先進国各国において「少子化問題」は大きな問題となっていますが、フランスでは出生率低下を食い止める国の対策が効果を発揮。少子化傾向は続いているものの、現在EUではトップの出生率となっています。出生率の低下が止まらない日本が参考にできることはあるのでしょうか? 今回は、日本在住のフランス人ジャーナリスト・西村カリン氏の著書『フランス人記者、日本の学校に驚く』(大和書房)から一部抜粋して、フランスの対策をご紹介していきます。
なぜフランスの出生率はEUでトップなのか
厚生労働省が公表した人口動態統計によると、2022年の日本の合計特殊出生率は2005年と並んで1.26ポイントと過去最低となった。出生数は77万747人で(海外で生まれた日本人の子どもも含めれば。79万9,728人)、統計を取り始めた1899年以降、初めて80万人を割った。
他方、フランスの出生率は2021年で1.83とコロナ禍で低下したポイントが上昇した。2022年にフランスで生まれた子は72万3000人、前年比1万9,000人減[図表1]。
フランスでも世界的な傾向にあるように1970年代にかけて出生率が急激に低下していったが、70年代におこなわれた「女性活躍推進策」が結果的に少子化へ歯止めをかけていった。
この女性活躍推進策とは、男女の財産権の平等や、産休の給与保障90%への引き上げ、保育手当の充実などにより、出産・育児で出産前のように働けなくなってもお金に困らない政策のことだ。
99年には同性婚カップルを含む事実婚も、法律婚と同様の社会保障を受けられる協約(PACS)が施行されるなど、社会システムを整えていった。さらに2021年には、すべての女性(独身女性、同性カップルを含む)に対する生殖補助医療が認められるようになった。
出生率で見てみると、85年以降は1.80からゆるやかな低下となり、93年には1.66まで落ち込んだが、2007年には1.98まで回復した。その後はゆるやかな低下を続けながらも、現在、EU諸国ではトップの出生率だ。一方で、日本はここ30年間、出生率1.5以下で推移し、少子化対策が一向に成果を上げられずにいる。
なぜフランスは出生率低下を食い止めることができたのか。2023年現在、施行されている子育て支援政策には以下のようなものが挙げられる。
・所得と子どもの数に応じて支給される家族手当
・妊娠前の検診、出生前診断から出産、産後ケアに至るまでの全面無料化
・不妊治療の公費補助
・義務教育から公立の高校、大学まで授業料無料、返済不要の奨学金制度
・子育てのための時短勤務、在宅勤務など就労を自由に選べる制度
・3歳までの子を預ける保育ママ、学童保育の無料化
・3人以上の養育で年金10%加算
・法律婚と同様の社会保障を受けられるPACS
EU諸国ではトップの出生率とはいえど、フランスもやはり少子化傾向が続いている。若者は未来のことを考えて子どもを作るのに抵抗がある。インフレや一部の子どもの手当の変更もあり、経済的な不安もある。
また地球温暖化による将来への不安もある。おそらく住めない場所も出てくるから、子どもを産んでも彼らが大人になったときに苦しい環境で暮らすのなら産みたくないという気持ちもある。
一時的に成果が出た少子化対策でも、状況の変化があれば見直ししなければならず、強化していかないと成果は出なくなる一方だ。フランスでは2023年の出生数は速報値によると67万8,000人で、前年より4万8,000人減。これは第2次世界大戦後最低となった。
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移民が数を引き上げている?
ちなみに、フランスで出生数が増えたのは移民が数を引き上げているという論調もある。たしかに移民の出生率は移民でないフランス人に比べて高いが、全体の出生率を0.09~0.11ポイント押し上げているに過ぎない[図表2]。
では、日本では移民を受け入れる必要があるのか。日本の問題はまず、出産可能年齢の女性の数が足りないことにある。外国から出産可能年齢の女性が来日することで政府が目標とする出生率1.8ポイントには届かなくても現在からプラスに改善できるのではないか。少子化を本気で解決する意思があれば、移民の受け入れは1つの選択肢だ。
ただ、それは日本人の国民の選択であるべき。外からの圧力で決めるのは間違いだ。海外で移民政策が失敗だったから日本も移民を受け入れない、といった単純な判断もよくない。ちゃんとした判断をするために、移民を受け入れないなら、どのような社会になるか、どんな問題が生まれるのか、どの政策をとっていくかをきちんと把握すべきだ。
同時に移民を受け入れたら、どんな条件で入国を認めるか、どんな環境を整えるべきか、などなどを確認しなければいけない。どちらの選択肢もメリットとデメリットがあり、リスクがあるため、国民全員が考える必要がある。
西村カリン
ジャーナリスト