不動産価格の高騰が止まらない今、「できれば安くなる時を狙って買いたい」というのは、マイホームを希望している人の多くが願っていることでしょう。しかし、そんなことは実際に可能なのでしょうか? 今回は、不動産コンサルティング会社〈さくら事務所〉の創業者である長嶋修氏と〈さくら事務所〉の共著『マンションバブル41の落とし穴』(小学館)から一部抜粋し、不動産価格が下がるタイミングと買い時についてご紹介します。
東京都心3区の不動産価格は日経平均株価と相関関係にある
どうせ不動産を買うなら、なるべく安いときに買いたいところですが、現段階で不動産価格が下がるタイミングを予測するのは困難です。逆に、インフレ・円安による資材価格の値上がりや、人手不足に起因する人件費高騰など、2024年以降も不動産価格が上昇する要因はいくつもあります。
日本の不動産価格の指標となる東京都心3区の不動産価格は日経平均株価と強い相関関係にあり、日経平均株価の変動に半年ほど遅れて、同様の動きを見せる傾向があります。
株価には、上場企業の業績のほかに日本の景気動向、米国株や米国経済の動向、金利水準、為替動向、国内外の経済政策、世界情勢の影響などが複合的に反映されます。2008年のリーマン・ショック後、日経平均株価はバブル後最安値の7,000円割れという底値を記録しましたが、以降は一時的なショックによる落ち込みや、もみ合いの期間を挟みつつも上昇してきました。
2012年の年末に民主党内閣から自民党の第二次安倍内閣に政権が移り、当時の安倍首相が掲げた経済政策「アベノミクス」によって株価はダイナミックに上昇。この株価回復のタイミングは、今日に至るまでの不動産価格上昇の起点とおおむね重なっています。
過去を振り返ると、ここ30年ほどの間で株価が特に大きく下落したのは、平成バブルの崩壊後と、2008年のリーマン・ショック後です。どちらも歴史に残る有事であり、経済に対する打撃も甚大だったことから、株価は長期的に低迷しました。株価ほどではないものの、不動産価格もやはり値崩れしています。
リーマン・ショック級のリセッション(不況)が起きれば、買い手も守りに入るので、不動産が売れなくなるのは必然でしょう。直近では、2020年の2〜3月にかけて株価が大暴落したコロナ・ショックが記憶に新しいですが、それでも値下がりにはつながっておらず、未曽有(みぞう)の事態でも持ちこたえられるほど、好立地不動産には底力があることを示しました。
今後、リーマン・ショック級のリセッションが発生すれば、不動産価格は下がるでしょう。あまり考えたくないことですが、そのきっかけとなるのは首都直下地震かもしれませんし、日本や米国を巻き込む大規模な戦争かもしれません。いずれにしろ、予測は不可能です。
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不動産価格が下落するタイミングを狙うのが難しい理由
余談ですが、日本は毎年のように地震などの自然災害に見舞われる宿命を背負っています。首都直下地震や南海トラフ地震もいつ発生するかわかりません。にもかかわらず、海外の投資家が東京などで不動産投資に前向きであることについて、不思議に思う人もいるでしょう。
海外の投資家も、もちろん日本という国に自然災害がつきものであることを認識しています。しかし、それを差し引いても、日本は世界のなかでカントリーリスクが低い国と目されており、そこまで災害リスクを警戒していない投資家も多いのが現状です。
日本は外国人であっても日本人と同様に、土地の所有権を取得できます(自衛隊基地や原子力発電所といったエリアの周辺を除く)。諸外国には外国人の不動産購入について規制を設けているところも多いため、その意味でも日本は海外の投資家にとって、不動産投資をしやすい国なのです。
話を不動産価格に戻しましょう。不動産価格が下落するのは、株価が大幅に下がる金融危機の発生後、一拍置いたタイミングです。しかし、そこに狙いを定めて不動産を買いに行くというのは、かなり難しいでしょう。
人によって不動産を買いたい時期、買えるようになる時期はバラバラです。ちょうど頭金が貯まって家を買いたいと思っていた時期に、不動産価格が下がればラッキーですが、金融危機の最中で自分の勤務先が倒産するなど、不動産を買うどころではなくなる可能性もあります。いつ起こるかわからない金融危機に合わせて、物件を探したり資金を準備したりすることはできません。
本当にマイホームを必要としていて、ニーズに合った物件が手の届く範囲で見つかったなら、多少高くても、それがその人にとっての「買い時」と考えましょう。
長嶋 修
さくら事務所 会長