アドマイヤマーズが大活躍の理由は? 注目の「新種牡馬産駒の特徴」を解説

 日本の競馬は“パリミュチュエル方式”が採用されています。これは簡単に言えば、売上から主催者が一定の割合で控除したあと、残ったお金を的中者で分け合うシステム。人が買っていない馬券を当てた方が儲かるということです。

 したがって、他の人が気付いていない情報や傾向を敏感に察知できれば、勝率はグンと高まります。例えば、新潟直線1000mは圧倒的に外枠有利なコースとして知られていますが、2001年に直線1000mコースが新設されてから早い段階でこの傾向を察知した人は大儲けできたことでしょう。

 人より一歩先に傾向を見抜く重要性。その最たるものが新種牡馬ではないでしょうか。種牡馬の能力や適性は、実際に産駒が走ってみないとわかりません。競走成績通りの能力を産駒に伝えられているのか。得意条件はどこなのか。情報が行き渡る前に傾向を見抜くことができれば、予想に有効活用することができます。

 そこで、開始から3ヵ月が経過した2歳戦における新種牡馬の成績を検証してみたいと思います。

◆スタートダッシュに成功したアドマイヤマーズ

 まずは主な新種牡馬の成績をご覧ください。

※成績は8月30日現在。左から種牡馬名、着別度数、勝率、連対率、3着内率

・アドマイヤマーズ 8- 5- 3-17/33 24.2% 39.4% 48.5%

・サートゥルナーリア 8- 3- 3-20/34 23.5% 32.4% 41.2%

・ナダル  4- 5- 1-19/29 13.8% 31.0% 34.5%

・タワーオブロンドン 4- 4- 3-27/38 10.5%21.1%28.9%

・モズアスコット 4- 3- 2-12/21 19.0% 33.3% 42.9%

・ウインブライト 3- 1- 6-39/49 6.1% 8.2% 20.4%

・シスキン  2- 1- 0- 1/ 4 50.0% 75.0% 75.0%

・ゴールドドリーム 2- 0- 0- 7/ 9 22.2% 22.2% 22.2%

・ルヴァンスレーヴ 0- 2- 2-24/280.0% 7.1% 14.3%

・フィエールマン 0- 2- 0-23/25 0.0% 8.0% 8.0%

 ここまで8勝2着5回で新種牡馬のトップを走っているのがアドマイヤマーズ。大本命サートゥルナリアも同じく8勝を挙げ、前評判に違わぬ活躍をみせています。この2頭の8勝という数字は種牡馬全体でみても9勝を挙げているエピファネイアに次ぐもので、まずはスタートダッシュに成功したとみていいでしょう。

 アドマイヤマーズのお父さんダイワメジャーといえば、「雄大な馬体と豊富な前進気勢」が特徴でしたが、春に牧場を取材した際には「お父さんの良いところを“適度に”受け継いでいて……」という感触でした。実際、ここまで33走していますが、420kg〜439kgで4勝2着1回とコンパクトな馬体でもしっかり走れています。

 その一方で、33走中15走が初角を3番手以内に通過しており、現代競馬に必須な先行力をしっかり兼ね備えている様子。大き過ぎず、適度な前進気勢があることが2歳戦から走れている要因かもしれません。

 特筆すべきは未勝利戦での強さで、これまでの成績は5-0-2-1。着外の1頭も6番人気4着の好走でした。デビュー戦の反動よりも前進を期待していいタイプに見受けられます。

 デビュー済みの注目産駒はエンブロイダリー。三代母にビワハイジを持つ良血です。新馬戦は先行するミリオンローズ(この馬も強い!)を捉えきれなかったもののメンバー最速の上がり33.2秒を記録。続く未勝利戦は後続に1.1秒をつける圧勝でした。来春の牝馬クラシック路線での活躍が大いに期待できる素質馬です。

◆満遍なく勝ち上がり馬を出しているサートゥルナーリア

 サートゥルナーリアは兄にエピファネイア、リオンディーズと2頭の種牡馬を持つ、今年の新種牡馬リーディングの大本命です。既にジェゼロ、クライスレリアーナと牡牝の大物候補を送り出し、順風満帆といったところでしょうか。

