令和元年に行われた厚生労働省の「国民健康・栄養調査」によれば、日本人の30代男性の平均体重は70キロ。ただ、これはあくまで平均の数値だ。例えば、体重を増やすことも仕事の一つである大相撲の場合、幕内力士の平均体重は161.7キロ(2023年・日本相撲協会発表)だった。
しかし、一般人でありながらこの数字を軽く上回る人物も存在する。自称“おデブモデル”として活動するカクコ氏(35)の体重は、なんと190キロ。まさに破格の巨漢である。今に至るまでどのような人生を歩んできたのか。本人の口から語ってもらおう。
◆中2の時点で100キロを超えていた
190キロ(身長183cm)もの体格を誇るカクコ氏だが、幼少期から飛び抜けて大きかった訳ではないらしい。それでも中学2年時点で100キロを超えたそうで、筆者のような“平均サイズの人間”からすれば十分大きいようにも感じるが……。大きな体を生かして中学は剣道、高校はラグビー、大学ではアメフトに精を出した。
「100キロを越えると0.1トンみたいな言い方もできますが、僕は特に感慨はなかったです。一気に太ったのは5〜6年前からで、120キロ→150キロ→180キロと、右肩上がりでどんどん増えていきました」
その時期は、医師に「うつ病」と診断されたタイミングと重なるそう。ストレスから心のバランスを崩し、仕事を辞めて生活スタイルも一気に変わった時期だった。
「一時はほぼニートでした。お金もなくてご飯も安く済ませようとすると、コスパよくお腹いっぱいになるには白米が一番なんです。当時は、朝起きたらまずご飯を5合炊いて、朝に卵かけご飯の大盛りを食べて、昼はチャーハンにして、夜はインスタントラーメンにご飯を投入するみたいな生活。1か月で消費する米の量は20キロ近くでした」
◆コンプレックスを“個性”として受け入れられるように
ルッキズムが強く非難される現代でも、まだまだ見た目に対する差別や揶揄は残っている。まして、平成や昭和の時代であればなおさらで、カクコ氏自身にもそういった思いがあった。
「太っているのはコンプレックスでしたね。子供のころはいじめられる対象になってしまい……。だから、電車や街中で誰かが笑っていたりすると、『自分が笑われているんだ』という被害妄想にとらわれることも多かったです。バカにされている幻聴も聞こえることもありました」
長年体型にコンプレックスを持ち、心の病気を経てさらに太ってしまう。こうなると、さらにネガティブな心持ちにもなりそうな状況ではある。
「インフルエンサーさんのオンラインサロンに入って話を聞いたり、本をたくさん読んだりした結果、『人と違ってもいい』という境地に達しました。そこから、太っている自分も受け入れられるようになって」
◆古いトイレの場合、便座が割れてしまうことも
現在は幸いにも太っていることを自身の個性として生きられるように。「日常生活で太っていて困ること」も明るく話してくれた。
「まずは服ですね。特にズボンは、またずれを起こしてすぐに破けてしまうので、あまり出歩かなかった時期でさえ、季節ごとに1本ズボンを新しく買っていました。なので、予備のズボンもいつもクローゼットにストックしてあります」
また、家探しにおいては、水回りを特に気にするというが、その理由は平均的な体重の人とは違うものだった。
「まず、お風呂ですが、一人暮らし向けの賃貸だと、僕のサイズで入れる湯船がないんですよ(笑)。それから、トイレの新しさは重要です。古めのトイレだと、便座が弱くて僕の重さに耐えきれず割れてしまうんですよね。実は、今住んでる家も、割れています(笑)」
トイレといえば、巨漢力士だったKONISHIKI(元・小錦)も「自分でお尻が拭けない」という説があった。カクコ氏の場合はどうだろう。
「今のところまだ大丈夫です。でも、少し太って200キロを超えると、お尻に手を伸ばした時に『あ、なんか遠いな』とは感じますね(笑)」
一般人には感じられない「お尻が遠い」という感覚は、やはり体重200キロの大台のなせる技のようだ。
◆食べ放題に行ったらテーブルに腹が圧迫され…
たくさん食べる人にとって、ガッツリ系の食事や食べ放題の店は、ありがたい存在のように思える。しかし、飛び抜けて太ってしまうと、もろ手をあげて「ありがたい!」とも言いにくいのだという。
「鳥貴族が、食べ飲み放題を安くでやってますよね。いいなと思って行ってみたんですが、椅子とテーブルが固定されてるんですよね。そうなると、たくさん食べてたくさん飲みたいのに、座った瞬間にテーブルでお腹が圧迫されて、開始前から苦しいんですよ(笑)」
さらに、ガッツリ系の代名詞とも言える二郎系ラーメン店も、同様の状況になってしまうとカクコ氏。
「カウンターの椅子が固定されているところが結構多くて、窮屈なので行く気持ちになれないんですよ……」
◆着替えのシャツは3〜4枚持ち歩く
長時間の外出になると荷物が増えるそうだ。
「仕方ないんですが、この見た目からして臭いと思われてしまうんですよ(笑)。なので、ボディーシートやスプレーも常に持ち歩いています。それに、汗はよくかくので、着替えのシャツは夏になるとカバンに3〜4枚入れて出かけますね」
1日の外出で大量のシャツを持ち歩くのはかなり面倒で大変だろう。さらに泊まりともなると、我々が聞いたこともない音を耳にすることも。
「カプセルホテルに泊まることもあるんですが、流石に上の段は頼まないようにしています(笑)。でも、古いカプセルホテルに泊まった時、下の段でも入った瞬間にカプセル全体から『バシッ!バシッ!』って変な音が聞こえてきて焦りました(笑)」
◆自分が「何キロだかわからない」
ここまで常軌を逸した体験をするほどの巨体を持つとなると、気になるのは健康診断の結果だが……。
「血糖値の高さを示す『HbA1c』という数値がやや高いんですが、それ以外は問題ないんです。去年の人間ドッグで、お医者さんに『悪いところはないんですが、ただただ太り過ぎです』って言われました(笑)」
単なる見た目の感想のようにも思えるが……。普段の生活で気をつけていることはあるのだろうか。
「家庭用の体重計で、一番重い重量まで測れるのが200キロまでのものなんです。流石に、自分の体重は把握しておかないとまずいと思うんですが、今は正直超えちゃってて。8月頭に体重を測って以来、自分が、何キロだかわからないです(笑)」
◆夢は「日本中の米を食べつくすこと」
現在では“おデブモデル”としても活動するカクコ氏に、最後に将来の野望を聞いてみた。
「モデルとしてのお仕事も少しづついただけるようになってきて、社会にも承認されていることを感じられるようになりました。今後は、もっと知名度を上げていきたいですね。あとは、とにかく白いご飯が好きなので、日本のお米を全品種を食べ尽くしたいです。全部で200〜250品種ぐらいあるうち、現状では65品種ぐらい食べています」
自身の体型について終始明るく語っていたカクコ氏。現在でも膨張し続けているのは驚きではあるものの、人よりも成長期が長かったと思えばなんてことはない。同じく規格外の人たちに勇気を与える存在として、末永く元気に活動してほしいものだ。
<取材・文/Mr.tsubaking>
【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。