ムハマド・ユヌス氏(中央)|Ahadul Karim Khan / AP Photo
学生などによる反政府デモが広がり政情不安が続くバングラデシュ。首相辞任を経て、暫定政府のリーダーにノーベル賞受賞歴のあるムハマド・ユヌスが指名された。
◆反政府デモの拡大
8月5日、反政府デモの拡大を受けて、バングラデシュのハシナ首相は辞任に追い込まれ、身の安全を確保するためにインドに逃亡。15年間続いた第2次政権が終わった。ハシナは、1975年のクーデターで殺害された、建国者である父親のムジブル・ラーマンの政治活動を引き継ぎ、過去30年間のうち20年、国の指導者を務めた人物である。
反政府デモがどのように勃発し、拡大したのか。抗議の論点の一つが、公務員採用にかかるクオータ制度(さまざまなグループに56%の特別枠を割り当てる制度。そのうち30%は、1971年のバングラデシュ独立戦争を戦った「フリーダムファイター」の親族に優遇される)だ。この制度によって若者が不利な状況を強いられるとともに、与党のアワミ連盟の支持者が優遇されるとして、論争を引き起こしていた。学生らの抗議を受け、2018年にハシナ首相はこの制度を廃止したものの、2024年6月に最高裁判所高等裁判部が廃止は違憲との判決を下したことを発端に、新たな抗議活動が勃発した。当初は平和的な抗議運動であったが、警察が催涙スプレーや実弾で対応し、1人の学生が殺害された映像がオンラインで広く拡散されたことで、デモ参加者と警察との武力衝突がさらに拡大した。(カンバセーション)
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の初期調査報告書によれば、7月16日から8月11日の間に殺害されたのは約650名にも及ぶとしている。
◆ユヌスがリードする暫定政権への期待
ハシナ首相が辞任、逃亡してから数日後の8月8日、ノーベル平和賞の受賞者であり世界的にその名が知られているバングラデシュの経済学者・起業家であるムハマド・ユヌスが暫定政権のリーダーとして正式に就任した。ユヌスは既存の銀行融資にアクセスできないような貧困層を対象にした小規模融資制度であるマイクロクレジットを提供するグラミン銀行の創設者であり、マイクロクレジットの考えを広めた人物である。ハシナ政権下で、ユヌスは労働者のための福利厚生基金の設立を怠り、バングラデシュの労働法に違反したとして、6ヶ月の禁錮刑判決を受けていた。
今回ユヌスに打診したのは、抗議行動を率いた学生だ。引き受けた事由について「国の若者たちが求めていることであり、私は彼らを支援したいと考えた」とコメントした。国を率いることは自分の夢や野望ではなく、あくまでバングラデシュの若者の思いを実現するためであるという主張だ。
ユヌスには治安の安定化やクオータ制の改革が求められるほか、公平な選挙の実施と国際的な信頼の回復などが期待される。就任後のスピーチでは、ロヒンギャの人々に対する支援の継続や、情勢不安が引き起こした衣料品のグローバルサプライチェーンの混乱に対する対応、今回の大量殺害に関する調査の実施、近い将来における公平な選挙の実施などが公言された。