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温暖化による氷河の融解は以前から憂慮されてきたが、この夏は各所で死者を出す事故につながる事態が目立っている。
◆アイスランドの氷河ツアーで死者
8月25日、アイスランドでガイド案内による氷河観光中だったグループ25人が、氷の洞窟の崩壊に遭遇。1人が死亡、2人が行方不明、2人が重傷を負う事態となった。
北緯63~66度に位置し、年間平均気温は5度というアイスランドでは、氷河は観光の目玉だ。氷河ハイキングに、氷河湖ツアー、氷の洞窟など楽しみ方も多岐にわたる。今回の事故が起こったのも、ヴァトナヨークトル国立公園南部ブライザメルクルヨークトル氷河で、人気の高いヨークルスアゥルロゥン氷河湖の近くだった。
◆1週間で4人登山家が亡くなったモンブラン
26歳と27歳のスペイン人兄弟が21日、モンブラン登山中に約350メートルの高さから転落して亡くなっている。彼らはロープを使った懸垂下降を試みていたが、用いた岩が耐え切れずに落ちた模様だ。
23日と24日には、モンブラン登山中だった52歳の男性が落石が原因で命を落とし、1週間で4人目となるモンブラン登山の犠牲者となった。
専門家らは、これらの事故は気候変動に関連するものと考えている。気温の上昇は、永久凍土に確実に影響を与えるからだ。年間気温0度以下の霜の層である永久凍土は、高い標高にある岩石の位置を保つ役割を果たしており、「山の回復力協会」創始者ヴァレリー・ポミエ氏は、これを「山のセメント」と呼んでいる。同氏によれば、温度の上昇により永久凍土が溶けた山は、「セメントが溶けて流れた壁のようなもの」だという。(BFMTV、8/24)
◆氷河は変化するもの
また、8月5日にはモンブランの標高約4100メートルの地点で、氷河内にあるセラックと呼ばれる大きな氷塊の崩落が原因で、1人が死亡、2人が行方不明、4人が負傷する事故が起きている。
地形学者リュドヴィック・ラヴァネル氏によれば、氷河の変形は自然の摂理によるものだ。たとえば、氷河の内部張力または温度変化が原因であるセラック(氷塊)の崩壊は、年に数回、最大で8回発生する可能性があるという。(ミディ・リーブル紙、8/6)
とはいえ、地球の温暖化によりそのリスクが高まっていることは確かで、そのため、しばらく前からモンブラン登山のガイドらは、登山時期は7月前半までの早い時期を、時間帯も早朝を推奨しているという。(Cnews、8/5)
◆加速する氷河の融解と住民への影響
モンブランの氷塊崩壊のリスクは、ここ数年、麓に住む住民の生活にも影響を及ぼしている。毎年のように、いくつかの氷河が特別監視下に置かれ、今夏もイタリアの一村には警報が出され、一部の道路が閉鎖された(フランス3、7/10)。
ちなみに、モンブランは、2021年から2023年の間に2.22メートル低くなっている。ただし、オート・サヴォワ県測量士会議所のジャン・デ・ガレ会長は、モンブランの標高は常に変動しており、5メートル以内の変化は通常の範囲内だと説明している(ル・ポワン誌)。
しかしながら、地球温暖化と相まって世界の氷河が減少傾向にあるのは事実だ。スイス自然科学アカデミーは、昨年9月に発表した研究成果の中で、スイスの氷河の融解の「劇的な加速」について詳述している。それによれば、スイスでは、2023年から遡る2年の間に、1960~1990年の30年間と同規模の氷河が溶けたという。(ル・モンド紙)
また、地球の気候状況に関する報告書を昨年発表した国連世界気象機関(WMO)も、「南極の海氷は記録上最低レベルに達し、ヨーロッパの一部の氷河の融解は、文字通り記録を塗り替えた」と述べている(20minutes紙)。