朝のバスにいる迷惑な“おしゃべり老人”。誰も注意できずにいたが…意外な人物が「解決」するまで

 バスや電車などの公共交通機関では、時折迷惑行為に遭遇することがあります。イヤホンから漏れる騒音や、非常識な座席の座り方などはよく見かける光景ではないでしょうか。今回は、朝の通勤バスで起きた少し変わった迷惑行為のエピソードです。

◆毎日同じバスに乗ってくる老人

 建築設計事務所で設計士をしている大村さん(仮名・36歳)は、自宅近くの停留所から毎日同じ時刻のバスを利用して、事務所のある都内某所まで通勤しています。

「ここ半年くらいでしょうか。毎日決まった停留所から白髪の老人が乗車してくるようになりました。通勤時間帯ということもあり、結構車内は混雑していて、その老人はいつもバス後方の手すりに捕まり、私が降車する1つ前の停留所で降りていきます。時にはその老人に席を譲る乗客もいるようですが、おおかたの乗客はバスの適度な揺れの中で心地よい眠りについていて、老人の存在に気づいていない人もいるようです」

 ところが、最初の頃はおとなしく手すりにつかまっていた老人が、いつの頃からか周囲の乗客に大声で話しかけるようになったといいます。

「乗車してしばらくしてうとうとし始めた頃、後方から老人の大きな話し声が聞こえてきました。何やら目の前に座っている若者に話しかけている様で『あなたはどのようなお仕事ですか?』とか『東京の朝はいつも混みますね』など、たわいもない会話でしたが、若者は終始下を向いて目を閉じていたように見えました」

◆とうとうその老人にロックオンされた

 そんなある日、朝一から重要なコンペを控えていた大村さんは、いつものようにイヤホンをつけ、膝の上に置いたノートパソコンに目を通していました。すると、いつもはバス後方付近にいるはずの老人が大村さんの方に近寄ってきたそうです。

「老人が近寄ってきていることはわかっていましたが、今さら寝たふりもできず、何よりコンペの確認に追われていたので、心の中で話しかけられないようにと祈っていました。でも、やっぱり老人は私にたわいもない話を語り始めました」

 本来であれば席を譲るべきなのはわかっていても、ノートパソコンでの作業もしたい大村さんは、心を鬼にして老人を無視したといいます。

「私が作業に集中すればするほど、老人はいろいろ話しかけてきました。私は、老人の声が耳に入らないようにイヤホンの音量を最大限に上げました」

◆突然響き渡った女子高生の声

「おじいちゃん!私、席を変わりますからこちらへどうぞ」。しばらくして、前方の座席に座る女子高生が、いきなり老人のほうを向いて声を上げ、周囲にいた通勤客は一斉に彼女に視線を向けました。

「思わず手を止めて声のする方へ目をやりました。たぶん、彼女も毎日このバスに乗車していたはずです。彼女は私より前にある始発の停留所から乗ってきているはずです。だから、いつも前方の席に座っているのは知っていました」

 彼女の甲高い声に老人も驚いた様子で、キョトンとした表情で前方の席へ歩み寄りました。相変わらずバスの車内は静まり返り、乗客の視線は前方の席に注がれていました。

「おじいちゃん、ごめんなさい。私、いつもヘッドホンをしていて何も気づかなくて。通勤で乗車している人たちは、みんな朝のこの貴重な時間でお仕事したり、寝不足を解消したりしているのだと思います。だから、おじいちゃん、これからは乗車したら真っ先に私のところへ来てください」

◆静けさを取り戻した通勤バス

 女子高生の勇気ある行動に自分の情けなさを感じた大村さんは、老人に席を譲り、中程の吊り革に捕まって立っている女子高生に歩み寄って謝ったそうです。

「いやあ、全く恥ずかしい限りです。降りる少し前に彼女のそばまで行って『自分が席を譲るべきでした。大人気ない自分の行為を反省しています。すみませんでした』と、少し硬めな口調で彼女に伝えると、『いえ、私はただの学生ですし、日々お仕事でお疲れの皆さんは、通勤バスでのつかの間の休息は必要だと思います』と返され、ますます立場がなくなりましたよ」

 その会話は、他の乗客たちにも聞こえていたようで、皆一様にうなずいているようでした。それ以来、老人が乗車してきた後は、皆競うように席を譲るようになったといいます。もちろん、老人の大きな声でのおしゃべりも耳にすることはなくなりました。

<TEXT/ベルクちゃん>

―[カスハラ迷惑客を成敗]―

【ベルクちゃん】

愛犬ベルクちゃんと暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営