愛するわが子のため、少しでも良い教育を受けさせたいと考える親は多いでしょう。その反面、気になるのが教育費。日本政策金融公庫と文部科学省の調査によると、幼稚園から私立かつ大学から一人暮らしの場合、トータルの教育費は約3,000万円かかるそうです。そのため、計画的に準備しなければ「家計破たん」の危機に陥ることも……2人の子の母親でもある石川亜希子AFPが、教育費の実態について具体的な事例を交えて解説します。
娘の小学校受験、家計のことを考えると…
都内在住のAさん(42歳)は、メーカー勤務で年収700万円。専業主婦の妻(39歳)、長女(4歳)と数年前に購入した築浅マンションに暮らしています。堅実な暮らしで順調に住宅ローンを返済しながら、週末や長期休みには家族でレジャーや旅行を楽しんでいました。
バレエと英語教室に通っている長女にかかる月謝が3万円。Aさんは、4歳にかける教育費としては少し高いような気もしていましたが、幼稚園無償化の恩恵ということで納得していたため、特に妻の教育方針に口出ししていませんでした。
また、Aさんは会社の同僚や上司と話すなかで、中学から私立に通わせている家庭の多さを目の当たりにしたことから、将来はわが子も中学受験をするかもしれないと考えるようになったそうです。
詳しく聞いたわけではありませんが、子どもを私立に通わせている上司や同僚は「教育費が高い」とぼやいているイメージ……しかし、家計的に苦しくなるとしても、やはり長女が望むのであれば希望は叶えてあげたい、などとぼんやり考えていました。
ある日、そんなAさんのライフプランを覆す出来事が起こります。
妻が突然、「長女に小学校を受験させたい」と言い出したのです。Aさんも妻も小学校受験の経験はなく、中学受験についてはいつか夫婦で話し合う時が来るかもしれないと思ってはいたものの、まさか小学校受験とは……。Aさんは驚きを隠せません。
「えっ、いきなりなんで? 小学校は公立でいいんじゃないか?」
「それがね、みんな、いまは中学受験が本当に大変だから回避したほうがいいって言うの」
「そうはいってもな……それに、正直な話、いまのウチの収入だと難しいと思うよ」
「でもっ! 私立のほうが施設や環境が整っているし、そのまま大学までいけたらいいじゃない!」
妻は、すっかり幼稚園のママ友に感化されてしまったようです。
妻の、長女により良い教育を受けさせたいという気持ちもわかりますが、家計の状況を鑑みるとさすがに無謀すぎると感じたAさん。しかし、妻も長女を思っての発言であり、頭ごなしに否定はできません。
そこでAさんは「夫婦で納得のいく判断をしたい」と考え、FPに相談することにしました。
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私立と公立でかかる費用の差…6年間で“とんでもない額”に
文部科学省が公表している「令和3年度子供の学習費調査」による小学校の年間の学習費は次のとおりです。
……約31万4,000円(学校教育費(注1)約6万6,000円+学校外活動費(注2)約24万8,000円)
■私立小学校
……約162万1,000円(学校教育費約96万1,000円+学校外活動費約66万円)
(注1) 学校教育費……授業料や学校納付金、修学旅行費、教材費など学校にかかる費用のこと。
(注2) 学校外活動費……塾代や習い事の月謝など、学校以外でかかってくる教育費のこと。
月にならすと、公立小学校が約2万6,000円の負担であるので対し、私立小学校だと約13万5,000円の負担となり、6年間で800万円近くもの差になることがわかります。
中学受験のために通う塾の費用を考慮しても、小学校から私立に通うほうが高くつく
仮に公立小学校に進学し、中学受験のために塾に通ったとしても、塾にかかる費用は3年間で約300万円。私立の小学校に通うよりはお金がかからないケースのほうが多いでしょう。
Aさんの毎月の手取りは37万円ほどなので、毎月の教育費に10万円以上かかると赤字になってしまいます。さらに、キャッシュフロー上、小学校から大学まですべて私立と仮定すると、長女が大学に進学するあたりで貯金がゼロになってしまう計算です。これでは老後資金どころか教育費が用意できない事態になってしまいます。
そのようななか、FPから
「小学校から私立に進学させたいのであれば、今のままでは厳しいでしょう。とはいえ、生活費を見直す、奥様も働く、新NISAを利用する、奨学金の利用も考える、祖父母から教育費の援助を受けられないか検討するなど、色々な方法は考えられるため、不可能ではないと思います。ただ、教育費が捻出できれば良いということでもないと思うのです」
と言われたA夫妻。では、教育費以外にどのような点を考慮する必要があるのでしょうか?