大阪王将「ナメクジ大量発生」投稿事件の裁判で明かされた“衝撃の事実”。裁判は異例すぎる展開に

 2022年7月、宮城県仙台市内で営業していた飲食チェーン「大阪王将」のフランチャイズ店舗の「仙台中田店(現在は閉店)」で「ナメクジ」などが大量発生していると、元従業員がSNSに投稿し、一時話題となった。

 その後、ナメクジが大量発生していた事実はないのにSNSで拡散し業務を妨害したとして、仙台地検は元従業員の圓谷晴臣被告人(25)を偽計業務妨害の罪などで起訴。今年4月に仙台地裁(須田雄一裁判官)で開かれた初公判で、被告人はウソの投稿はしていないと起訴内容を一部否認していた。

 8月19日の第3回公判で被告人質問が行われ、かつて衆目を集めた話題の告発者は、淡々と質問に答えていた。

◆店長に復讐するために誇張した内容を投稿

 被告人はTwitter(現X)で、こんな投稿をしていた。

「大阪王将仙台中田店、冷蔵庫の隙間にナメクジ大量にいる」

「ちなみに大阪王将中田店はナメクジ出過ぎて寄生虫絶対やばい」

 これらの投稿は、検察側が悪質と判断して裁判で読み上げられたもの。検察側の冒頭陳述によると、被告人は以前から労働環境や店長への不満が溜まっていたところ、店長から勤務態度を注意され、憤慨して退職することに。そして同店舗へ復讐するために誇張して偽った内容をTwitterに投稿し、炎上させて業務を妨害させようと考えたという。

 初公判の後も、検察側は被告人を店長に対する侮辱と名誉毀損の罪で追起訴。Twitter上で店長を「クソゴミ」などと表現し投稿して侮辱したほかに、YouTubeでも店長の名誉を傷つけたというもので、被告人は全面的に認めている。

◆被告人質問で明かされた虚偽の事実

 被告人は、法廷の奥のドアから上下紺色のジャージ姿で刑務官らに連れられて入廷。坊主姿でメガネをかけており、一見して気弱そうで、投稿当時に行った記者会見で垣間見えた好青年さはなかった。

 弁護人は情状の証拠として、被告人が作成した謝罪文を提出。謝罪文は、店長と運営会社に対するもので、「私の勝手な行為によって、ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございませんでした。後悔と反省の日々を過ごしております」などと記載されているとのこと。しかし、後の被告人質問で、いずれの謝罪文も相手方に受け取られていないことを明かしている。

 なお、この日の裁判では、主に弁護人による被告人質問が行われた。

 裁判の主な争点は、店舗内で「ナメクジ」が大量に発生していたのかどうか。弁護人から「はじめてナメクジを見たのはいつ頃か」と問われ、被告人は「19・20歳のころに、アルバイトで入った時が初めてです」と答えた。当時から大量ではないものの「ナメクジ」を発見することはあったという。

 また、店舗内にあった洗濯機の下を掃除していた時に5・6匹のナメクジを発見したとのこと。ナメクジはガスバーナーで焼いて処分したと話すが、その後も掃除中に発見することがあったというのだ。

 一方で、一部の投稿については虚偽を認めた。それは、「ナメクジの本当にやばい寄生虫とかわんさか料理についてるやろな」という投稿だ。被告人はこう回答した。

「料理に混入したことはありませんでした。ただ、卵を入れる缶にも、ざるにもいたので、それを使って調理すればナメクジの中にいる寄生虫が入ってしまうと思います」(被告人質問から)

◆ナメクジについて店長からの返信は

 一方で被告人は、店長はナメクジが大量に発生していたことを知っていたのではないか、と話す。なぜなら、以前に「ナメクジ超大量発生しています」と店長にLINEで報告した際に、店長からの返信が素っ気ないものだったからだという。

「店長からの返信は、『ざるにもいっぱいいるから気をつけて』とだけでした。異常事態なので通常は確認するはずです。ということは、店長はナメクジが大量にいると知っているのだと思っていました」(被告人質問から)

