知的障害ある女性に“性的虐待”「福祉作業所」元施設長と法人に賠償命令 「誘ってきた」反論は認められず

東京都板橋区の福祉作業所を利用していた30代の女性が、元施設長の男性から性的虐待を受けたとして、元施設長と作業所を運営するNPO法人に対して損害賠償を求めていた裁判で、8月26日、東京地方裁判所(新谷祐子裁判長)は、被告らに連帯して150万円、法人に30万円を支払うように命じた。

判決後に弁護士や支援者らとともに都内で会見を行った女性は「(相手の主張を)くつがえせたのが良かった。(裁判が)長かったので区切りが付けられ、ほっとしている気持ちです」と語った。

2016年~19年まで続いた性的虐待

女性は軽度の知的障害があり、2011年から東京都板橋区の福祉作業所に入所。総菜や豆腐などの製造販売を行っていた。

2019年、女性が職員に「施設長(当時)の男性から体を触る、下着の中に手を入れられる、抱きつくなどの性的虐待を2016年頃から受けていた」と訴えたことで事態が発覚。報告を受けた理事(当時)の男性が「障害者福祉支援法」に基づき区の障害福祉課に通報した。

理事から通報を受けた区は、関係者に聞き取り調査を行った上で、施設長による虐待の事実を認定した。

原告は、元施設長と作業所を運営するNPO法人へ、謝罪と施設長の退職などを条件に和解を提案したものの決裂。さらにNPO法人が、女性を支援した職員と区に通報した理事を解雇・解任させる等、不適切な対応を取ったとして、2022年2月に提訴した。

被告らは裁判で、原告から抱きついてくるなどのスキンシップをとってきたなどとして「支援の一環だった」と主張。性的虐待を否認していた。

また、名誉が毀損(きそん)されたとして、女性や女性を支援した職員、区に通報した理事に対して損害賠償請求訴訟を別途提起していた(すでに棄却)。

判決「障害者虐待防止法による性的虐待にあたる」

原告代理人の坂本千花弁護士は会見で、判決と認められた請求額について以下のように語った。

「元施設長による原告に対しての行為は明らかに性虐待、わいせつな行為であって、障害者虐待防止法による性的虐待にあたると認定されました。

請求が認められた150万円については、加害を行った元施設長と監督責任を怠った法人が連帯して支払うという形で命じられました。

また、法人が事件後、原告の成育歴や親子関係などプライバシーが記載された文書を法人の関係者、賛助会員など100名以上に配ったことはプライバシーの侵害に当たるとして、性虐待の加害行為とは別途、法人に30万円の損害賠償責任があると認められました」


原告代理人の杉浦ひとみ弁護士(左)と坂本千花弁護士は揃って判決を評価した(8月26日 都内/弁護士JP編集部)

「非常に大きな意義がある判決だった」

同代理人の杉浦ひとみ弁護士は、判決を「非常に優れている」と評価。その理由を次のように述べた。

「障害のある方は、人との距離をうまく取れなかったり、優しくしてくれる人に近づきすぎてしまったりすることがあります。それに対して加害者は、誘ってきたと言ってくる。今回の判決では、障害のある方が親近感を抱いて支援者に接近することもあるが、それは性的なことをして良いと全て認めたわけではないということが書かれています。まさに障害のある方の特性について熟知した上での判断ではないでしょうか。

『(被害者が)誘ってきた』とか『同意があった』というような形で、加害行為の違法性自体がなくなってしまうケースは多いですが、今回のこの認定は非常に丁寧で、実態に即したものだったと評価しています」

坂本弁護士も、「性虐待は、密室でなされエスカレートしていくという大きな特徴があり、被害者に知的障害がある場合は被害の状況を的確に自分で訴えることができません。密室で起きたことで、録画や録音があるわけではないですが、証拠をもとに裁判所が丁寧に事実を認定してくれて、非常に大きな意義がある判決だったと感じています」と評価した。

裁判所が証拠として重要視したのは、和解前提で設けられた被告と原告代理人との会話の録音だったという。被告が事実を認めた部分について、判決の根拠になった。

また会見には、女性を支援し解雇・解任され名誉毀損訴訟の被告にもなった元理事と元職員が参加。元理事は「裁判にはならないがこの事件のようなケースが他にも起きていると聞いています。今日の判決で、勇気が与えられたのではないか。大事な判決を受けました」と語った。