高齢者とくらべて重い税・社会保障負担を強いられている若者世代を救うため、「社会保険料の引き下げ」を求める声も少なくありません。しかし、こうした意見は“財務省の思うツボ”かもしれません。経済アナリストの森永卓郎氏が“決死の覚悟”で執筆した著書『書いてはいけない 日本経済墜落の真相』(三五館シンシャ発行、フォレスト出版発売)より、世代間の対立を煽る財務省の「ほんとうの狙い」をみていきましょう。
若者を救うため「社会保障費」をカット→なにが起きるのか
私は、2023年9月30日にテレビ朝日系の「朝まで生テレビ!」に出演した。物価高が続くなかで、国民生活をどう守っていくのか、が議論のテーマだったのだが、その番組のなかで若手論客として注目を浴びている安部敏樹氏が驚くべき提案をした。
今の高齢者とくらべて重い税・社会保障負担を強いられている若者世代を救うため、社会保険料の引き下げをすべきだというのだ。
彼の主張の背景はよくわかる。私が社会に出た1980年の国民負担率(税・社会保障負担が国民所得に占める割合)は30.5%だったが、昨年度は47.5%まで上昇している。つまり、かつては稼いだ額のうち税や社会保険料で持っていかれる割合が3割だったのが、今や半分近くが持っていかれる時代になっているのだ。
稼いでも稼いでも持っていかれてしまうという若者の不満はよく聞くが、だったら「減税をしてほしい」と主張するのがふつうだろう。ところが、安部氏は減税ではなく、社会保険料の引き下げを求めたのだ。
そうした意見を聞いたことがなかったので、私はCM中に安部氏に詳しい話を聞いてみることにした。
税金と違って社会保険料は、ダイレクトに負担と給付が結びついている。つまり、社会保険料を引き下げれば、給付を減らさないといけなくなる。
「たとえば、健康保険料を引き下げて、アメリカのように手術や入院をすると莫大な費用を請求される社会にしたほうがよいということですか?」
私がそう聞くと、安部氏は、
「そうしたことは考えていません。やるべき改革は年金のほうです。年金の給付を減らす。具体的には給付額を減らすか、今の給付のままで80歳からの支給にするのがよいと思います」
と答えた。
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安部氏の考える案…森永氏「あまり意味がない」
給付水準を下げるか、支給開始年齢を繰り延べるのかは、あまり意味がない。現在の制度でも、年金の支給開始年齢は60歳から75歳の間で自由に選べるからだ。
現在は支給開始年齢を1カ月遅らせるごとに年金給付は0.7%増える。この仕組みを前提にすると、年金の支給開始を80歳にすれば、年金は126%増えることになる。
逆に言えば、原則80歳支給開始になったときに、年金支給開始年齢を現状と同じ65歳から受給すると、年金給付総額は66%減ることになる。つまり、年金の価値が3分の1になるのだ。
そうなれば、当然、年金保険料も3分の1に下がる。今の厚生年金保険の保険料率は18.3%で、そのうち半分が労働者の負担になっているから、9.15%の負担だ。それが年金給付を3分の1に下げることで、3.05%に下がる。
年収500万円のサラリーマンであれば、年間30万5,000円の負担減となるので、それなりに大きな効果がある。
もちろん、そこにはとてつもなく大きな代償が待ち受けている。
「社会保障費カット」は一見すると魅力的だが…国民を襲う“とてつもなく大きな代償”
現在、厚生年金の平均給付額は、夫婦で月額21万円だ。それが原則80歳支給になったときに、65歳から給付を受けようとすると夫婦で7万円に下がるのだ。
さらに、今後人口構成が高齢化していくので、安部氏が年金を受け取る時代には4割の削減になる。つまり、夫婦が受け取る公的年金はわずか4万2,000円になってしまう。さすがにそれでは生活することができないだろう。
安部氏と話していて、もうひとつ驚いたことがある。彼のところに財務省の主計局長までがやってきているというのだ。
なんでも数兆円規模の大きなプロジェクトを安部氏が構想していて、その打ち合わせのために来ているそうなのだが、私はその打ち合わせの場で財務省の入れ知恵があったのではないかと考えている。