塩味のタルティーヌ:フェタチーズ、フェンネル、菜園の花
「甘いタルティーヌはどお?」と聞かれ、「うれしい!」と答えたら、塩味と甘いタルティーヌの2つを出してくれました。パリで食べるサンドイッチやタルティーヌは、シンプルに定番の素材を組み合わせていたり、サンドイッチの中に一つの宇宙を感じるくらいに工夫を凝らしていたり、軽食ではなく料理として完結していて、そのおいしさにふぅぅとため息をつくことが多いです。書き留めておきたいポイントがいくつもあり、文字だけではメモが追いつかず、スケッチメモを取るようになったほどですが、この朝出てきたタルティーヌには、首に紐をひっかけ画板を下げて菜園に出たくなって(画板という言葉を思い出した自分にも驚きました)、「言葉で書いておくことはほとんどないぞ」と思いました。
菜園を散歩すると、タイムやラベンダーの脇を通ったそばから、彼らの香りが後から追いかけてきて、思わず振り返ることがたびたびです。わたしは、いつも生産者さんから直接、マルシェで野菜や果物を買うので、ハーブや香りの強い野菜の野生味ある色や葉の厚みを日常的に見ているほうだと思いますが、その経験値では判断しかねる逞しい成長具合の野菜がところどころにあって、そのたびに葉を触り、匂いを嗅いで正体を掴もうとしていると、指先が天然の香りでコーティングされるんです。塩味のタルティーヌに散らばったフェンネルの葉に、そのことを思いました。さりげない、その軽やかさは、まだ気温がそこまで上がっていない初夏の朝にピッタリでした。
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甘いタルティーヌ:ブロッチュ(コルシカのチーズ)、ブルーベリー、白スグリ
そして甘いほうのタルティーヌ。こちらには、フェンネルの花が散らしてありました。タイバジルの爽やかさとハチミツでマリネしたベリーの甘酸っぱさが、コルシカのブロッチュと一緒になったことで途端に、気分が夏休みモードに切り替わり、しばしぼーっとしていたようです。気づいたら出ないといけない時間を過ぎていて、帰りの電車に乗り遅れそうになったほど。
【今回のスケッチメモ】
次回は淡いトマトに、なすのマリネを使ったタルティーヌの便りをお届けします。お楽しみに!
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『Le Doyenné』
木金12:00〜19:00 土日12:00〜22:00 月火水休 0658802518
ledoyennerestaurant.com/fr/home-2
文筆家 川村 明子
パリ在住。本誌にて「パリのサンドイッチ調査隊」連載中。サンドイッチ探求はもはやライフワーク。著書に『パリのパン屋さん』(新潮社)、『日曜日は、プーレ・ロティ』(CCCメディアハウス)などがある。Instagramは@mlleakiko。Podcast「今日のおいしい」も随時更新。朝ごはんブログ再開しました。