまったら
養育費の未払いが起きてしまったら、次の方法を検討しましょう。
離婚協議書で養育費の合意をしている場合「内容証明郵便」で催告する
離婚時に養育費についての取り決めができなかった場合、相手は離婚後に養育費を払ってくれないことが少なくありません。また、当初は払ってくれていても、だんだんと養育費を支払ってくれなくなることがあります。そのような場合には、家庭裁判所で「養育費調停」を申し立てましょう。
養育費調停とは、子どもの養育費の金額や支払方法を決めるための調停です。裁判所の調停委員が間に入り、養育費の話し合いを進めてくれます。相手が支払いに消極的なケースでも説得してくれますし、相場に従った養育費の金額を提示してくれるので、自分では決め方がよくわからない場合にも安心です。養育費調停で、相手と申立人の双方が納得できる金額を決められたら調停が成立します。通常は、その後調停内容に従った支払いをしてくれるでしょう。
一方、相手が頑なに「払いたくない、払えない」という場合もありますし、ときには養育費調停に出頭しないケースもあります。そのような場合には、養育費調停が「審判」に切り替わり、裁判官(この場合には「審判官」と言います)が養育費の金額を決めて、相手に支払命令を出します。
離婚時に決められなかったときや公正証書がない場合には「養育費調停」を行う
養育費調停や審判で養育費の支払いが決定されても、相手が従わないケースもあります。
その場合、家庭裁判所で「履行勧告」をしましょう。
履行勧告とは、家庭裁判所から相手に対し「調停や審判で決まったことを守ってください」と連絡する手続きです。履行勧告の方法は、家庭裁判所に行って履行勧告の申請書を提出するのみなので、簡単です。また、電話でも申し出を受け付けている裁判所もあります。ただし履行勧告には強制力がないので、相手が無視する危険もあります。
似たような制度に「履行命令」があります。これも家庭裁判所に申立をして、裁判所から「調停や審判で決まったことを守りなさい」と命令してもらう手続きです。これを無視すると、相手には「10万円以下の過料」という行政罰が下される可能性があります。ただし過料の制裁が発動されても養育費を払ってもらえるわけではありませんし、それ以上の強制力はありません。
無視されたら「強制執行」をする
相手が養育費を払ってくれないとき、履行勧告を無視されたら「強制執行」を検討しましょう。また、離婚時に公正証書を作成していたら、養育費調停をしなくてもいきなり強制執行が可能です。強制執行とは、相手の債権や資産を差し押さえる手続きです。
差押えの対象になるのは、以下のようなものや債権です。
預貯金
生命保険の解約返戻金
給料
社内積立
不動産
株式などの有価証券
相手が会社員や公務員の場合には「給与差し押さえ」が有効です。養育費の場合、相手のおおむね「手取り額の2分の1まで」毎月取り立てることが可能です。一度申立をしたら、その後は強制執行を取り下げるか、相手がその職場を辞めるまで差押えの効力が続きます。
つまり相手が今の職場を辞めるまで、給料から確実に養育費を支払ってもらえるということです。
相手が会社員や公務員でない場合には、預貯金や生命保険の解約返戻金などを差し押さえることも可能です。不動産や車などの差押えにはかなりの労力と費用がかかるので、優先順位としては後になります。特に車や動産差押えの場合、費用の方が高くかかって「赤字」になる可能性もあるので注意が必要です。また住宅ローンが設定されている「オーバーローン」物件の場合、そもそも差押えが難しいケースもあります。
養育費の請求には時効がある
養育費は、不払いとなった時期からあまり期間が経過してしまうと、時効によって権利が消滅してしまいます。養育費は一度に時効にかかるわけではなく、月々支払ってもらうべき養育費が、時効期間を迎えた月の分から順次時効にかかっていきます。養育費の時効は、原則として5年です。例外的に、調停や審判、裁判で養育費について取り決めた場合には10年へと伸長されます。養育費の不払いが起きてしまったら、時効にかからないよう早期に請求するようにしましょう。