いろんな味の話を自由に味わいたくなる、クッキー缶のようなエッセイ集。

2014年に『生まれたときからアルデンテ』を刊行し、今も食にまつわるエッセイを様々な媒体に寄稿しているフードディレクターの平野紗季子さん。これまでの10年間の食エッセイをまとめた『ショートケーキは背中から』が2024年8月29日に発売に。まるでクッキー缶のようにいろんな味が詰め込まれたエッセイの数々は、どこから読んでも楽しむことができる。平野さんに、この本に込めた思いを聞いてみた。

「今回、タイトルに『ショートケーキは背中から』とつけたのは、ショートケーキは背中から食べた方がおいしいな、と元々自分なりに思っていたんです。固定観念にとらわれず、自分なりのものさしで食べると、同じものでも新しい味を発見するという喜びもあって、ずっとそうしていたんですよね。でも最近、信じられないくらいエアリーなショートケーキに出合って、背中から食べなくてもいいということに気づいたんです。自分が一回こうだと思ったことでも、軽やかに味の方が自分を追い越していくというか、そこにどんどん自由になっていく感覚があって。背中からでも真ん中からでもどこからでも自由に食べることで、新しい発見ができたりする。そんなふうに、”食べることって自由だよね”という思いを、今回のタイトルに込めました。だから、この本はどこから読んでもらってもいいし、自由に楽しんでほしいと思っています」

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こんな店があったということを、言葉にして残していく。

飲食店100店について書かれた「ごはん100点ノート」から、大好きなポテトチップスや旅先でのごはん、そして今の平野さんをかたち作った幼い頃の食体験にまつわる話まで、書き下ろしを含め、全124編のエッセイを収録。すでに閉店したレストランでの家族との思い出の話などもあり、読み手にとっては、東京の移りゆくフードシーンを回想できる楽しみも。

「店はいつまでもあるものではないんですよね。店を歴史にしていくことって、店に足を運ぶ私たち一人一人も少しずつ背負っている感覚が私にはあるんです。最初、この本をつくる時は、『ごはん100点ノート』を入れる予定はなかったんですが、途中から、入れたほうがいいかなと思って、入れることにしたんです。私は幼い頃から、店に行くと、必ずメモをとってしまうクセがあって。昔は食日記として、今はスマホのメモに書き留めています。一人でごはんを食べているときは、食べながらメモするのですが、ビリヤニを食べた時に”風だ”って思ったら、よくわからなくても”ビリヤニは風”と書き留めておくんですね。で、なんで風って思うんだろうと考えながら食べるんです。食べながら、考えて、言葉にするということを、ずっとやっているので、『よし、書こう!』と思って、いざパソコンに向かう時は、どうしてそう感じたんだろう、というふうに、体験を紐解いていく感覚で文章にしています。最初に何も感じられなかったら、後から何も書くことがない、何を書いても嘘になるというのが自分の中にあって。最初にどこまで感じられるかな、というのが大切なんですよね。後からメモを見ると、21:39とあって、あ、ちょうどごはんを食べ終わった時間だったんだな、と思い出したりできるのも、スマホのメモならではですよね」

日本の店だけでなく、デンマークの『』、ニューヨークの『』、韓国の『』など、海外のレストランにまつわるエッセイも。

「海外のシェフたちと交流していると、『日本食って、なんて素晴らしいんだ!』と言われることがよくあります。発酵文化や懐石料理をはじめとした、日本の食文化に興味がある方も多く、私自身も日本の食文化をもっともっと学んでいきいたいという思いが強いです。今後、ずっと先になるかもしれないですが、日本の食文化を海外の方たちへと繋げられるような仕事をしていけたらいいなと思ったりもします。”和食ディーバ”的な……?(笑) いや、マジで意味わからないですね、和食ディーバは(笑)。海外では、ガストロノミーツーリズム領域で修士課程を取れる大学院もありますし、そういったことにも最近は興味があります」