生命保険文化センターによると、日本ではおよそ9割の世帯がなんらかの保険に加入しているそうです。一方、商品性をきちんと理解しないまま“なんとなく加入している”という人も少なくありません。なかには、過去の自分の選択を後悔する人も……具体的な事例から詳しくみていきましょう。FP事務所ストラット代表の伊豫田誠氏が解説します。
なにかの間違いじゃないか?…「10年前の自分」への後悔
「悔やんでいます。あのとき、もっと慎重に考えていたら……」
悔しそうにそう話してくれたのは、現在60歳の男性Sさんです。Sさんは先日、無事に定年を迎えました。
大学を卒業後、都内の中堅メーカー企業で働いたSさん。これまで仕事一筋で頑張ってきた分、定年後はいろいろなことを経験してみたいと考えていた彼は、地方移住も検討しているとのこと。そこで、退職金を含めてこれから自分が使えるお金を把握しようと考えたそうです。
「あっ、そういえば……」
ここでSさんは、10年ほど前に老後資産形成のため加入した「変額保険」のことを思い出しました。当時、変額保険は「投資と保障が一体化した魅力的な商品」と紹介され、Sさんもその説明に惹かれたといいます。
当時のSさんは「将来の資産形成と保障が同時に実現できるなんて……入っておいて損はなさそうだな」と考え、保険販売員の言うとおりに加入。多額の保険料を払い続けていたのでした。
「これまでなかなかの額を払ってきたからな。けっこう貯まっているんじゃないか?」
期待に胸を膨らませながら、担当の保険販売員に連絡して解約返戻金のシミュレーションを作成してもらいました。すると……
「えっ、なんだこれ……たったこれだけ!? ちょっと、なにかの間違いじゃないか?」
いま解約すると「大損」することに
保険の解約返戻金シミュレーションをみたSさんは愕然。10年前、深く考えることもなく変額保険に加入したことを強く後悔しました。
Sさんが加入した変額保険の簡単な内容は下記です。
・毎月5万円の保険料15年満期死亡保障2,000万円
・65歳満期時900万円払込3%~6%運用の場合満期受取金約900万円~1,100万円
加入から10年経った60歳時点の運用結果と、このペースで65歳の満期になった場合は下記になります。
・60歳時点600万円払込運用結果560万円(約3%)解約返戻金450万円
・65歳時点900万円払込運用結果900万円(約3%)満期受取金900万円
加入当初、Sさんは家族に万一のことがあった場合のために手厚い保障を用意する必要があると考えました。しかし、年を重ねるにつれて、子供たちは自立し、経済的な負担は軽減されていきました。
また、思っていたよりも運用結果は低く、満期時でも払込金額より増えない可能性があるばかりか、60歳時点で解約すると大損失となるため、資金を他に回すこともできなくなってしまったのでした。
(広告の後にも続きます)
Sさんが気づいた自らの過ち
ここでSさんは、変額保険の高額な死亡保障が過剰であることに気づき、本来であれば、老後に向けて保障額を減らし、その分をもっと効率が良い積み立てに回すことができたかもしれないと考えるようになりました。
結果として、彼は多額の保険料を支払い続けることになり、老後の生活資金を十分に確保できなかったのです。変額保険の特性上、運用成果に左右されるため、安心できるような資産形成も難しくなっていました。
Sさんは、「もっと慎重に考えて保険に加入していたら、柔軟に資金を使うことができたのに」と涙目です。