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 絵葉書としても有名な風光明媚なスイスの湖4ヶ所に、軍が演習用で投下した、あるいは廃棄した武器弾薬が眠っていることが明らかになった。問題なのは、この弾薬が爆発する可能性があるうえに、安全な回収方法が見つかっていないことだ。政府は、市民にアイデアを公募すると発表した

◆湖の底に不発弾、最大4600トン

 スイスのルツェルン湖、トゥーン湖、ヌーシャテル湖は918年から1964年までの約50年間、スイス軍が使用した武器弾薬の廃棄場となっていた。

 ヌーシャテル湖に4500トン、トゥーン湖に4600トン、ルツェルン湖に3300トン、ブリエンツ湖 (アルプス山麓)に280トンの武器弾薬があると推定されている(スイスインフォ、8/12)。

 現在のところ、湖から武器弾薬を安全に回収する方法は確立していない。そのため、スイス国防省は、武器弾薬を回収する方法について一般公募を実施すると発表した。来年2月までの間、市民はアイデアを提出することができ、専門委員会によって匿名で審査される。

 優れた3つのアイデアには、賞金合計5万スイスフラン(約860万円)が贈られる。発表は来年4月予定になる。

 連邦政府としては異例の取り組みで、政府は「応募作品をすぐに実施する予定はないが、さらなる解明や研究プロジェクトの立ち上げの基盤となる可能性はある」としている。

◆高コストとリスクで回収断念した過去も

 スイスインフォによると、軍は1930年代以降、ヌーシャテル湖を空中射撃場として使用し、戦闘機が練習用の弾薬を投下していた。この訓練が中止されたのは2021年のことだ。

 水深150メートルから220メートルにある弾薬もあるが、ヌーシャテル湖にある弾薬は水面下わずか6、7メートルの位置にある(BBC、8/18)。

 2012年に、連邦政府は人体や環境への危険性はないと判断し、高いコストとリスクを理由に、武器弾薬の引き揚げを断念した。しかし、自然保護団体は、金属が時間とともに水を汚染する可能性があると懸念している。また、爆発のリスクもあり、議員からこの問題に取り組むよう要請する声が高まっている。(スイスインフォ)

 BBCによると、この問題について政府に助言していた地質学者(すでに引退)マルコス・ブーザー氏は、10年前にこの投棄の危険性を警告する研究論文を書き、武器弾薬は2つのリスクをもたらすと指摘した。まず、水中であるにもかかわらず、爆発の危険性がある。軍が多くの場合、投棄前に弾薬の作動装置「信管」を取り外さなかったからだ。もう一つが、水と土壌への汚染だ。毒性の強いTNT(弾薬の原材料トリニトロトルエン)が湖の水や堆積物を汚染する可能性がある。

 政府は、視界の悪さ、鉄の強い磁性作用、個々の弾薬の重さなどの要因が「環境に優しい武器弾薬回収の大きな課題になっている」と認めている。

 2005年の評価では、武器弾薬の回収にはいくつかのリスクと課題があった。政府は「当時提案されていた弾薬回収の解決策はすべて、大規模な汚泥の乱流を引き起こし、湖の繊細な生態系に高いリスクをもたらすものだった」と明らかにしている。また、水没した弾薬が厚さ2メートルにも及ぶ細かい堆積物層に覆われていることも課題の一つだったと言う。

◆アルプス氷河や山にも不発弾発見

 気候変動の影響で後退しつつあるアルプス氷河上でも、氷が溶けることによって、数十年前に行われた高地トレーニングで使用された使用済み実弾が発見されている。3年前、軍はアルプスのミトルツ山に埋められたままの3500トンの不発弾が安全ではなかったことを明らかにし、撤去すると発表した。住民は作業が行われる間、最長10年間家を離れる必要がある。(BBC)

 軍は先日、スイスの田舎で不発弾を発見した市民からの通報が2023年、前年より12%増加したことを明らかにしている(同)。