 

 仙台中田店を経営していた運営会社は、大阪王将と2店舗のフランチャイズ契約(現在は2店舗ともに閉店)をしていた。

 被告人はアルバイト時代に県内の別店舗へと異動となった経験がある。しかし、異動先では一切ナメクジを発見することはなかったというのだ。さらには、異動先の店舗から派遣された従業員が、仙台中田店の状況に「ヤバいと言っていた」と振り返った。

◆アルバイトの応募動機は「怖いもの見たさで…」

 そんなこともあってか、仙台中田店はいわくつきだったという。

 アルバイトとして応募した理由について弁護人が問うと、被告人は「友人が、あそこはパワハラとかがヤバいと言っていたので、怖いもの見たさで応募しました」と答えたほど。

 現に、今回の事件の発端も労働環境や店長への不満が原因とされている。被告人が正社員となった後は、長時間労働も酷かったといい、弁護人からの質問に「始業時間の午前8時から午後11時ころまで働いていました。ただ、残業代は出ていませんでした」と述べた。

 他方で、弁護人から「大阪王将は好きだったのか」と尋ねられ、被告人ははっきりとした口調で「はい」と答えた。過去には、「大阪王将検定」の3級を取得しており、被告人によるとこの検定を持っているとフランチャイズ店舗で店長になれるとのこと。

 そんな被告人には仙台中田店は、どのように見えていたのか。

「非常にもったいないなという印象でした。大阪王将自体のマニュアルはとても良くて、したがっていれば素晴らしいものを提供できるのに、それいかせていなかったと思います」(同上)

◆被告人の“壮絶な生い立ち”も明らかに

 被告人質問の大半は、情状に関するものだった。この裁判では、ナメクジが大量に発生していたかが争点であるものの、起訴されている罪については全面的に認めている。

 そこで、弁護人は情状酌量を求めるために、被告人の壮絶な「生い立ち」について質問を始めた。

 

 父子家庭だったという被告人、父親からは日常的に暴力を振るわれていたと語る。小学生のころのある記憶が印象に残っているという。

「父親と全財産を使って旅行に出かけたことがありましたが、後々で心中を図ろうとしていたと聞きました。富士急ハイランドに行こうといわれていましたが、実際は富士の樹海に行こうとしていたとのことでした」

 さらに被告人は、「まともな教育を受けておらず、歯を磨くこともお風呂に入ることもわからなかった」と話す。中学校にあがる直前の2011年3月には東日本大震災で被災、一度は祖母の住む家へ逃れられたものの、15歳のころに父親が再婚。再婚した女性は、ある新興宗教の熱心な信者で、早朝に起きてお経を唱えさせられたという。

 逃げるように全寮制の高校へ進学したが、中途退学。そこで、一人暮らしをしようと仙台中田店へアルバイトに応募したという。

◆裁判官による異例の対応

 次から次へと出てくる壮絶なエピソードに、裁判官も聞き入っていたようだ。この日の裁判は1時間で被告人質問を終える予定だったのだが、弁護人の質問だけで50分近く経過してしまったのだ。しかし、多くの裁判官は途中で制止するものの、検察側の質問を次回期日に行うという異例の対応となった。

 内部告発の方法の正当性が改めて問われた今回の裁判。被告人は「内部告発として、きちんとしたところに告発すれば良かったなと思います」と後悔を口にした。

 次回の公判は9月3日、今回の劇場型裁判から一転して、検察側からの厳しい質問が予想される。

文/学生傍聴人

【学生傍聴人】

2002年生まれ、都内某私立大に在籍中の現役学生。趣味は御神輿を担ぐこと。高校生の頃から裁判傍聴にハマり、傍聴歴6年、傍聴総数900件以上。有名事件から万引き事件、民事裁判など幅広く傍聴する雑食系マニア。その他、裁判記録の閲覧や行政文書の開示請求も行っている。