自分を“解放”する演技で魅了。長澤まさみが舞台にかける情熱

コメディからシリアスまで多彩な役を演じ分け、数々の話題作で存在感を放つ俳優・長澤まさみ。現在は活躍の場を舞台にも広げ、さらなる進化を遂げている。そんななか出演を決めたのは、野田秀樹率いるNODA・MAPの最新作『正三角関係』。ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』を入り口にした衝撃作で、松本潤と永山瑛太とともに三兄弟に指名され、
“男役”と“女役”の二役に挑む。舞台の裏側、そして今後チャレンジしたいことに迫る。


photo: Masayuki Ichinose〈eight peace〉
styling: Rena Semba
hair: ASASHI〈ota office〉
make-up: Kyohei Sasamoto〈ilumini.inc.〉
coat, necklace, scarf: GUCCI
コート¥528,000 ネックレス¥412,500 スカーフ[参考色]¥71,500(すべてグッチ/グッチ クライアントサービス)

── NODA・MAP作品は2021年の『THE BEE』以来、2度目の出演となりますが、野田秀樹さんの舞台ならではの面白さといえばどんなところですか?

仕掛けがたくさんあるので、ただ役を演じているだけというよりも、舞台装置の一部になったような気持ちになるのは独特だなと感じています。舞台が始まると、稽古で積み重ねてきた通りに身体が自動的に動いていくような感覚もあるので、それもいままでにない体験。そういう面白さと新鮮さを味わえるのが野田さんの舞台だと思います。

── 松本潤さんと永山瑛太さんとは兄弟役となりますが、現場での様子を教えてください。

お二人とも映像作品でご一緒したことがありますが、自分の道を進む長男の松本さんと、それを追う弟たちとしていい関係ができています。松本さんは“職人気質”なので、根がとても真面目で、決して妥協しない。それだけの高いモチベーションを持ち続けたまま第一線にいらっしゃる姿を見て、精神力の強さなど学ぶことが多いと感じています。一方の永山さんは、先輩ではありますが、同志のような感覚で向き合ってくださる方。舞台の経験も豊富ですし、話し合いながら臨機応変に進めていけるので本当にありがたいです。


ドレス[参考商品](プラダ/プラダ クライアントサービス)
photo: Masayuki Ichinose〈eight peace〉

── 一人二役となりますが、演じるうえでの難しさとは?

近頃は、二役以上を演じる機会が増えているので、特に身構えることもなくできている気がしています。とはいえ、もともと得意だったわけではありません。でも、知らず知らずのうちに身体に染みついてきた部分もあるのかもしれません。私にとって一番大切なのは、みなさんが作品を楽しめるように自分が物語に順応していくことだと考えています。

── 映像と舞台で、違いを感じる部分はありますか?

演じるための集中力はどちらも同じですが、舞台では「思い切りがよくていいね!」と褒めていただくことが多いので、これが私の武器だと思っています。おそらくそれは、“解放”みたいなことなのかなと。2011年に初めて舞台に立ったとき、劇作家の本谷有希子さんから「俳優はなんでこんな恥ずかしいことができるのか」と言われたことがありますが、そこで「ずっと恥ずかしいと思っていたけど隠さなくていいんだ」と目から鱗(うろこ)が落ちました。それ以来、のびのびと自由に演じていれば、人にも伝わっているのだと感じられるようになったので、舞台ではいかに解放できるかが自分の課題となっています。

── 東京を皮切りに北九州、大阪、さらにロンドンでの公演も控えていますが、いまのお気持ちは?

場所によって反応が全く違うので、どこも楽しみにしています。大阪は行けば行くほど好きになりますし、休演日には京都に足をのばせたらいいなとも考えているところです。ロンドン公演なんて、初めてですが、舞台の本場ですし、オープンに受け止めていただけるのではないかと期待しています。それまでは、日々をしっかりと積み重ねていくしかないですね。


今回の舞台では、三兄弟の純粋な三男・唐松在良と、奔放な女性・グルーシェニカという対照的な二役を演じ分ける長澤まさみ

── 舞台では体が資本になると思いますが、そのためにされているケアはありますか?

私だけでなく、共演者のみなさんも健康志向が強いので、お互いに情報交換をしながら体調管理に気を付けています。なかでも詳しいのは、松本さん。やっぱりスターは集まってくる情報量が全然違いますね(笑)。

── では、20年以上のキャリアを振り返ってみて、転機といえば?

私はどの作品に対してもそういうふうに思っていますし、沢山の作品に出演できていることにも感謝しています。舞台に関しては、「舞台出るんだって?」と毎回言われるので、いつも新鮮に受け止めていただけるのもある意味ラッキーだと考えているところです。

── 今後挑戦したいことがあれば、お聞かせください。

お芝居をより探究していきたい気持ちがどんどん強くなっているので、人と演じることについて話せる機会をもっと持ちたいです。以前はそういうことが苦手でしたが、最近はみんなで共有して作り上げていきたいと思うようになりました。プライベートでは、海外に住んでみたいですね。

NODA・MAP 第27回公演『正三角関係』
19 世紀ロシア文学を代表するドストエフスキーの最高傑作『カラマーゾフの兄弟』をモチーフに、野田秀樹が創り上げた新しい物語。舞台は、日本のとある時代、ある花火師一家の三兄弟を軸に展開する。三兄弟は、長男(松本潤)が花火師、次男(永山瑛太)が物理学者、三男(長澤まさみ)は聖職者。この長男と父親(竹中直人)が、一人の“女”を巡る三角関係を織り成し、“父親殺し”へと発展する……

作・演出:野田秀樹
出演:松本潤、長澤まさみ、永山瑛太、村岡希美、池谷のぶえ、小松和重、野田秀樹、竹中直人
東京公演:終了
北九州公演:9月5~11日(J:COM北九州芸術劇場)当日券販売あり
大阪公演:9月19日~10月10日(SkyシアターMBS)〈9月1日(日)正午チケット一般発売〉
ロンドン公演:10月31日~11月2日(サドラーズ・ウェルズ劇場)
https://www.nodamap.com/seisankaku/