 注目データは生産牧場別成績。前記の2頭はノーザンファームの生産馬ですが、実はノーザンファーム生産馬はここまで2-0-1-5という成績で、勝っているのはこの2頭だけ。勝ち上がった残りの6頭はノーザンファーム“以外”の生産馬なのです。6頭の生産牧場は全て異なっており、要するに7牧場から勝ち馬を送り出しているということ。これは種牡馬としての能力の高さを裏付けています。予想するうえでは、過小評価されがちな“ノーザンファーム以外の生産馬”に注目したいところです。

◆ダート替わりで狙いたいナダル産駒

 2歳戦開幕から3週で3勝2着2回と猛威を振るったナダル産駒ですが、その後は23戦して1勝という急ブレーキ。ただ、ナダルはダートが主体のアメリカ競馬で活躍した馬です。牧場取材時の評判がすこぶる良く、「ダート向きだと思うけど、軽さがあるので芝でもやれそう」というコメントを何度も耳にしました。それだけに、“本来はダートに適性があるのに、調教で動けてしまっているから芝を使われている”という馬も少なくないでしょう。

 実際、世代最初のダート戦となった6月15日の東京5Rではナダル産駒がワンツー。8月17日の中京6R(ダート1800m)を制したクァンタムウェーブは、ダートでかなりの出世が見込めそうです。予想的にも、ナダル産駒のダート替わりには目を配っておきたいですね。

◆シスキン産駒、7頭中2頭が早くも勝利!

 2-1-0-1という成績を残しているシスキン産駒にも注目。実はアクシデントにより途中で種付けを中止したため、初年度に血統登録されたシスキン産駒は7頭しかいません。そのうちの3頭がデビューして、既に2頭が勝利を挙げているのです。高打率ですね!

 そして今週、4頭目のシスキン産駒がデビューを予定しています。その馬の名はグロスビーク。母系にエアグルーヴの名前がみえる名血で、鞍上は名手ルメール。3頭目の勝ち上がりを期待せずにはいられません。

◆苦戦を強いられるルヴァンスレーヴとフィエールマン産駒

 思わぬ苦戦を強いられているのがルヴァンスレーヴとフィエールマンでしょう。それぞれ28走、25走してまだ勝ち馬が出ていません。

 ルヴァンスレーヴは2018年のJRA賞最優秀ダートホース。ただ、牧場取材の感触は「父はダートの活躍馬だが、産駒は芝でも」という評価でした。実際、産駒の成績は芝:0-1-1-12、ダート:0-1-1-12となっています。複勝回収率は芝314%、ダート310%。好走確率自体は高くないものの、大穴種牡馬の素養があるかもしれません。

 フィエールマン産駒はここまで0-2-0-23という成績。フィエールマン自身、3歳1月という遅めのデビューで、菊花賞&天皇賞(春)連覇の実績を考えても、産駒が本領を発揮するのはこれからでしょう。着外23回のうち4着、5着が9回あります。これらの馬が上昇していくかが、成長曲線を測る指標になるでしょう。

 個人的には、春に牧場で取材したダノンセンチュリー(父フィエールマン、母シャンブルドット)は大物と見込んでいます。既にトレーニングセンターで研鑽を積んでいるので、デビューの際には注目してみてください。

◆今週末注目の新種牡馬産駒

 他にもウインブライトやモズアスコットなど、気になる新種牡馬はいますが、紙幅の関係もあるので、また機会を改めて触れられればと思います。

 最後に、今週末に出走を予定している注目の新種牡馬産駒を挙げておきます。

・土曜中京2R カロローザ(ナダル産駒)

コンパクトな馬体で芝でも走れるナダル産駒。雨予報も良さそう。

・土曜中京5R サンライズグラシア(サートゥルナーリア産駒)

春の取材で管理する矢作調教師も高評価。社台ファーム産。

・日曜札幌1R シャインローザ(アドマイヤマーズ産駒の未勝利戦)

新馬戦10着→未勝利戦4着と上昇中。鞍上の桑村騎手も魅力。

・日曜新潟5R グロスビーク(シスキン産駒)

本文でも紹介した貴重なシスキン産駒。調教も良く、新馬勝ちを期待。

文/松山崇

【松山崇】

馬券攻略誌『競馬王』の元編集長。現在はフリーの編集者・ライターとして「競馬を一生楽しむ」ためのコンテンツ作りに勤しんでいる。