年金の男女格差「ジェンダー不平等の積み重ねの結果」 日本の“労働モデル”見直しの必要性を訴え、国際会議に報告書提出へ

8月26日、全日本年金者組合の中央執行委員長らが、「女性の低年金」問題に関する記者会見を厚労省(東京都)で開催した。

年金の金額には男女で激しい差がある

老齢厚生年金受給権者(基礎年金含む)の年金月額の内訳をみると、年金月額が10万円未満の受給権者は、男性約34%に対して女性は約85%。

また、老齢厚生年金の受給権がなく国民年金の受給権のみを持っている人のうち、年金月額が5万円未満の受給権者は、男性が約21%である一方で女性は約78%。

さらに、厚生年金の標準報酬月額の平均は男性が36万5000円であるのに対し女性は25万5000円と、11万円の差がある。

全日本年金者組合の杉澤隆宣・中央執行委員長は、電気代を節約するために猛暑でもクーラーが使えず、食費も切り詰めて生活している高齢者が多数いることを指摘。日本の年金制度の現状は「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と定めた日本国憲法第25条に違反していると訴えた。

「とくに年金の男女差は、ジェンダー不平等の最たるもの。心の底から怒りを表明する」(杉澤委員長)

国連女性差別撤廃委員会・国際労働機関に訴えを行う予定

10月7日から25日までスイス・ジュネーブ市で国連女性差別撤廃委員会が開催され、17日には日本報告審議が予定されている。全日本年金者組合は代表をジュネーブ市に派遣し、報告書の提出とともに訴えを行うという。

また、11月25日から12月7日まで、国際労働機関(ILO)の条約勧告適用専門家委員会が開催される。全日本年金者組合は「日本における年金の男女格差は『男は外で働き、女は専業主婦として家を守り家事をする』といった役割分担が押し付けられてきたことなどジェンダー不平等の積み重ねの結果である」と報告し、その是正を求めるため、ILOに文書を提出する予定だ。

2016年3月に国連女性差別撤廃委員会が発表した「第7次・第8次日本定期報告に関する総括所見」には、日本では育児や介護などのケア労働に関する「家族責任」が女性に偏って課せられているために、フルタイムではなくパートタイムでの勤務を強いられ、低賃金での勤務を続けた結果として年金給付にも影響が生じていることが指摘されていた。

また、同所見では「シングルマザー・寡婦・障害女性・高齢女性のニーズに特別の関心を払い、年金制度をこれらの女性たちの最低生活水準を保障するものに改革すること」が要請されている。

廣岡元穂・副中央執行委員長は「日本政府は国連女性差別撤廃委員会からの勧告に何も答えてきていない」と批判した。

年金格差の背景には「性別役割分業」を前提とした労働モデル

全日本年金者組合がILOに提出する予定の文書は、日本における男女間の年金格差や、その背景にある男女の賃金格差の原因として、以下の問題を指摘している。

・日本の公的年金制度は、夫が家計の中心として働き、妻が主婦として無償のケア労働を担う家庭を「標準モデル」にして制度設計されていること。

・男性は基幹的業務や総合職に配置されるのに対し女性は補助的業務や一般職に配置される傾向があり、結果的に男女で選択できる役職に差が生じていること。

・1985年の男女雇用機会均等法制定以前には結婚退職制や妊娠退職制が存在しており、退職を余儀なくされた女性が多くいたこと。また、制定以後も、出産や育児によるキャリアの中断があること。

・結婚や出産のために離職した女性が再就職しようとしても、パート労働や派遣、有期雇用などの身分が不安定で低賃金の非正規雇用が多いこと。

廣岡副委員長は「賃金格差の大きな要因は男女間の役職の違いと勤続年数」とする日本政府の見解を批判し、性別役割分業や長時間労働を前提とする日本の労働モデルの見直しが必要であると語った。


全日本年金者組合の中川滋子・女性部長

2023年に告発集を発行

2023年2月、全日本年金者組合女性部は「女性の低年金」の実態を収集して告発するため、冊子『聞こえますか…今、ここにある窮状 175 の声』を発行した。

会見では、中川滋子・女性部長が「冊子の作成を通じて、男性の組合員には図れないような、女性のおかれている現実が分かった」と語った。

「国際的にみても、日本の年金の状況はひどい。国連女性差別撤廃委員会やILOへの訴えを通じて、その事実を明らかにしていくつもりだ」(中川女性部長)