「電車の中で吐しゃ物かかった…」“酔っ払い”による電車内の粗相 損害賠償請求「可能」も完全な“被害回復”は望めない?

深夜や早朝の時間帯、電車内で泥酔した人を見かけたことのある人も少なくないだろう。

日本民営鉄道協会が実施している「駅と電車内の迷惑行為ランキング」では、2016年度以降、「酔っ払った状態での乗車」が毎年10位以内にランクインしており、多くの人が酔客に迷惑しているようだ。

酔って騒いでいる程度であれば、まだ我慢できるかもしれないが、世の中にはもっと“質の悪い”酔客もいるようで、SNS上では「電車の中でゲロかけられた私はどうすれば、、、その時の服と革靴は全て捨てました」「めちゃ吐瀉物かかったのに謝罪もなく停車駅で降りていったんやけど」といった投稿がみられた。

法的な請求は可能だが…損害の範囲が争点に

電車内で、自分の服やかばんに他人の吐しゃ物がかかってしまった場合、その乗客に弁償を要求できるのだろうか。多くの法的なトラブルに対応する杉山大介弁護士は「こういうケースであれば、不法行為に基づく損害賠償請求が可能かと思います」とした上で次のように説明する。

「吐しゃ物をかける行為が、法的根拠なく他人の所有物の価値を毀損しているのは間違いないです。

故意であれば器物損壊などにもなりますし、過失だとしても、相手にかかるような吐しゃをしないことで被害を回避することが可能ですから、基本的に損害賠償は認められると考えられます」

ただ、実際に賠償請求を行う場合は、損害の“範囲”が争点になるという。

「民法では、不法行為によって生じた『賠償するのが相当な範囲の損害(法的因果関係がある損害)』という区切りを設けて、賠償を認めています。

吐しゃ物がかかってしまっているのですから、クリーニング代を要するのは当然のことと言えるでしょう。

ですが、被害を受けたことで、服やかばんが『全く使えなくなり、弁償を要する』という評価が常に認められるとは限らず、それが高額で色々と意味づけのある品だった場合も、どこまで賠償が認められるかは、議論が必要になる場面も多いです。

『失ったものを取り戻す』範囲に限って賠償が認められることと、回収にかかるコストを加味すると、被害者にとって“完全な被害回復”にはならないのが、日本の民法の限界でもあります」(杉山弁護士)

法的請求を行うために、把握しておくべき情報とは?

そもそも賠償請求したいと思っても、相手が酔っ払っていては会話にならなかったり、トラブルにつながったりする可能性もあるだろう。

そこで、吐しゃ物をかけられ被害回復を望む人が、その場で取るべき対応について杉山弁護士は以下のようにアドバイスする。

「とにかく連絡先と住所を確認しておくことが重要です。相手方に対して法的請求を行う場合、請求を行うのにかかるコストが大きいほど、被害回復の上限が下がってしまいます。

住所や氏名など、訴状に記載する情報はあってほしいですし、電話番号など住所に直結できる情報にも価値があります。

免許証などの画像を撮影しておけると、望ましいですね」

万が一のときはまず「駅係員に申し出て」

最後に、万が一こうした被害を受けてしまった場合、賠償を請求するかどうかはともかく、すぐにでも、その状況から脱したいものだが、駅で何らかの“救済措置”は受けられないのだろうか。

東京都心の“大動脈”で、利用者も多い東京メトロに聞いたところ「もしも車内や駅構内で吐しゃ物がかかってしまった場合は、駅係員にお申し出ください。お話を伺ったうえで、状況に応じた対応を実施させていただきます」(広報課)とのことだった。

他人の吐しゃ物が自分にかかるなどという目には遭いたくないものだが、万が一のときのためにも、こうした対処法を覚えておいて損はないだろう。